未来の職種:AIとの協働でIVFの成功率を高める胚培養士
体外受精(IVF)の需要が急増し、胚の正常な培養を検査・監視する胚培養士が不足している。AIを用いて胚の状態を予測し、着床が成功しそうなものを迅速に選ぶことで、より早く妊娠し、赤ちゃんが生まれる確率を改善できる可能性がある。 by Amanda Smith2025.10.27
- この記事の3つのポイント
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- 不妊治療需要の急増で胚培養士が深刻な人手不足となり、現在の胚評価プロセスには時間とコストがかかっている
- フェアティリティ社のAIアルゴリズム「CHLOE」が胚評価でFDA承認を受けた初のAIツールである
- AIにより胚培養士は書類作業から解放され胚研究により集中できる環境への変化が期待される
胚培養士は、体外受精(IVF)の舞台裏で活躍する科学者である。胚の発育と選択を監視し、移植の準備をして、ラボの環境を維持している。胚培養士は数十年にわたってIVFにおける重要な役割を担ってきた。近年、不妊治療への需要が急増し、クリニックが対応に苦慮する中、その仕事は格段に忙しくなっている。実際、米国は胚培養士と遺伝カウンセラーの両方で深刻な人手不足に直面している。
ベテラン胚培養士でIVFラボの所長を務めるクラウス・ウィーマーは、人工知能(AI)が、胚の健康状態をリアルタイムで予測し、ラボの生産性向上の新たな道筋を開くのに役立つと考えている。
ウィーマーは、IVFを進める前にAIを使用して卵子と胚の生存能力を明らかにするフェアティリティ(Fairtility)のCSO(最高科学責任者)兼臨床業務責任者である。「CHLOE(クロエ、Cultivating Human Life through Optimal Embryos)」と呼ばれる同社のアルゴリズムは、数百万の胚データポイントと結果を用いて訓練されており、患者の胚を迅速に選別して、着床成功の可能性が最も高いものを臨床医に示すことができる。同社によると、CHLOEを用いることで、妊娠までの時間を短縮し、赤ちゃんが生まれる確率を改善できるという。CHLOEの有効性はこれまで遡及的にのみ検証されているが、胚評価でFDA(米食品医薬品局)承認を受けた初の、そして唯一のAIツールである。
現在の課題
患者がIVFを受ける際の目標は、遺伝的に正常な胚を作ることである。胚培養士は各胚から細胞を採取し、外部の遺伝子検査に送る。この生検の結果が出るまでに最大2週間かかり、この過程により治療費に数千ドルが追加される場合もある。さらに、スクリーニングを通過することは、胚が正しい数の染色体を持っていることを意味するだけで、必ずしも全体的に健康な状態であることを意味するわけではない。
「胚には1つの特異的な機能があります。それは分裂することです」とウィーマーCSOは言う。「胚細胞分裂、細胞分裂の特徴、内細胞塊の面積と大きさ、そして栄養外胚葉(将来の胎盤に寄与する層)が収縮する回数に関して、数百万のデータポイントがあります」。
AIモデルにより、胚のグループを発育の各段階で最適な特徴と常に比較測定することが可能になる。「CHLOEは、その胚がどの程度よく発育したか、そして健康な着床を実現するために必要なすべての構成要素を持っているかに答えてくれます」。CHLOEは胚内で実施されたすべての分析を反映するAIスコアを生成する。
ウィーマーCSOによると近い将来、IVFクリニックは生検をしなくても患者に移植する異常胚の割合を減らせるようになるという。「すべての胚培養ラボが胚の発育を自動評価するようになるでしょう」。
変化している現場
動物科学でキャリアを始めたウィーマーCSOは、動物胚学と人間胚学の違いは書類作業の量だと言う。「胚培養士は時間の40%を胚学以外のスキルに費やしています。AIにより胚学分野を整理し、真の科学者に戻ることができるでしょう」と語る。つまり、胚の研究により多くの時間を費やし、正常に発育していることを確認し、新たに得られたそうした情報をすべて使って、移植する胚をより上手に選択できるようになるということだ。
「CHLOEはラボで胚選択を支援し、状態が最適であることを確認し、患者と臨床スタッフにレポートを送信するバーチャル・アシスタントのようなものです」とウィーマーCSOは言う。「データを研究し、胚発育に何が影響するかを調べることは非常にやりがいがあります。このようなことは数年前にはできませんでしたから」。
筆者のアマンダ・スミスは文化、社会、人間的関心、技術について報告するフリーランスジャーナリスト兼ライターである。
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- amanda.smith [Amanda Smith]米国版
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