「指先で血液検査」は
大ぼら吹きだったのか?
血液検査会社セラノスのエリザベス・ホームズCEOはおおぼら吹きなのか、血液検査のイノベーターなのか? by Ryan Cross2016.08.02
次のスティーブ・ジョブズと称賛されたこともある血液検査会社セラノスのエリザベス・ホームズCEOは現在、本人が上訴する可能性もあるが、臨床検査事業への2年間の関与禁止処分を受けており、苦境に立つ。そのホームズCEOは1日、大胆な作戦に打って出た。会社のテクノロジーを医学会議へと持ち込んで披露したのだ。
フィラデルフィアで開催された米国臨床化学会(AACC)の午後遅くのセッションに多くの人が押し寄せ、ホームズCEOは、指先から採取する少量の血液でジカウイルスの検出など、多くの試験ができる高度な技術「ミニラボ」を開発したと発表した。
ホームズCEOが、科学者、医者、研究者といった懐疑的な聴衆の前で発表したことは、その存在そのものが論争を引き起こす。セラノスは血液検査に大革命をもたらすと主張していたが、今年になって連邦捜査官が、セラノスが不正確な試験を売り込んで患者を潜在的に危険にさらしていたことを突き止めたからだ。
ホームズCEOは、新たな自動装置は、長年にわたって極秘裏に進められた研究の成果であり、少量の血液で異なる種類の多様な試験ができる「単一プラットフォーム」であると説明した。ホームズCEOは、米国食品医薬品局(FDA)からの承認を得るため、ジカウイルス試験をFDAに提出したと述べた。
「私たちは科学的な情報交換に関わるために、この会議を選びました。この発明を紹介したかったのです」
ホームズCEOは会議を「転換点」と呼び、自らの会社を再出発させる機会にしたかったようだ。しかし、以前の試験の正確性に関するデータは発表されず、ホームズCEOがセラノスの「最新バージョン」と呼ぶ機器が公表された。だが、ホームズCEOが今回説明したテクノロジーは、セラノスが以前から主張し、いまだに立証されていない飛躍的な技術の説明を、ほぼそのまま繰り返したのと変わらない。
新しい小型装置により、臨床検査が「分散化」され、より多くの場所で検査を実施できるようになる、とホームズCEOは説明した。またホームズCEOは、装置がインターネットで情報を送信することで、試験結果を集中的に検証できる、と述べた。
「過去について多くの疑問があるのは理解しています。それらの疑問点については、今後、適切な会議で取り上げることにします」
急転落
わずか1年前、セラノスの価値は投資家により90億ドルと見積もられ、また、指先を刺して採取する血液だけで多数の診断検査を実施でき、現在の検査にかかる費用に比べればほんのわずかで済むと主張していた。スタンフォード大学を中退した後、19歳でセラノスを設立したホームズCEOは、自社のテクノロジーは血液検査を民主化させると断言していた。
2013年設立のセラノスは、アリゾナ州フェニックスの、ウォルグリーン・ドラッグストアの店舗内を中心に40のウェルネス・センターを開設した。ホームズCEOは、患者が医者の診断書なしに医学的検査を購入できるようになるアリゾナ州の新法案に賛成するようロビー活動もした。患者が予防手段のひとつとして検査サービスを受けることを狙っていたのだ。
しかし、研究者はセラノスに関する疑念を口に出し始め、セラノスの大きな主張が一度も科学論文誌によって立証されていないことを指摘した。月曜日にホームズCEOは、作動中の装置の映像を取り入れつつ1時間に及ぶプレゼンテーションをしたが、状況は変わっていない。
セラノスの噂は、昨年10月から明らかになり始めた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙による徹底的な調査の結果、当時「エジソン」として知られていた特別な装置で、ミニラボの前身のように見えるセラノスのテクノロジーが正常に動作せず、セラノスが研究室の従来の機械に通すため、サンプルを薄めていたことが判明したのだ。
マウントサイナイ医科大学のジョエル・ダドリー研究員は唯一、論文審査された評価であるセラノスの血液検査結果に関する文献の著者だった。セラノスの指先採血による血液検査および標準検査を受けてもらうため、60人のボランティアを募集し、会社の関与なしに評価した結果だ。
「セラノスに関するデータが一切なく、ややショックを受けました」とダドリー研究員は言う。ダドリー研究員は、セラノスの試験結果は標準検査の結果と異なっていたものの、「思うほど逸脱してはいませんでした」と続ける。それでもなお、米国当局はセラノスの研究所が酷い状態で運営されており、患者たちを危険にさらしていると断定した。
敵意
ホームズCEOの新たなテクノロジーが、セラノスに懐疑的な人々を納得させることはほぼないだろう。セラノスの価値はフォーブス誌の見積もりによると、ゼロにまで下落した。「現時点でセラノスを復活させる手段は何ひとつ思い浮かびません」とニューヨーク大学のアーサー・カプラン教授(生命倫理学)はいう。「今回の会議は、科学的地位を取り戻す適切な方法というより、汚い魔法のランタンを磨き上げるようなものです」
AACCのパトリシア・ジョーンズ議長は、AACCがホームズCEOにプレゼンテーションするよう数年間にわたり求めてきたと述べた。「他にも選択肢がある中、この場所で専門家から成る大勢の聴衆の前でプレゼンしたことは、よかったと思います」とジョーンズ議長はいう。
セラノスのテクノロジーに関して学術雑誌『臨床化学と臨床検査医学(Clinical Chemistry and Laboratory Medicine)』で一連の論評を執筆したマウントサイナイ病院のエレフテリオス・ディアマンディス研究員は、ホームズCEOの発表に先立ち、セラノスによる主張は全て「検証で事実と示されるまでは推論のまま」であると述べた。
セラノスがミニラボ装置を他の科学者たちと共有するかどうか尋ねられると、ホームズCEOは「現在取り掛かっているところです」と答えた。
ウェイル・コーネル・メディカル大学のスティーヴン・マスター所長はホームズに質問する機会を与えられた専門家の1人だった。スティーヴン所長は、以前ホームズCEOが単一の血液サンプルから多数の試験ができると主張したことについて本人を問いただすと、会場から拍手喝さいを浴びた。フィラデルフィアで、ホームズCEOが主張を繰り返すことはなかった。
ミニラボの主要な革新技術は、いくつかの従来の試験を1つのシステムに組み込んだ手法の中にあるように見て取れる。確かに可能性のある技術だ、とマスター所長はおい。「工学的には、まともに見えます。医学的検査を変革する、といった誇大広告や空疎な議論さえなければ、このテクノロジーは違った目で見られていたしょう」
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クレジット | Photograph by Andrew Burton | Getty |
- ライアン クロス [Ryan Cross]米国版 ゲスト寄稿者
- パデュー大学で神経科学と遺伝学を学び、ボストン大学の科学ジャーナリズムプログラムを卒業したジャーナリスト。コーヒーを飲むことと遺伝子編集の話も大好きですが、最新の科学トレンドや発見を解きほぐし、分かりやすく調合するのも得意です。