超知能から推論、GEOまで
2025年AI新語総ざらい
超知能、バイブコーディング、チャットボット精神病、推論、スロップ、GEO——2025年はAI関連の新語が次々と登場した。メタは数千億ドルを超知能に投じ、ディープシークの「蒸留」モデルはエヌビディア株を17%急落させた。この1年を彩った14のキーワードを、編集部が解説する。 by Rhiannon Williams2025.12.29
- この記事の3つのポイント
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- 2025年はDeepSeekのR1発表や「バイブコーディング」など、AI業界を揺るがす新概念が次々と登場した年となった
- AI技術の急速な発展により超知能追求やハイパースケーラー建設に巨額投資が行われる一方、実用性と安全性に課題が残存
- AIバブルの持続性やチャットボット精神病などの社会的影響について、技術革新と現実的制約の狭間で議論が深まっている
この12か月を振り返って明らかなのは、AIをめぐる誇大宣伝の勢いが、いまだ衰える気配を見せていないということだ。年初の段階では、DeepSeek(ディープシーク)はまだ業界全体を揺るがす存在ではなく、メタ(Meta)といえば、超知能を支配しようとする執念深い探求よりも、メタバースを流行らせようとして失敗した企業として知られていた。ましてや「バイブコーディング」という言葉など、まだ影も形もなかった。それを思えば、今の状況はにわかには信じがたい。
もし少し混乱しているとしても、心配はいらない。2025年の終わりが近づく中で、MITテクノロジーレビュー編集部は、良くも悪くもこの1年の記事を彩ったAI関連用語をあらためて振り返ってみた。
来年もまた、とんでもない年になるだろう。時間を取って心の準備をしておこう。
1. 超知能(Superintelligence)

人々がAIを誇大に語ってきたのと同じだけ、彼らは人類にユートピア的、あるいはディストピア的な結果をもたらし得る、未来の超強力な技術形態に名前を与えてきた。「超知能」は、その最新の流行語である。メタは2025年7月、超知能を追求するためのAIチームを結成すると発表し、競合他社からAI専門家を引き抜くために9桁ドル規模の報酬パッケージを提示していると報じられた。
12月にはマイクロソフトのAI責任者も追随し、同社が超知能の追求におそらく数千億の巨額を投じることになると述べた。もし超知能が「汎用人工知能(AGI)」と同じくらい曖昧に定義されていると感じたら、まったくその通りだ。この種の技術は長期的には確かに実現可能かもしれないが、問題は本当に「いつ」それがやってくるのか? そして今日のAIが超知能的なものへの足がかりとして扱われるほど十分に優れているのか? という点になる。そうした疑問があっても、誇大宣伝の王たちが立ち止まることはないだろう。
(ジェームス・オドネル)
2. バイブコーディング(Vibe coding)

30年前、スティーブ・ジョブズは米国の誰もがコンピューター・プログラミングを学ぶべきだと言った。今日ではコーディングの知識をまったく持たない人々でさえ、バイブコーディングのおかげで、あっという間にアプリやゲーム、Webサイトを作り上げることができる。「バイブコーディング」は、オープンAI(OpenAI)の共同創業者であるアンドレイ・カルパシーが作った包括的な表現である。生成AIモデルのコーディング支援機能に、作りたいアプリやサイトの内容をプロンプト(指示文)で指示し、そこから吐き出されるものをほぼすべて受け入れる、というものだ。結果はちゃんと動くのか? 動かないこともある。安全なのだろうか? ほぼ確実に安全ではないだろう。だが、バイブコーディングの熱心な支持者たちがそんな細かいことに邪魔されることはない。何より、この言葉は楽しそうに聞こえる。
(リアノン・ウィリアムズ)
3. チャットボット精神病(Chatbot psychosis)

この1年間におけるAIと社会との関係における最大級のニュースの1つは、チャットボットとの長時間の対話が、脆弱な人々に妄想体験を引き起こし、極端な場合には精神病を発症させたり悪化させたりする可能性がある、ということだった。「チャットボット精神病」は正式な医学用語ではないが、研究者たちは自分や知人に起こった出来事だと語るユーザーから寄せられる、増加する逸話的証拠に細心の注意を払っている。悲しいことに、チャットボットとの会話の後に亡くなった人の家族がAI企業を相手に起こす訴訟も相次いでいる。このことは、AIチャットボットが潜在的に致命的な結果をもたらす可能性があることを実証している。
(リアノン・ウィリアムズ)
4. 推論(Reasoning)

今年、AIをめぐる誇大宣伝が急速に加速する要因の1つとなったのが、いわゆる「推論( Reasoning)モデル」である。すなわち問題を複数のステップに分解し、それを一つずつ処理できる大規模言語モデル(LLM)のことだ。オープンAIは今からおよそ1年前に、最初の推論モデルである「o1」と「o3」をリリースした。
それからまもなくして、中国企業のディープシーク(DeepSeek)が、初のオープンソース推論モデルである「R1」を発表し、あまりにもすばやい追随で業界を驚かせた。推論モデルは瞬く間に業界標準となり、現在ではすべての主要な一般向けチャットボットに推論モデルが組み込まれている。推論モデルは、LLMのできることを大きく押し広げ、権威ある数学およびコーディング競技会において、トップレベルの人間に匹敵する成果を示してきた。一方で、「推論できる」LLMをめぐる熱狂は、LLMが実際にはどれほど賢いのか、そしてどのように動作しているのか、という旧来の議論を再燃させてもいる。「人工知能」という言葉そのものと同様に、「推論」もまた、マーケティングのきらめきをまとった技術用語なのである。
(ウィル・ダグラス・ヘブン)
5. 世界モデル(World models )

言語を操る不気味なほどの能力を持つ一方で、LLMには常識が欠けている。端的に言えば、世界がどのように機能しているかについての、基盤となる常識的知識を持っていないのだ。文字通り、言葉から学ぶ存在であるLLMは、森羅万象について雄弁に語ることができるが、その直後に「オリンピックサイズのプールに象は何頭入るか」といった問いをぶつけると盛大に失敗する(グーグル・ディープマインドのあるLLMによれば、答えは「ちょうど1頭」だという)。
さまざまな技術を包含する幅広い研究分野である「世界モデル」は、世界の物事が実際にどのように組み合わさっているのかについて、AIに基本的な常識を与えることを目指している。たとえば、グーグル・ディープマインドの「Genie(ジーニー) 3」や、フェイ・フェイ・リー(スタンフォード大学「人間中心のAI研究所」の共同所長)率いるスタートアップのワールド・ラブズ(World Labs)が開発する「Marble(マーブル)」のような世界モデルは、ロボットの訓練に使える詳細で現実的なバーチャル世界を生成できる。メタの元主任科学者であるヤン・ルカンも、世界モデルに取り組んでいる。彼は長年、動画の中で次に何が起こるかを予測するようモデルを訓練することで、AIに世界の仕組みを理解させようとしてきた。今年、ルカンはメタを離れ、アドバンスト・マシン・インテリジェンス・ラボ(Advanced Machine Intelligence Labs)という新たなスタートアップでこのアプローチに専念している。すべてが順調に進めば、世界モデルは次の「本命」になるかもしれない。
(ウィル・ダグラス・ヘブン)
6. ハイパースケーラー( Hyperscalers)

「巨大なデータセンターを裏庭に置かれるなんてごめんだ」という人々の話を聞いたことがあるだろうか? 問題となっているデータセンターは、テック企業が宇宙を含むあらゆる場所に建設したがっている施設で、一般に「ハイパースケーラー」と呼ばれる。AI運用のために特別に設計された巨大な建物で、オープンAIやグーグルのような企業が、より大規模で強力なAIモデルを構築するために使用している。内部では、世界最高性能のチップがモデルの訓練や微調整を実行しており、需要に応じて拡張できるモジュール式構造になっている。
ハイパースケーラーにとって、今年は大きな節目の年だった。オープンAIはドナルド・トランプ大統領と並んで、史上最大規模のデータセンターを全米各地に建設する5000億ドル規模の合弁事業「スターゲート(Stargate)」プロジェクトを発表した。しかし、私たちは一体、そこから何を得られるのか? という疑念は拭えない。消費者は、新たなデータセンターが電気料金を押し上げるのではないかと懸念している。ハイパスケーラー施設は、一般に再生可能エネルギーのみでの運用が難しく、雇用創出効果もそれほど高くない傾向がある。とはいえ、少なくともこれらの巨大で窓のない建物が、あなたの地元に陰鬱でSF的な雰囲気をもたらす可能性くらいはあるのかもしれない。
(ジェームス・オドネル)
7. バブル

AIが掲げる壮大な約束は、経済全体を浮遊させている。AI企業は目を見張るような巨額資金を調達し、その評価額は成層圏まで跳ね上がっている。彼らは数千億ドルをチップやデータセンターに投じており、その資金はますます債務や、眉をひそめたくなるような循環取引によって賄われている。一方で、オープンAIやアンソロピック(Anthropic)のようにゴールド・ラッシュを主導する企業でさえ、利益を上げるまでに何年もかかる、あるいは永遠に黒字化しない可能性すらある。投資家たちは、AIが新たな富の時代を切り開くという大きな賭けに出ているが、この技術が実際にどれほど変革的になるのかは、誰にも分からない。
AIを導入している大半の組織はいまだ十分な見返りを得ておらず、AIが生み出す作業上のスロップ(低品質な成果物)は至る所にあふれている。LLMのスケーリングが超知能をもたらすのか、それとも新たなブレークスルーが必要なのかについては、科学的な不確実性が残る。しかし、ドットコム・バブル時代の企業とは異なり、AI企業は力強い収益成長を示しており、マイクロソフトやグーグル、メタのような潤沢な資金力を持つ巨大テック企業もいる。この躁(そう)的な夢は、果たしていつか弾けるのだろうか。
(ミシェル・キム)
8. エージェンティック(Agentic)

AIエージェントは今年、至る所に存在していた。2025年を通じて発表された新機能、モデルのリリース、セキュリティ報告書のほぼすべてに、散りばめられていたのだ。多くのAI企業や専門家が、「真のエージェント」とは何を意味するのか、正確な合意に達していないにもかかわらずだ。これ以上ないほど曖昧な用語である。広大なWeb上でユーザーの代わりに行動するAIが、常に想定通りに振る舞うことを保証するのが事実上不可能である点は問題にされない。「エージェンティック(エージェント型)AI」は、当面の間、この状態に留まり続けるようだ。何かを売りたいのなら? とにかく「エージェント」と言っておけばいい。
(リアノン・ウィリアムズ)
9. 蒸留(Distillation)

今年初め、中国企業のディープシークは新モデル「DeepSeek-R1」を発表した。欧米のトップモデルに匹敵する性能を持ちながら、コストはその一部にすぎないオープンソースの推論モデルである。この発表はシリコンバレーに衝撃を与えた。巨大な規模や膨大なリソースが、必ずしも高性能AIモデルの決定的要因ではないことを、多くの人が初めて突きつけられたからである。エヌビディア(Nvidia)の株価は、R1が公開された翌日に17%急落した。
R1の成功の鍵となったのが「蒸留」である。これはAIモデルをより効率的にするための技術で、大きなモデルが小さなモデルを指導する形で機能する。教師モデルを多数の例題で実行してその回答を記録し、学生モデルがそれらの応答をできるだけ忠実に模倣するよう報酬を与えることで、教師の知識を圧縮した形で獲得させるのだ。
(チェン・ツァイウェイ)
10. 過剰な迎合(Sycophancy)

世界中で人々がChatGPT(チャットGPT)のようなチャットボットとの対話に費やす時間が増えるにつれ、チャットボットの開発者たちは、モデルが取るべき口調や「人格」の在り方を見極めるのに苦労している。4月、オープンAIは有用さと卑屈さのバランスを取り違えたことを認め、新しいアップデートによってGPT-4oが過度に迎合してしまうようになったと述べた。ユーザーに取り入る態度は、単に不快なだけでなく、誤った信念を強化し、誤情報を拡散することで、ユーザーを誤った方向に導く危険がある。だからこそ、LLMが生成するすべての情報は、常に割り引いて受け取るべきだということを忘れないでほしい。
(リアノン・ウィリアムズ)
11. スロップ(slop)

もしAI関連用語の中で、広く一般の意識にまで浸透した言葉が1つあるとすれば、それは「スロップ」だろう。この言葉自体は古く(豚の餌を思い浮かべてほしい)、現在では、ネット上のトラフィック獲得に最適化された、AIによって生成された低労力・大量生産のコンテンツを指す言葉として広く使われている。中には、AI生成コンテンツ全般の略語として用いる人さえいる。過去1年間、それは避けがたい存在だった。偽の伝記から、エビのイエス像、さらには超現実的な人間と動物のハイブリッド動画に至るまで、我々はスロップにどっぷり漬かってきたのだ。
だが、人々は同時にそれを楽しんでもいる。この言葉が持つ皮肉混じりの柔軟性によって、インターネット・ユーザーは、中身がなく、ばかばかしく平凡なあらゆるものを表現するために、「〜スロップ」という接尾辞を気軽に貼り付けられるようになった。「作業スロップ」や「友人スロップ」を想像してみてほしい。誇大宣伝のサイクルがリセットされる中で、「スロップ」は、我々が何を信頼し、何を創造的労働として価値あるものと見なすのか、そして表現ではなくエンゲージメントのために作られたものに囲まれて生きるとはどういうことなのかを問い直す、文化的な清算を象徴している。
(チェン・ツァイウェイ)
12. 物理的知能(Physical intelligence)

今年初め、殺風景なグレースケールのキッチンで食器を片付けるヒューマノイドロボットの、あの催眠的な動画を目にしただろうか? それは「物理的知能」という概念を、ほぼ完璧に体現している。すなわち、AIの進歩が、ロボットが物理世界をよりうまく動き回ることを可能にする、という考え方である。
ロボットがこれまでになく高速に新しいタスクを学習できるようになったのは事実だ。手術室から倉庫まで、あらゆる現場でそれが起きている。自動運転車の企業も、道路をシミュレーションする手法の改善を目の当たりにしている。それでもなお、AIがこの分野を本当に「革命化した」と考えるには、慎重であるべきだ。例えば、家庭の執事として宣伝されている多くのロボットが、その作業の大半をフィリピンにいる遠隔オペレーターに依存していることを思い出してほしい。
物理的知能の行く先も、間違いなく奇妙なものになるだろう。大規模言語モデルがインターネット上に豊富に存在するテキストで訓練されるのに対し、ロボットは人間が作業を行う様子を捉えた動画から、より多くを学習する。そのためロボット企業のフィギュア(Figure)は9月、アパートで家事をしている自分自身を撮影する人々に報酬を支払うと提案した。あなたは応募するだろうか。
(ジェームス・オドネル)
13. フェアユース

AIモデルは、アーティストや作家による著作権保護作品を含め、インターネット上に存在する何百万もの言葉や画像を貪り食うことで訓練されている。AI企業は、これが「フェアユース」に該当すると主張する。フェアユースとは、元の作品と競合しない新しいものへと変換する場合に限り、許可なく著作権保護素材を使用できるとする法的原則である。裁判所も判断を下し始めている。6月には、アンソロピック(Anthropic)のAIモデルである「Claude(クロード)」が書籍ライブラリーで訓練されたことについて、この技術が「極めて変革的」であるとして、フェアユースに該当するとの判決が出た。
同じ月、メタも同様の勝訴を収めたが、それは著者側が、同社の「文学的饗宴」が自身の収入を減らしたことを証明できなかったからにすぎない。一方で、著作権を巡る争いが激化する中、この饗宴で実際に現金を手にしているクリエイターもいる。12月には、ディズニー(Disney)がオープンAIと華々しい契約を結び、AI動画プラットフォーム「Sora(ソラ)」のユーザーが、ディズニーのフランチャイズから200以上のキャラクターを登場させた動画を生成できるようになった。同時に、世界各国の政府は、コンテンツを貪り食う機械のために著作権ルールを書き換えている。著作権で保護された作品を用いたAI訓練はフェアユースなのか。数十億ドル規模の法的問題と同様に、答えは「場合による」である。
(ミシェル・キム)
14. GEO

ほんの数年前まで、Webサイトを検索結果の上位に表示させることを目的とした産業全体が存在していた(まあ、ほぼグーグル専用だったが)。しかし現在、検索エンジン最適化(SEO)は、「生成エンジン最適化(GEO)」へとその座を譲りつつある。AIブームによって、企業はグーグルの「AIによる概要(AI Overviews)」のようなAI強化検索結果や、LLMの回答内での可視性を最大化するため、必死に対応を迫られているのだ。彼らが動揺するのも無理はない。すでにニュース企業が、検索流入によるWebトラフィックを大幅に失っていることは分かっているし、AI企業は仲介者を排除し、ユーザーがプラットフォーム内から直接サイトを訪問できる仕組みを構築しつつある。今は、適応するか、消え去るかの時代なのである。
(リアノン・ウィリアムズ)
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- リアノン・ウィリアムズ [Rhiannon Williams]米国版 ニュース担当記者
- 米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」の執筆を担当。MITテクノロジーレビュー入社以前は、英国「i (アイ)」紙のテクノロジー特派員、テレグラフ紙のテクノロジー担当記者を務めた。2021年には英国ジャーナリズム賞の最終選考に残ったほか、専門家としてBBCにも定期的に出演している。