世界の工学者を魅了し続ける
80年代の日本のおもちゃ
1980年代、日本の玩具メーカーであるトミー(現タカラトミー)は、機械仕掛けのロボットアームの玩具「アームトロン」を発売した。多くの子どもたちの好奇心を刺激した玩具は、今でも世界中の工学者たちを魅了し続けている。 by Jon Keegan2025.05.13
- この記事の3つのポイント
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- アームトロンはロボット工学の発展に大きな影響を与えた玩具である
- 発明者の渡辺広幸は機械式の工夫によって6自由度を実現した
- アームトロンはエンジニアを志す子どもたちに実践的好奇心を与えた
電子エンジニアの親を持つ私は、幼少時、地元のラジオシャック(米国の家電量販チェーン。電子部品なども販売していた)で長い時間を過ごした。父がコンデンサーや抵抗器を探している間、私が時間を潰したのは玩具売り場だった。1984年、子ども時代の私にとっての最高の玩具に出会った。ロボット・アームの「アームトロン(Armatron)」である。
箱の表面には、「科学実験や研究室での実験に没頭する若き才能のためのロボットのようなアーム」という説明が印刷されていた。そして珍しいことに、その玩具は刺激的な宣伝文句に見合うものだった。本格的なロボット式アームだったのだ。このアームは、土台を中心に回転させたり、アームの先を上下に傾けたりすることができた。「肘」の接合部で曲げることも、「手首」を回すことも、明るいオレンジ色をした多関節の手を滑らかな動きで開閉させることもできた。すべての動作は、前後左右に倒して操作する一対のジョイスティックだけで可能だった。
この玩具で遊んだ人なら、その音も覚えていることだろう。電源スイッチをオンの位置に動かすと、プラスチックの歯車が回転し、巻かれる。その機械音が絶え間なく聞こえた。そして限界を超えて操作しようとすると、軋むような「カチリ...カチリ...カチリ」という抗議の音を出したものだ。
アームトロンを特別に感じたのは、子どもたちだけではなかった。『ロボティクス・エイジ(Robotics Age)』誌は、1982年11月/12月号の表紙にアームトロンを掲載し、「普通ならはるかに高価な実験的アームにしか見られない機能」が、この31.95ドル(現在の価値で約96ドル)の玩具には備わっていると評した。
数年前、子ども時代に遊んだアームトロンを見つけた私は、それを再び動かそうとケースを開け、驚かされることになった。この玩具には、2個の単1乾電池を入れる容器、スイッチ、そして3ボルトの小さなDCモーターを除いて、電子部品がひとつもなかったのである。完全に機械で動作していたのだ。その後、アームトロンの特許図面をネット上で見つけた私は、ギアボックスの図面が信じられないほど複雑であることを確認した。設計者は天才か、あるいは狂人だったのか。
アームを作った男
この玩具の物語を知りたい——。そこで私は、メーカーであるトミー(現在の社名はタカラトミー)に連絡を取った。100年を超える歴史を持つ日本企業だ。そして紹介されたのが、東京に住む69歳のエンジニアで玩具デザイナーの渡辺広幸だった。現在は引退しているが、渡辺はトミーに49年間勤続し、「ブリップ」「デジタル・ダイアモンド」「デジタル・ダービー」「ミサイル・ストライク」など、80年代に発売された数多くのすばらしい小型電子玩具を開発した。渡辺の名前は44件の特許に記載があり、50〜60種類の製品の市場投入にも関わっている。電子メールで質問を送ると、渡辺は映像で回答した。以降の渡辺の発言は日本語から翻訳したものだ。
「専門的に工学を学んだことはありませんでした。その代わり、日本では工業高校と呼ばれている、技術エンジニアを養成する学校に入学しました。そこで実際に電気工学科に(入りました)」と渡辺は語った。
その後、渡辺は小松製作所に就職した。ブルドーザーが好きだったからだという。しかし1974年、トミーが求人を出していることを知った渡辺は、玩具 …
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