生化学の常識を覆す発見、量子粒子の特性が化学反応に影響
量子物理学における粒子の識別性は、超流動をはじめとする奇妙な物理現象を引き起こす。これまで化学反応は、粒子の識別性とは無縁と考えられていたが、一部の化学反応において重要な役割を果たしていることが初めて示された。 by Emerging Technology from the arXiv2017.08.02
量子力学の奇妙な帰結のひとつに識別性の現象がある。2つの量子粒子は、原理的にすら識別できないというものだ。理由の一つとして、量子粒子の正確な位置を測定できないということがある。そのため、2つの粒子が同じ場所で相互作用した場合、どちらがどちらなのかを知る術はない。
識別性は特に、多数の粒子が同じ振る舞いをする低温下で、いくつかの奇妙なふるまいを引き起こす。光子の識別性はレーザーを可能にする。質量数4のヘリウム原子核の低温下での識別性は超流動をもたらし、ルビジウムのようなその他の原子核はボース=アインシュタイン凝縮をもたらす。識別性は不思議な現象に満ちている。
しかし、一部の量子粒子にはこのような識別性の現象は見られない。たとえば電子は、パウリの排他原理として知られる法則により、2つ以上の粒子が同一の量子状態を占めることができない。そのことは別の種類の物理的性質をもたらす。パウリの排他原理に支配される電子間の相互作用は化学現象と呼ばれ、識別性と同様に奇妙な振る舞いに満ちている。
化学現象の世界と識別性の物理的性質は、完全に別個のものだと長い間考えられてきた。識別性が一般的に低温状態で起こる一方で、化学現象には物体が量子的特性を失う傾向のある比較的高い温度が必要である。そのため、化学者は長い間、量子の識別性の影響を無視していいと確信していた。
2017年8月1日、カリフォルニア大学サンタバーバラ校のマシュー・フィッシャー教授とコロラド大学ボルダー校のレオ・ラジホフスキー教授は、それが間違っていると発表した。教授たちは、量子粒子の識別性が、一部の化学反応に対しては、常温下においても重要な役割を果たしているに違いないことを初めて示した。この作用は、同位体分離のようなまったく新しい化学現象をもたらし、これまで謎とされてきた活性酸素種の化学活性の増強のような現象も説明できるという。
一言でいえば、フィッシャー教授とラジホフスキー教授は …
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