KADOKAWA Technology Review
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未来への一歩を踏み出したオープンAI「GPT-3」の衝撃、熱狂に警鐘も
Laura Chouette / Unsplash
OpenAI’s new language generator GPT-3 is shockingly good—and completely mindless

未来への一歩を踏み出したオープンAI「GPT-3」の衝撃、熱狂に警鐘も

オープンAIが発表した「GPT-3」はこれまでで最大の言語モデルであり、まるで人間が書いたかのような文章を望みのままに生成できる。しかし、AIが真の知性に近づいたわけではない。 by Will Douglas Heaven2020.07.23

「GPT-3で遊ぶのは、まるで未来を見ているみたいな気分だ」。サンフランシスコ在住の開発者でありアーティストのアラム・サべティは7月10日のツイートでそう述べた。この感想は、非営利の研究機関であるオープンAI(OpenAI)による最新のテキスト生成人工知能(AI)に対する数日間のソーシャルメディアの反応をほぼ要約している。

オープンAIは5月に発表した研究論文で初めてGPT-3について述べたが、7月に入って、プライベート・ベータ版へのアクセスを申請した特定の人々を対象に少しずつソフトウェアを提供し始めた。 現在、オープンAIは外部開発者の手を借りてGPT-3に何ができるかを調べようとしているところだが、今年中にツールを製品化し、クラウドを通じた有料サブスクリプション・サービスとして企業に提供する予定だ。

GPT-3はこれまでで最も強力な言語モデルだ。その前身であり、昨年リリースされたGPT-2は、書き出しのセンテンスの入力に応じて、さまざまな文体で説得力のある一連のテキストを出力することがすでに可能だったが、GPT-3はさらに大きな飛躍を遂げた。AIの訓練中にニューラル・ネットワークが値の最適化を試みるパラメーターはGPT-2ですでに150億もあった。これに対し、GPT-3は1750億ものパラメータを有している。言語モデルにとってサイズはとても重要だ

サベティは、自身がGPT-3で生成した短編小説や歌詞、プレスリリース、技術マニュアルなどを披露したブログ記事へのリンクを投稿した。GPT-3はまた、特定の作家の摸倣作を生成することもできる。機械学習を扱うアーティストのマリオ・クリンゲマンは、ジェローム・K・ジェローム の文体で書かれた「ツイッター上に存在することの重要性」と題された短編をシェアした。この作品は次のような文章で始まる。「ロンドンの人々がまだ関心を持ち続けている社会生活の最後の一形態がツイッターだというのは、興味深い事実だ。定期休暇で海辺を訪れたとき、まるでムクドリの籠のように周囲の誰もがさえずっている(twittering)ことに気が付いて、私はこの奇妙な事実に胸を打たれた」。クリンゲマンによると、AIには題名と著者名、書き出しの「it」しか与えていないという。丸ごとGPT-3によって書かれたかなり有益なGPT-3の紹介記事まである。

他の人々は、ギターのタブ譜(弦ごとに押さえる箇所を示した楽譜)やコンピューター・コードなど、あらゆる種類のテキストを生成できることを発見した。例えば、Web開発者のシャリフ・シャミームは、自然言語ではなくHTMLを生成するようにGPT-3を調整すると、「スイカのかたちのボタン」や「『ニュースレターへようこそ』と書かれた大きな赤文字のテキストと、『購読』と書かれた青いボタン」のようなプロンプトを与えることでWebページのレイアウトが可能だと示した。

だが新たな仕掛けをもってしても、GPT-3にはまだ性差別的あるいは人種差別的な憎悪のこもった言葉を吐き出してしまう傾向がある。しかしGPT-2では、モデルに微調整を施すことでこの種の出力結果を抑制する効果が見られた。

大勢の人がすぐさま知性について語り始めたことは驚くに値しない。しかし、GPT-3の人間じみたアウトプットや目覚ましいほどの汎用性は優れたエンジニアリングの成果であって、本物の知性によるものではない。第一に、常識の完全な欠如を露呈する大失敗をやらかすことがある。よくできた生成結果にさえ深みが欠けていて、オリジナルの創作物というよりは、コピー・アンド・ペーストで切り貼りした文章のようだ。

GPT-3の内部で一体何が起こっているかは定かではない。しかしどうやら、インターネット上の他の場所で見つけて記憶したテキストを合成し、何百万、何千万というテキストの断片で作られた巨大なスクラップブックのようなものを作り、要求に応じて、奇妙で素晴らしい方法でその断片を張り合わせるということが得意らしい。

オープンAIの業績を軽んじているわけではない。このようなツールには多くの新しい用途がある。例えば、コーディングを支援するためのより優れたチャットボットといった良い目的のものから、子供が宿題をごまかすのに使う、より巧妙ながせネタ作成ボットといった悪い目的のものまでだ。

しかし、AIの偉業が達成されたとき、その成果が過剰な期待に埋もれてしまうことはあまりにも多い。イーロン・マスクとともにオープンAIを創設したサム・アルトマンですら、熱狂を落ち着けようと試みた。「GPT-3の評判はあまりに盛り上がりすぎています(素敵なお誉めの言葉をありがとう!)。GPT-3は確かにすごいが、重大な欠点もあるし、かなり馬鹿げたミスを犯すこともあります。今後、AIが世界を変えるでしょうが、GPT-3はそのほんの前触れに過ぎません。これから解決していくべきことがまだまだ沢山あるのです」(アルトマン)。

知性を見分けることに関して、私たちが持つ判断基準は低い。何かが賢く見えると、本当に知性を持っているのだと簡単に思い込んでしまう。AIがこれまでにやってのけた一番すごい芸当は、世間を納得させたことだ。GPT-3は飛躍的進歩ではあるが、人間が作ったツールであることに変わりはなく、そのことに伴うあらゆる欠陥や制限も依然として存在するのだ。

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ウィル・ダグラス・ヘブン [Will Douglas Heaven]米国版 AI担当上級編集者
AI担当上級編集者として、新研究や新トレンド、その背後にいる人々を取材しています。前職では、テクノロジーと政治に関するBBCのWebサイト「フューチャー・ナウ(Future Now)」の創刊編集長、ニュー・サイエンティスト(New Scientist)誌のテクノロジー統括編集長を務めていました。インペリアル・カレッジ・ロンドンでコンピュータサイエンスの博士号を取得しており、ロボット制御についての知識があります。
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