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投資減少に相次ぐ倒産…
正念場の炭素除去産業、
生き残るカギは?
John Moore/Getty Images
気候変動/エネルギー Insider Online限定
What’s next for carbon removal?

投資減少に相次ぐ倒産…
正念場の炭素除去産業、
生き残るカギは?

5000万ドルを調達した企業が倒産し、ベンチャー投資は13%減少。炭素除去産業は「誇大広告の時期」を過ぎ、淘汰の波に直面している。業界関係者は、政府による支援と政策が生き残りのカギだと指摘する。 by James Temple2025.10.30

この記事の3つのポイント
  1. ランニング・タイドが5000万ドル調達後に事業停止し、二酸化炭素除去産業で最大の倒産事例となった
  2. 2020年代初頭に気候変動対策として注目された炭素除去分野は、政府支援不足により成長が鈍化している
  3. 政府による資金提供や排出量取引制度への統合なしには、必要な規模への拡大は困難との見方が支配的
summarized by Claude 3

2020年代初頭、米国メイン州ポートランドにあるほとんど無名の水産養殖企業が、自然を利用して気候変動に対抗する計画を売り込み、5000万ドル以上を獲得した。この企業、ランニング・タイド(Running Tide)の初期の顧客の1人によれば、同社は今年までに、10億トンの二酸化炭素を十分吸収できる量のケルプ(昆布の一種)を海底に沈めることができると話したという。

ところが、それを実現する代わりにこの企業は、昨年夏に事業を停止し、初期の二酸化炭素除去産業部門においてそれまでで最大の倒産を起こした。

この破綻は、過去数年で何百ものスタートアップ企業が誕生してきたこの産業において、問題の深刻化と期待の後退を示す最も明確な兆候であった。ここ数か月の間に、他にも事業停止、規模縮小、方向転換をした企業がいくつかある。ベンチャー投資も勢いを失いつつある。そして業界全体も、ランニング・タイドが掲げた10億トンという目標には、あまり近づけていない。

「誇大広告の時期は過ぎました。そして今、この業界はその後に続く荒波のようなビジネスの谷に差しかかっています」と、二酸化炭素除去産業に関するデータと分析を提供する公益法人CDR.fyiの共同設立者であるロバート・ホグランドは警告する。

「期待のピークはすでに過ぎました。そしてそれに伴って、多くの企業が倒産することになるでしょう。これは、どんな業界でも普通に起こることです」とホグランドは語る。

まだ答えがわからない問題は、もし二酸化炭素除去産業部門が痛みを伴う一斉淘汰のサイクルに向かっており、それが避けられないのであれば、その先はどうなるのかということだ。

この産業の奇妙な点は、炭素除去がビジネスとしてあまり合理的でないことだ。炭素除去は、気候変動を抑制するという社会全体の利益のために必要な「大気の清掃作業」だが、個人や組織が必ずしも必要とする製品やサービスを生むわけではなく、ましてや積極的に支払いたいと望むものでもない。

これまでに多くの企業が、自発的に将来的な炭素除去のための契約を結んで、二酸化炭素を何トンも購入してきた。動機が真摯な気候への関心であれ、投資家・従業員・顧客からの圧力であれ、企業による善意に基づく行動だけでは、産業がある程度の規模以上に成長することはない。

業界観測筋の多くは、炭素除去がこのまま不安定な歩みを続けるのか、それとも気候変動に実質的な影響を及ぼす規模にまで成長するのかは、各国政府が巨額の費用を負担するか、もしくは排出者にそのコストを負担させる決断をするかに大きく左右されると指摘している。

「民間部門による購入では、そこまで到達することはないでしょう。必要なのは政策です。炭素除去は政策として進めなければなりません」と、炭素の除去と再利用を推進する非営利団体カーボン180の事務局長、エリン・バーンズは言う。

何が問題なのか?

炭素除去分野は、2020年代初頭に規模を拡大し始めた。気候変動に関する研究がますます深刻さを増す中、地球温暖化を抑えるには、二酸化炭素の排出量を大幅に削減し、かつ膨大な量を回収する必要があることが明らかになったためである。

具体的には、2022年の国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告によれば、地球の気温上昇を産業革命以前の水準比で2℃未満に抑える確かな可能性を確保するためには、各国が今世紀半ばまでに年間最大110億トンもの二酸化炭素を継続的に除去する必要がある可能性がある。

こうした背景を受け、必要な技術やインフラの開発に着手するスタートアップが続々と誕生し、海藻を沈める方法や二酸化炭素を吸収する施設の建設など、多様なアプローチが試みられてきた。

そしてすぐに、顧客を惹きつけた。ストライプ(Stripe)、グーグル、ショッピファイ(Shopify)、マイクロソフトなどの企業が、将来的な炭素除去量の事前購入に合意し、この新産業を支援すると同時に、自社の排出量の相殺に役立てようとした。ベンチャー投資もこの分野に殺到し、金融データ企業ピッチブック(PitchBook)によれば、2023年には投資額が10億ドル近くに達した。

この新興産業のプレイヤーたちは早くから、森林保全や植林を通じた従来のカーボンオフセット(気候への効果が過大評価されているとする研究もある)と、数十年から数世紀にわたって温室効果ガスを確実に回収・貯留する「耐久性のある」炭素除去とを明確に区別しようとしていた。その価格差も顕著である。前者のようなプロジェクトでは1トンあたり数ドルでオフセットできるが、後者の炭素除去ではアプローチによっては1トンあたり数百ドルから数千ドルにもなる。

しかし、この高価格が大きな障壁となっている。たとえば、1トンあたり300ドルで年間100億トンの二酸化炭素を除去しようとすれば、世界全体で年間3兆ドルのコストがかかる計算になる。

この事実が、私たちを根本的な問いに立ち返らせる。数十億トンもの二酸化炭素を回収・輸送・埋設するために必要なすべての工場、パイプライン、注入井を建設・運用するためのコストは、一体誰が負担すべきなのか。そして、実際には誰が負担することになるのか?

市場の状況

市場自体は今も成長を続けている。企業が自社の気候目標に向けた前進のために炭素除去量を自主的に購入しているからだ。実際、今年第2四半期の売上は、主にマイクロソフトによる大規模な購入のおかげで過去最高を記録した。

しかし業界関係者らは、需要の伸びが十分ではなく、多数のスタ …

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