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グーグルの未来はテンソルフローにある
ビジネス・インパクト Google Stakes Its Future on a Piece of Software

グーグルの未来はテンソルフローにある

グーグルが2年前に公開した「テンソルフロー」はAIへの熱狂的な関心を背景に、グーグルに多大な利益をもたらそうとしている。グーグルはアマゾンとマイクロソフトからシェアトップを奪うつもりだ。 by Tom Simonite2017.07.07

2015年前半、グーグルに所属する人工知能(AI)の研究者は「テンソルフロー(TensorFlow)」と呼ばれるソフトウェアを作り出した。2年後、機械学習ソフトウェアの構築に使われているテンソルフローは、グーグルとその親会社「アルファベット」の多くの未来の野望の土台となっている。

テンソルフローは、グーグルのエンジニアたちが実用的な機械学習のコードを簡単に書けるようにし、検索などのサービスや音声認識の精度を向上させた。しかし、テンソルフローがグーグルのプログラマー向けにリリースされたわずか数カ月後、グーグルはテンソルフローを誰でも無料で使えるように公開した。

その決断は業界への貢献なのか、はたまた単なる馬鹿げたことに見えたかもしれない。だが、それからおよそ2年が経ち、テンソルフローの公開がグーグルにもたらした利益は明白になってきている。

テンソルフローは機械学習を使って新しいものを作りたいプログラマーたちを魅了している。「テンソルフローは現在、非常に多く使用されており、その数は急増しています」とグーグルのジェフ・ディーン主席研究員は話す。ディーン主席研究員はテンソルフローの設計を指揮し、グーグルの中核であるAI研究グループを率いる人物だ。テンソルフローで構築したソフトウェアはどこでも稼働できるが、とりわけグーグルのクラウド・プラットフォームには移行しやすい。テンソルフローの人気は、約400億ドル(かつ現在も成長中)というクラウド・インフラ市場でグーグルがより大きなシェアを勝ち取る手助けとなっている。現在グーグルは、クラウド・インフラ市場ではアマゾンとマイクロソフトにはるか及ばない第3位に位置している。

グーグルでクラウド事業を統括するダイアン・グリーン上級副社長は、2017年4月、グーグルが5年以内にトップの座に上ることを見込んでいると話した。そしてトップに追いつくためのグーグルの戦略の中核となるのは、保健医療から自動車産業にわたる産業界に突然沸き起こった、AIへの熱狂的な関心に訴えかけることだ。AIテクノロジーに投資する企業は、自社でAIを構築して運用する繁雑さを避け、コストを抑えるために、AIのクラウド・プロバイダーに多額の資金を費やすことが予測される。ちょうど現在、多くの会社がEメールやWebサイトのクラウド・ホスティングにお金を払うのと同じようにだ。

テンソルフローを使って高額な交通事故を予想するシステムを作った保険会社アクサ(AXA)のような企業も、グーグルと同じインフラを使うことで自社製品を強化できるメリットがある。価格競争力が高く、よりよいパフォーマンスを提供できるとグーグルはいう。かつてマイクロソフトの開発部門で責任者を務めていた経歴を持つ、ベンチャーファンド「マドローナ(Madrona)」のS・ソマシガー事業部長は、テンソルフローはクラウド業界でのグーグルのライバルに対する、真の挑戦になるだろうと話す。「グーグルの戦略はすばらしいものですグーグルはクラウドにおいて大きく後れを取っていますが、ついに足がかりとなる場所を選び出したのです」。

グーグル社内では、テンソルフローはグーグル翻訳のモバイルアプリのような製品で使われている。グーグル翻訳アプリは、外国語のメニューなどにスマホをかざすだけで、リアルタイムで翻訳ができるアプリだ。グーグルはテンソルフローを高速化し、データセンターで消費する電力を削減する専用のプロセッサーも作った。このプロセッサーは、2016年のアルファ碁(AlphaGo)の歴史的勝利を推し進め、グーグル翻訳の精度をいくつかの言語で人間レベルにまで引き上げたことで、注目を浴びた。

テンソルフローは機械学習ソフトウェアを構築するための唯一のツールではない。専門家はテンソルフローを利用するメリットについて何時間でも議論できるが、グーグルのブランドの重みと技術的優位性が、テンソルフローを目立たせ、宣伝させるとスタンフォード大学のレザー・ザデー非常勤教授は話す。ザデー非常勤教授は当初、「カフェ(Caffe)」と呼ばれる競合ツールに基づき、企業が画像認識ソフトウェアを作るのに役立つスタートアップ企業「マトロイド」を創業した。しかしザデー非常勤教授はテンソルフローを試した後、マトロイドを捨ててしまった。「テンソルフローはあらゆる技術的側面で明らかに優れていました。だから私たちはすべて破棄することにしたのです」。

テンソルフローはまた、AI研究者と起業家の次なる世代の頭に深く刻み込まれてきている。今日の主要な研究者たちの多くを輩出したトロント大学の人工知能センターでは、マイケル・ゲジェロイ講師が、定員を超える膨大な数の学生が履修している機械学習の入門コースでテンソルフローを教えている。「10年前、私が数カ月かかってやったことを、今、学生たちはテンソルフローを使って数日でやってしまいます」とゲジェロイ講師は言う。

グーグルがテンソルフローをリリースしてから、クラウド・コンピューティングにおける競合であるマイクロソフトとアマゾンも自社の無料ソフトウェア・ツールをリリース、もしくはサポートを開始し、プログラマーが機械学習システムを構築するのを支援している。ただし、今のところ、どちらもテンソルフローほど研究者、学生、そして職業的プログラマーといった幅広く、かつ専門的なユーザーには使われていないとゲジェロイ講師は話す。

 

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トム サイモナイト [Tom Simonite]米国版 サンフランシスコ支局長
MIT Technology Reviewのサンフランシスコ支局長。アルゴリズムやインターネット、人間とコンピューターのインタラクションまで、ポテトチップスを頬ばりながら楽しんでいます。主に取材するのはシリコンバレー発の新しい考え方で、巨大なテック企業でもスタートアップでも大学の研究でも、どこで生まれたかは関係ありません。イギリスの小さな古い町生まれで、ケンブリッジ大学を卒業後、インペリアルカレッジロンドンを経て、ニュー・サイエンティスト誌でテクノロジーニュースの執筆と編集に5年間関わたった後、アメリカの西海岸にたどり着きました。
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