KADOKAWA Technology Review
×
Theranos Makes Another Unforced Error

疑惑の元ユニコーン企業
起死回生策でつまずく

疑惑の血液検査スタートアップ企業セラノスが、ジカウイルス感染症の検査機能を追加した。 by Michael Reilly2016.09.01

日本ではほぼ無名だが、セラノスは、2003年にスタンフォード大学を中退しホルムズCEOが設立したスタートアップ企業だ。当初から血液検査の革新を約束し、指先から採取したごく少量の血液で病気などを検査できるという売り文句で会社の評価額は90億ドル近くまで上がった。だが、開発したとされる血液検査技術が本当に存在するのか疑惑を招き、企業価値はほぼゼロになった。今回の悪いニュースは実際のところ、そこまでひどいものではない。

8月はじめの科学関連会議の場でエリザベス・ホルムズCEOは新商品「miniLab」を発表した。ホルムズCEOによると指先の穿刺テストでジカウイルス感染症など、さまざまなことが検知できるとしていた。その後、セラノスは米国食品医薬品局(FDA)の認可を申請する準備として蚊媒介疾病が広く流行しているドミニカ共和国の人々で試験を実施した

しかしウォールストリートジャーナル紙によれば、FDAの監査でセラノスが試験前に安全手順を踏まなかった事実が明らかになり、セラノスは申請を取り下げた。

最近のセラノスは数々の失敗に悩まされているが、巻き返しのめどは立っていない。昨年さまざまなことが解明されだしたのは、ウォールストリートジャーナル紙の調査でセラノスが薄めた血液サンプルを標準機器にかけていたことが明るみに出たからだ。その後政府による非公開の調査があり、ろくに器具もそろっていない研究所の実態が明らかになり、またセラノスがあり得ないほど不正確な検査結果を出していたデータも見つかったことで、ついにホルムズCEOは自社の研究室への立ち入りが禁止された(上訴で覆る可能性がある)。

今回のニュース自体は大きな問題ではない。米国食品医薬品局(FDA)がセラノスのデータ採取法が適切でないと表明しただけでminiLabが役に立たないといっているのではないからだ。

その一方で、今回の過失により、セラノスは懲りずに不注意を続ける企業という印象が強くなった。ホルムズCEOは8月から事業を仕切り直すにあたって、行政が注視していることを承知していただろう。ホルムズCEOはなぜジカ熱検査のような新機能を付け加えたのだろうか? なぜコアテクノロジーがしっかり役立つことを証明しようとしなかったのだろうか?

ホルムズCEOがminiLabを発表した時点で、この分野の科学者たちは同氏にもセラノスの主張にも懐疑的だった。ひどい結果を出し続ける限り、セラノスの将来を楽観する者はあまりいないだろう。

(関連記事:Wall Street Journal, “Theranos Unveils ‘MiniLab’ Invention to a Skeptical Audience,” “Theranos Promised a Revolution, but Delivered Dangerous Errors”)

人気の記事ランキング
  1. An ancient man’s remains were hacked apart and kept in a garage 切り刻まれた古代人、破壊的発掘から保存重視へと変わる考古学
  2. This startup just hit a big milestone for green steel production グリーン鉄鋼、商業化へ前進 ボストン・メタルが1トンの製造に成功
  3. AI reasoning models can cheat to win chess games 最新AIモデル、勝つためなら手段選ばず チェス対局で明らかに
  4. OpenAI has released its first research into how using ChatGPT affects people’s emotional wellbeing チャットGPTとの対話で孤独は深まる? オープンAIとMITが研究
タグ
クレジット Photograph by Glenn Fawcett
マイケル レイリー [Michael Reilly]米国版 ニュース・解説担当級上級編集者
マイケル・レイリーはニュースと解説担当の上級編集者です。ニュースに何かがあれば、おそらくそのニュースについて何か言いたいことがあります。また、MIT Technology Review(米国版)のメイン・ニュースレターであるザ・ダウンロードを作りました(ぜひ購読してください)。 MIT Technology Reviewに参加する以前は、ニューサイエンティスト誌のボストン支局長でした。科学やテクノロジーのあらゆる話題について書いてきましたので、得意分野を聞かれると困ります(元地質学者なので、火山の話は大好きです)。
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る