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米国不在、「化石燃料」言及回避——骨抜きに終わった30回目のCOP
Getty Images
This year’s UN climate talks avoided fossil fuels, again

米国不在、「化石燃料」言及回避——骨抜きに終わった30回目のCOP

パリ協定から10年、30回目となる国連気候変動会議は骨抜きの合意に終わった。最終文書には「化石燃料」という言葉すら含まれず、米国は30年間で初めて公式代表団を派遣しなかった。 by Casey Crownhart2025.11.28

この記事の3つのポイント
  1. COP30で化石燃料への言及が完全に省かれた骨抜きの合意文書が採択された
  2. パリ協定から10年経つも石油生産国の反対と資金支援問題で交渉が難航している
  3. 米国代表団の不参加など各国の利害対立により具体的移行計画策定は困難な状況
summarized by Claude 3

もし写真や動画がなければ、今年の国連気候変動会議で実際に起きたことを、私はほとんど信じられなかっただろう。

ブラジルのベレンでこの数週間開催された「国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)」では、参加者たちが耐え難い暑さ洪水に見舞われ、ある時点では実際に火災が発生して交渉が中断された。その象徴性は、ほとんど耐え難いほどだった。

ブラジル大統領を含む多くの関係者が今年の会議を「行動の場」と位置づけていたものの、交渉の結果は骨抜きにされた合意に終わった。最終案には「化石燃料」という言葉さえ含まれていない。

排出量と地球の気温が今年も記録的な高さに達する中、私は疑問に思わざるを得ない。なぜ、問題の原因を正式に認めることがこれほど難しいのだろうか。

各国の指導者が気候変動に関する年次国連会議に集まるのは今回で30回目である。COP30はまた、世界の主要国が地球温暖化を産業革命前の水準から「2.0℃を大きく下回る」水準に抑え、1.5℃未満を目指すと約束したパリ協定から10年の節目でもある。

今年の会議に先立ち、開催国ブラジルのルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領は、今回の会議を「実施のCOP」と呼び、交渉担当者に対し、特に化石燃料からの世界的な移行のロードマップ策定に焦点を当てるよう求めた。

科学は明確である。化石燃料の燃焼は温室効果ガスを排出し、気候変動を引き起こす報告書が示しているように、温暖化を1.5℃に制限するという目標を達成するには、新たな化石燃料の探査と開発を停止する必要がある。

問題は、「化石燃料」が、世界の気候交渉においては呪いの言葉も同然だということだ。2年前、化石燃料への対処方法をめぐる争いがCOP28での協議を行き詰まらせた(会議がアラブ首長国連邦のドバイで開催され、指導者が文字通りその国の国営石油会社の責任者だったことは注目に値する)。

最終的にドバイでの合意には、各国がエネルギーシステムにおける化石燃料からの移行を求められるという文言が盛り込まれた。これは、化石燃料の完全な段階的廃止を求めた多くの支持者の期待には及ばなかったものの、それでも勝利として歓迎された。当時私は「ハードルは、思ったよりもずっと低いところにある」と書いた。

だが今年は、そのハードルをさらに下げて、地下にまで達してしまったようだ。

ある時点では、出席国のほぼ半数にあたる約80か国が、化石燃料からの脱却に向けた具体的な計画を求めた。

しかし、サウジアラビアのような石油生産国は、化石燃料を名指しすることに断固反対した。アフリカやアジアの一部の国々も、非常にもっともな主張をした。米国などの西側諸国はこれまで最も多くの化石燃料を燃やし、その恩恵を受けてきたというのだ。こうした国々は、従来の汚染国が発展途上国に対して同様の道を禁止するだけでなく、その移行を資金的に支援すべきだと主張している。

ちなみに米国は、過去30年間で初めて公式な代表団をCOPの協議に派遣しなかった。その不在は多くを物語っている。ニューヨーク・タイムズへの声明で、ホワイトハウス報道官のテイラー・ロジャースは、COP協議については触れず、トランプ大統領が新たな化石燃料開発を追求することで「世界の他の国々に力強い模範を示した」と述べた。

要するに、一部の国は化石燃料に経済的に依存しており、別の国々は他国からの支援なしにその依存を断ちたがらず、そして現在の米国政権は他のエネルギー源への移行よりも化石燃料の継続利用を望んでいるということだ。

これらすべての要因が組み合わさった結果、最終的なCOP30の合意文書では化石燃料への言及が完全に省かれた理由が説明できる。その代わりに、ドバイでの決定を考慮するよう求める曖昧な文言と、「低温室効果ガス排出および気候変動にレジリエントな(回復力のある)開発への世界的移行は不可逆的であり、未来の趨勢である」との認識が記されている。

それが本当に事実であればよいのだが、世界最大の舞台でさえ、我々が何から移行すべきかを明確に示し、実際にそのための計画を策定することがほとんど不可能に見えるという現実は、極めて憂慮すべきことである。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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