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蘇生の可能性は「限りなく小さい」、それでも人体冷凍保存を選ぶ理由
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Here's why some people choose cryonics to store their bodies and brains after death

蘇生の可能性は「限りなく小さい」、それでも人体冷凍保存を選ぶ理由

1967年に初めて人体冷凍保存された人物は、今も米アリゾナ州の施設に保存されている。50年以上が経過した今も、蘇生の方法はない。それでも毎月20〜50人が新たに登録し、「死にたくない」という人々が費用を払い続ける。こうした人々は何を望んでいるのだろうか。 by Jessica Hamzelou2026.04.01

この記事の3つのポイント
  1. 人体冷凍保存は1967年から始まり現在世界で5000~6000人が登録しているが、蘇生技術は存在しない
  2. 登録者は将来の医学進歩への期待や死への拒否感から費用8万~22万ドルを生命保険で賄い、保存を選択
  3. 科学者も蘇生可能性は極めて低いと認めつつ、家族や社会との断絶など哲学的課題も指摘されている
summarized by Claude 3

先日、私はL・スティーブン・コールズの脳に焦点を当てた、かなり異例な研究について報告した。

コールズは2014年に膵臓がんで亡くなった老化研究者である。キャリアの後半を人間の長寿の専門研究に費やしていた。そして亡くなる前に、自分の脳を人体冷凍保存施設で保存してもらうことを決めた。現在、脳は米アリゾナ州のセンターでマイナス146°Cで保存されており、薄い霜の層に覆われて置かれている。

コールズはまた、長年の友人であるグレッグ・ファヒーに、自分の脳の一部を研究して、どのような状態になっているかを調べるよう依頼した。部分的には、自分の脳にひびが入るかもしれないと心配していたからである。著名な冷凍生物学者であるファヒーは、その脳が「驚くほど良好に保存されている」ことを発見した。

しかし、それはコールズが蘇生できることを意味するわけではない。過去数年間、私は人体冷凍保存施設を運営する人々、冷凍保存を研究する人々、あるいは単に冷凍保存されたいと思っている人々と話をしてきた。私が話した人々は皆、いつか生き返る可能性は限りなく小さいことを認めている。それなのに、なぜ彼らは保存するのだろうか?

人体冷凍保存された最初の人物はジェームズ・ハイラム・ベッドフォードで、1967年に腎臓がんで亡くなった退職した心理学教授である。科学的・医学的訓練は受けていないが愛想がよいテレビ修理工が率いるカリフォルニア人体冷凍保存協会の関係者たちが、有害な氷の形成を防ぐために彼の体に冷凍保護化学物質を灌流し、「急速冷凍」した。

現在、ベッドフォードの遺体は、アリゾナ州スコッツデールに拠点を置く人体冷凍保存施設であるアルコー(Alcor)に保存されている。アルコーは、人の全身または脳だけを収集、保存、貯蔵する少数の組織の1つで、事実上無期限に保存する。コールズの脳が保存されているのもここだ。

コールズもベッドフォードも、がんで亡くなった。医学では彼らを治すことができなかった。しかし将来は分からない。人体冷凍保存の前提の1つは、現代医学が時間とともに進歩し続けるということである。米国では1990年代初頭以降、がんによる死亡率は大幅に減少している。コールズとベッドフォードが決断に至った正確な理由は分からないが、自分たちのがんが治療可能になる将来のある時点で蘇生されることを望んでいたのかもしれない。

他の人々は、単純に死にたくないのである。2025年、私は人生はすばらしく、死は「人類の核心的問題」だと信じる人々の集まりであるヴァイタリスト・ベイ(Vitalist Bay)に参加した。人体冷凍保存組織であるトゥモローバイオ(Tomorrow.Bio)のエミル・ケンジオラCEO(最高経営責任者)がイベントで講演し、参加者たちが人体冷凍保存に健全な関心を寄せていることは明らかだった。

彼らの多くは、科学が老化を「回避する」方法を見つけると信じている。そして一部の人々は、それが実現するまで保存されるというアイデアにご執心だった。これを死だけでなく老化そのものをも欺く方法と考えてみてほしい。

ケンジオラCEOと同僚による研究によると、この感情はヴァイタリスト・ベイの領域を超えて支持されているかもしれない。2021年、彼らはカリフォルニアのコミュニティ・サイト、クレイグスリスト(Craigslist)経由で募集した米国在住のインターネットユーザー1478人を調査した。その結果、男性は女性よりも人体冷凍保存について認知しており、その結果についてより楽観的であることが分かった。調査を完了した男性の3分の1強が「無期限に生きたいという願望」への関心を表明した。

それでも、人体冷凍保存はニッチな分野である。世界全体で、死亡時の冷凍保存に登録している人は約5000人から6000人にすぎないと、ヴァイタリスト・ベイで話した際にケンジオラCEOは私に語った。彼はまた、自分の会社が毎月20から50の新規登録を獲得していると教えてくれた。

そして人々が人体冷凍保存をしない理由はたくさんある。ケンジオラCEOの調査に回答した人々のごく一部は、人体冷凍保存のアイデアをディストピア的だと考えており、一部の人は違法にすべきだとさえ述べた。

それから、費用の問題がある。アルコーは人の脳を保存するのに8万ドルを請求し、全身を保存するには約22万ドルを請求する。トゥモローバイオの料金はもう少し高い。ケンジオラCEO自身を含む多くの人々が、生命保険を通じてこの費用をカバーすることを選択している。

おそらく人々が人体冷凍保存を選ばない主な理由は、冷凍保存した人を蘇生させる方法がないことである。ベッドフォードは50年以上保存されており、コールズは10年以上保存されている。私が話したすべての科学者は、彼らのような遺体を蘇生させる可能性は限りなく小さいと述べている。

その可能性がどんなに小さくても、ゼロでないだけで十分な人もいる。アルコーの研究開発ディレクターであるニック・ルウェリンもその1人だ。科学者として、彼は蘇生が実際に機能する可能性は「かなり低い」ことを認めている。それでも、彼は将来がどのようになるかを見ることに興味があるため、自分の脳の人体冷凍保存に登録している。

しかし、マサチューセッツ総合病院の低温生物学者であるシャノン・テシエ博士は、たとえうまくいったとしても人体冷凍保存には登録しないだろうと私に語る。「それは哲学的な問題になります」とテシエは言う。

「家族がいなくなり、人生が変わった数百年後に蘇生されたいでしょうか?」と彼女は問いかける。「考え抜かなければならない複雑な哲学的、社会的、法的な問題がたくさんあります」。

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生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
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