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スペースXがぶち上げた
宇宙データセンター構想、
実現に4つのハードル
AP Photo/Jenny Kane
Four things we’d need to put data centers in space

スペースXがぶち上げた
宇宙データセンター構想、
実現に4つのハードル

グーグル、アマゾン、スペースX——テック大手が相次いで軌道上コンピューティングに照準を合わせている。スペースXが申請した100万台規模の衛星データセンターは、その最も野心的な例だ。しかし専門家が指摘するのは、その構想が乗り越えるべき4つの技術的課題である。 by Tereza Pultarova2026.04.07

この記事の3つのポイント
  1. スペースXが最大100万台の軌道データセンター申請を提出し、グーグルやアマゾンも宇宙コンピューティングを計画
  2. 宇宙では太陽光発電の連続利用と真空への放熱が可能だが、熱管理と放射線耐性チップが技術的課題となっている
  3. 宇宙デブリ回避と軌道上組み立て技術の確立が必要で、経済性実現には数十年を要する可能性が高い
summarized by Claude 3

2026年1月、イーロン・マスク率いるスペースX(SpaceX)は、最大100万台のデータセンターを地球軌道に打ち上げる申請を米連邦通信委員会(FCC)に提出した。その目的は何か? 地球上で環境危機を引き起こすことなく、人工知能(AI)の潜在能力を完全に解き放つことである。しかし、うまくいくのだろうか?

スペースXは、軌道上コンピューティング・インフラの可能性を謳うハイテク企業の最新事例だ。2025年にアマゾン(Amazon)創業者のジェフ・ベゾスは、テック業界が宇宙での大規模コンピューティングに向かうだろうと述べた。グーグルはデータ処理衛星の打ち上げを計画しており、早ければ2027年にも80基のテスト衛星コンステレーションの打ち上げを目指している。2025年11月には、ワシントン州を拠点とするスタートアップのスタークラウド(Starcloud)が、エヌビディア(Nvidia)の高性能GPU(画像処理装置)であるH100 を搭載した衛星を打ち上げ、先進的なAIチップの軌道上での初試験を実施した。同社は2030年までに地上と同規模の軌道上データセンターの実現を構想している。

こうした構想の支持者らは、データセンターを宇宙に設置することは理にかなっていると考えている。現在のAIブームは電力網に負担をかけ、コンピューターの冷却に必要な水の需要を増加させている。大規模データセンター周辺の地域コミュニティは、需要増加の結果として電力や水の価格上昇を懸念している。

支持者らの主張では、宇宙では水とエネルギーの問題が解決されるという。常に太陽光が当たる太陽同期軌道では、宇宙ベースのデータセンターは太陽光発電を切れ間なく利用できることになる。同時に、データセンターが生み出す余剰熱は、宇宙の冷たい真空中に容易に放出される。宇宙への打ち上げのコストが下がり、スペースXのStarship(スターシップ)などのメガロケットが価格をさらに押し下げることを約束している中、世界のデータセンターを宇宙に移すことが健全なビジネス感覚となる時代が来るかもしれない。一方で反対派は異なる見解を示し、さまざまな技術ハードルを指摘している。ただし、それほど遠くない将来にそれらが克服可能かもしれないとの見方を示す者もいる。宇宙ベースのデータセンターを現実のものにするために必要な4つの必須要素を以下に示す。

熱を除去する方法

AIデータセンターは大量の熱を発生させる。宇宙は大量の水を使用することなくその熱を放散するのに最適な場所のように思えるかもしれない。しかし、ことはそう単純ではない。24時間365日稼働するのに必要な電力を得るため、宇宙ベースのデータセンターは常に太陽光が当たる軌道、つまり極から極へと地球を周回し、決して地球の影に隠れない軌道にある必要がある。そしてその軌道上では、機器の温度は決して80℃を下回ることがない。これは電子機器が長期間安全に動作するには高すぎる温度だ。

そのようなシステムから熱を除去することは驚くほど困難となる。「宇宙での熱管理と冷却は一般的に大きな問題です」と話すのは、オーストリアの宇宙技術スタートアップ、サテライブス(Satellives)のリリー・アイヒンガーCEO(最高経営責任者)である。

地球上では、熱は主に対流という自然プロセスを通じて放散される。これは空気や水などの気体や液体の動きに依存している。宇宙の真空中では、熱ははるかに効率の悪い放射プロセスを通じて除去されなければならない。コンピューターが生み出す熱と太陽から吸収される熱を安全に除去するには、大きな放射面が必要だ。衛星が大きくなるほど、内部のすべての熱を宇宙に送り出すことが困難になる。

一方、欧州の航空宇宙大手、タレス・アレーニア・スペース(Thales Alenia Space)の元技術部長であるイヴ・デュランは、この問題に取り組む技術がすでに存在すると述べる。

同社は以前、大型通信衛星向けのシステムを開発した。これは機械ポンプで配管ネットワークを通じて冷媒流体を送るもので、最終的に宇宙船内部から外部のラジエーターへ熱を移送する。デュラン元部長が主導した、宇宙ベースのデータセンターに関する2024年の実現可能性研究では、課題は存在するものの、欧州が2050年以前に、地上最大級の施設に匹敵するギガワット規模のデータセンターを軌道に設置することは可能だと結論づけた。これらは数百メートルサイズの太陽電池アレイを特徴とし、国際宇宙ステーション(ISS)よりも大きく、スペースXが構想するものよりもかなり大規模になる。

放射線の猛攻に耐えられるコンピューターチップ

地球周辺の宇宙は常に宇宙からの高エネルギー粒子を浴び、太陽放射にさらされている。地球表面では、人間とその電子機器は、地球の大気圏と磁気圏によって、激烈な大量の荷電粒子から保護されている。しかし地球から遠ざかるほど、保護は弱くなる。研究によると、航空機の乗務員は巡航高度での高放射線への頻繁な曝露によりがんを発症するリスクが高い。巡航高度では大気が薄く、保護効果が低いためだ。

宇宙の電子機器は高い放射線レベルによって引き起こされる3種類の問題のリスクにさらされていると、カーネギーメロン大学の電気・コンピューター工学の主任システム科学者であるケン・マイ博士は指摘する。まず、荷電粒子がチップやメモリデバイスに衝突したときにビット反転を引き起こして保存されたデータを破損させる現象がある。次に、時間の経過とともに、宇宙の電子機器は電離放射線による損傷を蓄積し、性能が劣化する。さらに、時として、荷電粒子がコンポーネントに衝突してチップ上の原子を物理的に変位させ、永続的な損傷を作り出すことがある。

従来、宇宙に打ち上げられるコンピューターは、何年もの試験を経て、地球軌道上に存在する強烈な放射線に耐えるよう特別に設計される必要があった。しかし、こうした宇宙耐性電子機器ははるかに高価で、しかも性能は地球ベースのコンピューティング用の最先端デバイスより何年も遅れている。従来のチップを打ち上げることは賭けだ。しかしデュラン元部長によると、最先端のコンピューターチップは、過去のシステムよりも放射線に耐性の高い技術を使用しているという。2026年3月中旬、エヌビディアは「軌道上データセンターにAIコンピューティングをもたらす」新しいGPUを含むハードウェアを発表した

エヌビディアのエッジAIマーケティング責任者であるチェン・スーはMITテクノロジーレビューに対し、「エヌビディアのシステムは本質的に商用既製品であり、素子単独ではなくシステムレベルで放射線耐性を実現しています」と述べた。スーは、衛星メーカーがシールド、エラー検出用の高度なソフトウェア、そして民生用デバイスと特注の耐性技術を組み合わせたアーキテクチャの利用することでチップの耐性を高めていると付け加えた。

それでもマイ博士は、データ処理チップは1つの問題に過ぎないと述べている。データセンターにはメモリーとストレージデバイスも必要で、どちらも過度の放射線による損傷に脆弱である。そして運用者は、問題が発生したときに部品を交換したり適応したりできなければならない。ロボットや宇宙飛行士ミッションを手ごろなコストでメンテナンスに使用することの実現可能性は低く、大規模軌道データセンターのアイデアに大きな疑問符を投げかける。

「現在のニーズを満たすデータセンターを宇宙に打ち上げるだけでは不十分です。冗長性、予備部品、再構成可能性が必要で、何かが壊れたときに構成を変更して作業を続けられるようにする必要があります」とマイ博士は言う。「宇宙には自由なエネルギーと電力がある一方で、多くの不利な点もあるため、これは非常に困難な問題です。これらの問題が、データセンターを宇宙に設置することで得られる利点を上回る可能性は十分にあります」。

定期的なメンテナンスの必要性に加えて、破滅的な損失の可能性もある。激しい宇宙嵐の期間中、衛星はすべての電子機器を破壊するのに十分な放射線を受ける可能性がある。太陽は11年周期の最も活発な段階をちょうど通過したばかりで、衛星への影響は比較的少ない。それでも専門家らは、宇宙時代が始まって以来、地球は、太陽が起こし得る最悪の状況を経験していないと警告する。多くの人は、今日地球軌道を支配している低コストの新しい宇宙システムにその準備ができているかどうか疑問視している。

宇宙デブリを回避する計画

タレス・アレーニア・スペースが構想するような大規模軌道データセンターと、スペースXが提案するような小型衛星メガコンステレーションの両方が、宇宙の持続可能性の専門家に頭痛の種を与えている。地球周辺の宇宙はすでに衛星でかなり混雑している。Starlink(スターリンク)衛星だけでも、デブリ(宇宙ゴミ)や他の宇宙船を避けるために年間数十万回の衝突回避のための運用をしている。宇宙に物が多くなるほど、軌道を数千の危険な破片で散らかす破滅的な衝突の可能性が高くなる。

数百平方メートルの太陽電池アレイを持つ大型構造物は、小さなデブリや隕石からすぐに損傷を受け、時間の経過とともに太陽パネルの性能を劣化させ、軌道にさらに多くのデブリを作り出すことになる。軌道リサイクルのスタートアップであるルネクサス・スペース(Lunexus Space)の創業者であるグレッグ・ヴィアルはMITテクノロジーレビューに対し、高度2000キロメートルまでの宇宙領域である低地球軌道で100万基の衛星を安全に運用することは、その地域のすべての衛星が同じネットワークの一部でお互いを避けるために効果的に通信できない限り不可能かもしれないと述べた。

「一つの軌道シェルに約4000から5000基の衛星を配置できます。低地球軌道上のすべての軌道シェルを合計すると、最大約24万基の衛星という数字になります」。

そして宇宙船は衝突を避けるために、安全な距離で互いを通過できなければならないとヴィアルは言う。

「より高い軌道に移動し、軌道離脱のために下に戻せる必要もあります」と付け加える。「そのため、そうしたことを安全に実施するには衛星間に少なくとも10キロメートルの間隔が必要です。スターリンクのようなメガコンステレーションは、衛星が互いに通信するため、より密に配置できます。しかし、1社が独占していない限り、地球周辺に100万基の衛星を配置することはできません」。

その上、スターリンクはおそらく軌道上データセンターをより現代的な技術で定期的にアップグレードしたいと考えるだろう。おそらく5年ごとに100万機の衛星を交換することは、軌道がさらに混雑することを意味する。スペースXのFCC申請に異議を申し立てた天文学者グループによると、地球大気圏への破片再突入率を1日約3〜4個から約3分に1個に増加させる可能性がある。再突入する破片がオゾン層を損傷し、地球の熱バランスを変える可能性があることを懸念する科学者もいる。

経済的な打ち上げと組み立て

ハードウェアが軌道上で長持ちするほど、投資収益率は良くなる。しかし軌道上データセンターが経済的に意味を持つためには、企業はそのハードウェアを軌道に送る比較的安価な方法を見つけなければならない。スペースXは、現在の主力であるFalcon 9(ファルコン9)ロケットの最大6倍のペイロード(積載物)を運ぶことができる今後のStarshipメガロケットに賭けている。タレス・アレーニア・スペースの研究は、欧州が独自の軌道データセンターを構築するなら、同様に強力な打ち上げロケットを開発しなければならないと結論づけた。

しかし打ち上げは条件の一部に過ぎない。大規模な軌道データセンターはロケットに収まらないし、メガロケットにさえも収まらず、軌道上で組み立てる必要があるだろう。そしてそれには、まだ存在しない高度なロボットシステムが必要になる可能性が高い。さまざまな企業そのようなシステムの前段階のシステムで地上試験を実施しているが、実世界での使用にはまだ程遠い。

デュランは、短期的には、より小規模なデータセンターが軌道上インフラの不可欠な部分として確立される可能性が高いと話す。地球観測衛星からの画像を地球に送ることなく宇宙で直接処理するためだ。これは宇宙から見た地球の画像を販売する企業にとって、非常に役立つなるだろう。これらのデータセットの多くは非常に大きく、地上局を介して処理するために地球にダウンリンクする機会を得る競争が激化しているためである。

「軌道データセンターの良い点は、小さなサーバーから始めて徐々に増やし、より大きなデータセンターを構築できることです」とデュランは述べる。「モジュール性を使用できます。少しずつ学び、宇宙での産業能力を徐々に発展させることができます。私たちはすべての技術を持っており、宇宙ベースのデータ処理インフラへの需要は巨大なので、そのことを考えるのは理にかなっています」。

しかし、より小規模な施設では、地上のデータセンターが地球の水と電力に与えている負荷を相殺することはあまりできないだろう。その未来のビジョンは実現するのに数十年かかるかもしれないと批判する者もいる。そもそも、それが実現するとしての話だが。

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テレザ・プルタロヴァ [Tereza Pultarova]米国版 寄稿者
フリーランスの宇宙・科学技術ジャーナリスト。
MITテクノロジーレビューが選んだ、 世界を変える10大技術

MITテクノロジーレビューの記者と編集者は、未来を形作るエマージング・テクノロジーについて常に議論している。年に一度、私たちは現状を確認し、その見通しを読者に共有する。以下に挙げるのは、良くも悪くも今後数年間で進歩を促し、あるいは大きな変化を引き起こすと本誌が考えるテクノロジーである。

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