KADOKAWA Technology Review
×
Some U.S. Drones Are Getting Longer Leashes

元ドローン後進国アメリカ
規制緩和で遠距離飛行も目処

商用ドローンは、操縦者から1海里(約1.85km)以上離れて飛行できると、価値が高まる。 by Tom Simonite2016.09.01

米国では8月29日から、許可を受けた企業が商用ドローンを飛ばせるようになった。ただし新しい規制の下でも、無人機による商業活動の範囲は制限されている。ドローンは夜間や人々の頭上では飛行できないし、活動は操縦士の目が届く範囲に限られる。

最新の規則では、他の飛行機と衝突やニアミスを防ぐため、ドローンの飛行範囲を操縦者から1海里(約1.85km)以内に制限している。そのせいで、広大な農地や工業施設を調査するような用途では運用しにくいが、規制範囲を超えてドローンを遠くまで飛ばさせない、というわけではない。

ドローン関連企業のプレシジョンホーク(本社ノースカロライナ州ローリー)は最近、どうすればドローンの規則を緩和できるかを調査する米国連邦航空局(FAA)のプロジェクトの第一段階を終えた。これまで、さまざまな企業がFAAの試験地で長距離飛行をテストしており、今週はプレシジョンホークの商業目的の長距離飛行にはじめて許可が下りた。

長距離飛行の許可申請は他の企業にも開放されている。FAAは、どうすればあらゆる企業にドローンの長距離飛行を許可できるか、規則の改正も視野に入れながら検討しているのだ。

プレシジョンホークは、昨年、FAAの「パスファインダー」プログラムの下で、ドローンを操縦者の視野外に飛ばすテストを開始したが、ドローンの操縦者は、あらゆる有人飛行機から安全に距離を保つように求められた。同じ空域には単発機や超軽量飛行機、パラグライダーなど飛行しており、全米各地のさまざまな気象条件のもとで繰り返し試験された。

プレシジョンホークによる8月初めのFAAへの報告によれば、パイロットは約3海里(約5.6km)までは他の航空機を単に見渡すだけで、安全な距離を保てたという。この試験結果があったことで、FAAは29日に操縦者の目視範囲を超えた長距離飛行についてプレシジョンホークに許可を与えたのだ。

29日に新規制に切り替わるまで、FAAは何千もの許可を個別に与えることで商用目的のドローンを承認してきたが、そのおかげで関連企業や規制当局はドローンの使用について、用途などの実態について理解を深められた。FAAによれば、現在は、ドローンによる長距離飛行の許可が得られるように、プレシジョンホークが他の企業を指導している、という。

プレシジョンホークのトーマス・ホーン取締役副社長によれば、5km程度まで飛行許可範囲を伸ばすだけで、ドローンの有用性と経済性は飛躍的に向上するという。

「約5kmあれば、以前より広範囲でドローンを操縦できるようになり、従来はできなかったさまざまな業務ができるようになります。ドローン関連産業の前進に寄与するでしょう」

ホーン副社長によれば、ドローンが広範囲で飛行できるようになると、特に農業分野で役に立つという。プレシジョンホークや関連企業は農業こそがドローン利用の主要なマーケットであるとみなしている(「世界を変えるテクノロジー10(2014年版):農業ドローン」参照)。採掘作業や産業施設も利用可能範囲が広ければメリットがあるという。

ドローンの企業利用を推進するエアウェアで事業開発と渉外を担当するジェシー・カルマン取締役によれば、今後FAAは誰もがドローンをもっと遠くに飛ばせるように規制を緩和するという。すでに保険会社と話を進めており、今後のドローン利用の変化についても検討しているようだ。たとえばドローンを使えば、自然災害後に広範囲にわたる家屋の被害件数を素早く調査できるかもしれない。

しかしホーン副社長は、操縦者から5.5km以上離れてドローンを飛ばすには、安全確保のため技術的な補助が必要だという。FAAのパスファインダープログラムで、プレシジョンホークはどんなセンサーや障害回避システムがあればドローンをもっと遠くまで飛ばせるか、調査する予定だ。

人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
トム サイモナイト [Tom Simonite]米国版 サンフランシスコ支局長
MIT Technology Reviewのサンフランシスコ支局長。アルゴリズムやインターネット、人間とコンピューターのインタラクションまで、ポテトチップスを頬ばりながら楽しんでいます。主に取材するのはシリコンバレー発の新しい考え方で、巨大なテック企業でもスタートアップでも大学の研究でも、どこで生まれたかは関係ありません。イギリスの小さな古い町生まれで、ケンブリッジ大学を卒業後、インペリアルカレッジロンドンを経て、ニュー・サイエンティスト誌でテクノロジーニュースの執筆と編集に5年間関わたった後、アメリカの西海岸にたどり着きました。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る