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35年に「気温を下げる」
イスラエル発・科学者集団、
成層圏ビジネスの危険な賭け
Photo Illustration by Sarah Rogers/MITTR | Photos Getty
気候変動/エネルギー Insider Online限定
How one controversial startup hopes to cool the planet

35年に「気温を下げる」
イスラエル発・科学者集団、
成層圏ビジネスの危険な賭け

成層圏に粒子を散布して太陽光を反射させ、地球の気温を下げる——。イスラエルのスタートアップ企業スターダスト・ソリューションズは6000万ドルを調達し、この壮大な計画を本格始動させた。だが、多くの科学者は「無責任」と警鐘を鳴らす。 by James Temple2026.01.14

この記事の3つのポイント
  1. イスラエルのスターダスト社が太陽地球工学で6000万ドルを調達、2035年の世界展開を計画
  2. 気候変動の加速により各国が緊急対策を求める中で、営利企業による地球工学参入が現実化
  3. 科学者らは安全性検証不足と国際合意なき実用化に強い懸念を表明し、規制整備を要求
summarized by Claude 3

スターダスト・ソリューションズ(Stardust Solutions)は、気候変動を解決できると信じている。――ただし、有料で。

イスラエルに拠点を置くこの地球工学スタートアップ企業は、特殊な装置を搭載した航空機を成層圏に打ち上げるために、各国が間もなく年間10億ドル以上を支払うようになると見込んでいる。航空機が所定の高度に達すると、地球の気温を十分に下げるため、太陽光を反射するよう設計された粒子を散布するという。これによる環境への副作用は生じないとされている。

スターダストがベンチャーキャピタルに提示した2023年のプレゼン資料によれば、この独自開発された(未公開の)粒子によって、過去150年間に世界が排出した温室効果ガスの影響をすべて打ち消すことが可能だという。実際のところ、スターダストはこれを「気候変動に対する唯一の技術的に実現可能なソリューション」と位置づけている。

スターダストは2025年10月に6000万ドルの資金調達を実施したと発表した。これは、太陽地球工学(ソーラー・ジオエンジニアリング)に取り組むスタートアップ企業としては、これまでで最大規模の資金調達ラウンドとみられている。

ある意味、スターダストは、このテクノロジーに関する学術研究の進展が遅いことに対する、シリコンバレー内のいら立ちの象徴でもある。科学的慎重さや世論の不安を背景に停滞してきた研究開発を、スタートアップ的な手法で前に進めようという、数千万ドル規模の賭けなのである。

しかし、太陽地球工学の研究に取り組む多くの科学者たちは、スターダストが2035年にも政府を顧客として確保し、世界規模でこの技術を展開するという計画に強い疑念を抱いている。これは同社が過去の投資家向け資料で示していた計画だが、研究者らは、スターダストがこれほど急速に動こうとしていることに驚きと懸念を示している。また、地球の気温を調整するという極めて重大な任務を、公的資金による研究プログラムではなく、いち企業が担おうとする発想にも、厳しい批判が寄せられている。

「彼らはあらゆる助言を無視してきました。そして、この分野で利益を出せると信じています」と語るのは、太陽地球工学を研究するコーネル大学のダグラス・マクマーティン准教授だ。「私は、この計画は裏目に出ると思います。投資家たちは無駄に資金を失い、この分野全体が後退することになるでしょう」。

スターダストは資金調達を終え、ついにステルスモードを脱した。CEOを務めるヤナイ・イェドヴァブは、MITテクノロジーレビューが本記事のために申し込んだインタビューに応じ、同社として初となる本格的な取材の1つに臨んだ。

イェドヴァブCEOは、これまでの野心的な計画をややトーンダウンさせ、成層圏での実験・実証・展開の実施時期は、各国政府がその実施を適切と判断したタイミングに委ねられると強調した。スターダストは、各国が費用を負担し、この技術の運用に関する明確なルールと監督機関が整備されている場合に限り、太陽地球工学の事業を進めるつもりだと明言している。

その判断は、今後数年間で気候変動がどれほど深刻化するかに左右されるだろうと、イェドヴァブCEOは述べている。

「現状は決して良いとは言えません」とイェドヴァブCEOは語る。「しかし、状況はさらに悪化する可能性があります。だからこそ、私たちは備えておくべきだと言っているのです」。

「決断するのは私たちではありません。あえて言えば、研究者たちが決めることでもありません」と、イェドヴァブCEOは付け加えた。「決定づけるのは危機感です。危機感こそが、この事業がどう進展するかを左右するのです」。

構成要素

スターダストが科学的に信頼できる企業であることに疑問を呈する者はいない。同社は2023年に、イスラエル原子力委員会で副主任科学者を務めたヤナイ・イェドヴァブCEOを含む、著名な研究者3名によって設立された。同社の主任科学者のエリ・ワックスマンは、ワイツマン科学研究所の素粒子物理学・天体物理学部長である。最高製品責任者(CPO)のアミヤド・スペクターは、かつてイスラエルの機密性の高い研究機関であるネゲブ核研究センター(Negev Nuclear Research Center)で核物理学者として勤務していた。]

スターダストによれば、同社は25名の科学者、エンジニア、研究者を雇用しているという。イスラエルのネス・ツィオナに本拠を構え、近く米国にも本社を開設する計画だ。

イェドヴァブCEOはスターダストを設立した動機について、単に気候変動に対処するための有効な手段の開発に貢献したいという思いからだったと語る。

「私たちが持っている経験やツールの中の何かが、人類が直面する最大の課題のひとつの解決に貢献できるかもしれないのです」とイェドヴァブCEOは言う。

今回の6000万ドルの投資ラウンドは、著名なテック投資家クリス・サッカが共同創設した気候テック特化型の投資会社、ローワーカーボン・キャピタル(Lowercarbon Capital)が主導した。他には、フューチャー・ポジティブ(Future Positive)、フューチャー・ベンチャーズ(Future Ventures)、ネバー・リフト・ベンチャーズ(Never Lift Ventures)なども参加している。

また、セキュリティおよびインテリジェンス関連テクノロジーに特化した投資会社であるAWZベンチャーズは、初期に実施された総額1500万ドルのシードラウンドを共同で主導している。

イェドヴァブCEOによれば、スターダストは調達した資金を活用して、自社システムを構成する3つの要素の研究・開発・試験を進める予定だという。これらの要素は同社のプレゼン資料でも説明されており、安全性が高く安価に製造可能な粒子、航空機による散布システム、そして粒子の追跡とその効果の監視手段から成る。

「基本的な考え方は、これらの構成要素をすべて開発し、ソリューションの導入の可否とその方法について政府が判断を下すために必要な情報とツールを提供できるレベルにまで高めることです」とイェドヴァブCEOは述べる。

スターダストは、成層圏に粒子を送り込むことを最初に提案した企業、メイク・サンセッツ(Make Sunsets)とは、多くの点で正反対の存在である。メイク社は、亜硫酸ガスを気象観測気球に注入し、手作業で空に放つことで、有料で粒子を散布するという手法を採用していた。この方法について、多くの研究者は、注目を集めるための挑発的で非科学的、かつ無責任な行為だと見なしていた。

しかしスターダストは真剣にこの分野に取り組んでおり、現在では真剣な投資家たちから多額の資金を調達している。こうした状況は、太陽地球工学という分野の重大性を高めると同時に、最終的に世界がこの技術の使用に踏み切る可能性を高めていると懸念する声もある。

「これは転換点です。こうしたタイプのアクター(行為者)が登場する可能性があるという段階ではなく、実際に登場したということです」と語るのは、非営利団体「太陽地球工学の公正な審議のための同盟(Alliance for Just Deliberation on Solar Geoengineering)」で事務局長を務めるシュチ・タラティである。同団体は、気候介入に関する国際的議論において、途上国の確実な参加を目指して活動している。「私たちは今、より危険な時代に突入しています」。

太陽地球工学を研究する多くの科学者は、地球規模の気候に影響を与えるこのような技術については、潜在的な危険性や市民の深い懸念があることから、大学や政府、透明性のある非営利組織が主導すべきだと強く主張している。

「研究に偏りがないこと、そして導入の可否を巡って隠された動機がないことを保証するには、適切な監督の下で研究を進め、手法の潜在的な負の側面を検証し、その結果を公開することが不可欠です」とマクマーティン准教授は述べる。「十分な情報がないまま、こうした技術を人々に押し付けるべきではありません」。

例えば、マクマーティン准教授は、スターダストが「魔法のエアロゾル粒子」を開発したと主張している点を批判し、それが完全に安全かつ不活性であるとい …

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