COP28閉幕:3つの重要合意、「化石燃料脱却」めぐり攻防も
今年の気候変動に関する国際会議「COP28」は、化石燃料の計画をめぐる争いで会期が1日延長され、12月13日に閉幕した。今回の会議で得られた重要な合意について説明しよう。 by Casey Crownhart2023.12.18
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで11月30日から12月12日までの開催を予定されていた、年次の国連気候変動会議「COP28」の交渉が13日、正式に終了した。参加者たちは早朝から協定をまとめるために奔走し、会議は予定されていた終了時刻を1日過ぎて終わることとなった(この会議ではこうしたことはありがちだ)。
あなたがCOP28のニュースを無視していたとしても、実際のところ、責めるつもりはない。「促す」「注目する」「強調する」などなど、言葉遣いをめぐる屁理屈はすべてノイズに聞こえるかもしれない。しかし、この協議は今年最大の気候イベントであり、いくつかの詳細な点で注目に値する。
メタンと再生可能エネルギーに関する合意や、国際金融取引に関する大きな進展が見られた。そしてもちろん、化石燃料をめぐって、注目を浴びる争いもあった。交渉担当者が仕事を終えて帰国の途に就くにあたって、今回のCOP28で何が起こったのか、そしてなぜこうした政治闘争が気候変動対策にとって重要なのかを、少し整理してみることにしよう。
そもそも、この会議には何の意味があるだろうか?
国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)は、約200カ国の交渉担当者が気候変動に対処するための目標を設定し、計画を立てる年に一度の機会だ。
これらの会議の結果についてはご存知の方も多いかもしれない。8年前のCOP21では、地球の気温の上昇幅を産業革命以前のレベルと比べて1.5 °Cに抑えるという目標を設定した国際条約「パリ協定」が締結された。
今年の会議は、このパリ協定にとって重要な時期に開催された。パリ協定の一部では、「グローバル・ストックテイク」と呼ばれる、気候変動に関する進捗の報告をすることが加盟国に義務付けられている。このグローバル・ストックテイクは5年ごとに実施されることになっており、最初の報告がなされるのが今年のCOPだったのだ。
今回の会議で得られた重要な合意は?
1. 協議の初日、「損失と損害」(ロス&ダメージ)基金に関する重大な発表があった。これは気候変動によって被害を受けやすい国々に生じた損害の支払いに充てるため、より裕福な国がプールする基金である。
この基金の設立が、昨年エジプトで開催されたCOP27で大きな話題となったことは記憶になるかもしれない。この基金の緊急性は、2022年8月にパキスタンで特に壊滅的な被害をもたらした洪水が発生するなど、気候災害の多発によって加速されることになった。
現在、富裕国から少なくとも7億ドルがこの基金に拠出されることが約束されている。
もちろん、いくつかの注意点もある。この合意は、財政目標や各国の資金投入方法に関する規則を欠いているなど、まだ詳細な部分が不足しているのだ。実際のところ、現時点では富裕国が資金を拠出する義務はまったくなく、しかも約束された資金は、気候変動によって引き起こされた損害を支払うために実際に必要であると多くの科学者が主張する金額のほんの一部なのである(年間1000億ドルとの推定もある)。
2. 100か国以上が2030年までに、再生可能エネルギーの発電容量を3倍、エネルギー効率を2倍にすることを約束している。さらに、米国と他の20カ国は、2050年までに世界の原子力による発電容量を3倍にするという誓約に署名した。
3. 最後に、50社の石油・ガス会社は、2030年までに事業からのメタンの排出を事実上なくすと約束した。メタンは強力な温室効果ガスであり、石油とガスの生産からの偶発的な排出を塞ぐことが、気候汚染を抑える簡単な方法とされている。
この誓約に署名した企業には、世界の生産量の40%を占めている、エクソンモービル(ExxonMobil)やサウジアラムコ(Saudi Aramco)が含まれている。
だが、一部のアナリストは、この誓約の効果はかなり限定的だと指摘している。結局のところ、人間の活動によるメタン排出のほとんどは農業から発生している。そして、化石燃料会社が引き起こす最大の問題は、偶発的なメタンの排出ではない。化石燃料企業からメタンの排出量の大部分は、その事業活動からではなく、その製品から発生しているのだ。
合意を妨げていたのは何だったのか?
それはシンプルに、化石燃料である。
化石燃料がCOP28の協議にどのように大きな影響を与えるのか、数週間前に記事にしている。とりわけ今回は、富が石油に大きく依存している国であるUAEで開催されるためだ。そして協議のリーダー(およびUAEの国営石油企業のトップ)は私の予測に見事に応え、化石燃料をなくそうという呼びかけの背後にある、科学的根拠に疑問を呈している。
参加者らが最終合意のまとめに取り組む中、議論が行き詰まったのは、化石燃料についてどのように表現するかという点だった。草案の初期バージョンでは、段階的に廃止することが求められていた。しかし、UAEを含む多くの国々がこのような表現に反対したのである。こうした協議はコンセンサスによって動いている。つまり最終的な合意には、参加者全員が署名しなくてはいけない。
そのため最終的なバージョンでは、ややぼかしたような表現になってしまった。この極めて重要なパラグラフは、締約国に対し、「エネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却を図るため、公正で秩序ある衡平な方法で、この重要な10年間に行動を加速させ、科学に則って2050年までに実質ゼロを達成する」など、一連の行動をとるよう求めている。
ある意味、COPでの合意で初めて化石燃料に言及したという点で、この合意は勝利である(ハードルというのは、思ったよりもずっと低いところにあるものである)。
結局のところ、今回のCOPの合意の正確な文言は、誰かを実際の行動に駆り立てるものではないだろう。むしろ、気候変動に対する世界の姿勢がこの合意に反映されていると言える。化石燃料との関係において、何かを変える必要があるという認識が世界中で高まっているのだ。しかし、その変化のスピードや、野心的な気候目標を追求する際にその関係がどのようなものであるべきかについては、まだ十分に幅広いコンセンサスが得られているとは言えない。
おそらくは、それは来年のCOP会議の議題になるであろう。
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二酸化炭素除去産業のゆくえに元米エネ省幹部が警鐘
二酸化炭素除去産業は軌道に乗り始めようとしているところだが、一部の専門家は、すでに間違った方向に進んでいると警告している。
地球温暖化を抑制するために、世界では大気中から何十億トンもの二酸化炭素を除去しなければならないかもしれないという警告が強まっている。しかし、新しい記事の中で米国エネルギー省の2人の元職員は、営利部門の出現は、気候変動に有意義に対処する技術の能力に実際に危険をもたらす可能性があると主張している。
詳細については、本誌のジェームス・テンプルによる最新記事で確認してほしい。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。