AIが気候問題に及ぼす影響、調査で得られた3つの教訓とは
MITテクノロジーレビューは、研究者の協力を得て、現在および将来のAIモデルのエネルギー需要と二酸化炭素排出量を定量化するという、かつてない調査を実施した。そこで得られた最も大きな3つの教訓を紹介しよう。 by Casey Crownhart2025.06.23
- この記事の3つのポイント
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- 本誌はAIの電力需要に関する包括的調査を6カ月間実施した
- AIのエネルギー消費はクエリ内容やモデル規模で大きく変動することが分かった
- データセンターの立地により同じクエリでも排出量が2倍になることも
先日、私たちは人工知能(AI)とエネルギーに関する特集「AIとエネルギーの未来」を公開した。中心となっているのは、AIによって増大する電力需要に関する最も包括的な調査である。
データ中心のこちらの記事は、私とジェームズ・オドネル記者が多くのチームメンバーの協力を得て、6カ月以上にわたって取材した結果である。主要な研究者の助けを借りて、AIモデルへの個々のクエリがエネルギーと排出量に及ぼす影響を定量化し、現在と今後数年間の結果を集計した。
掘り下げるべきデータは山ほどあるので、ぜひこの記事全体を読む時間を取っていただければと思う。しかし、さしあたり、このプロジェクトに取り組んで得られた最も大きな教訓を3つ紹介する。
1. AIのエネルギー需要は一定ではない
AIの消費量の推定値を耳にしたことがあるなら、おそらくそれは単一の数字であり、オープンAI(OpenAI)のチャットGPT(ChatGPT)へのクエリに関連したものだろう。よく知られている推定値の1つは、チャットGPTを使ってメールを書くと500ミリリットル(およそボトル1本分)の水を使うというものだ。しかし、取材を始めてみると、クエリの詳細が消費エネルギーにどれほど影響を与えるかに驚かされた。クエリの複雑さや対象とするモデルの特性など、いくつかの理由により、どのクエリも同じではないのだ。
ここでの重要な注意点は、「クローズド・ソース」モデルについてはあまり分かっていないということだ。オープンAIのチャットGPTやグーグルのジェミニ(Gemini)などのモデルについて、開発企業はその詳細を明かしていない。その代わりに私たちは、オープンソースのAIモデルを実行するのにかかるエネルギーを測定した研究者と協力した。
オープンソース・モデルを使用すれば、単に推測するのではなく、クエリに応答するために使用されるエネルギーを直接測定することが可能だ。私たちは、テキスト、画像、動画を生成した研究者と協力して、サーバー上で推論タスクを実行するために必要なエネルギーを測定した。
テキストの応答だけでも、エネルギー需要にはかなり大きな幅がある。例えば、複雑な旅行の行程表は、いくつかのジョークを求める単純なリクエストの約10倍のエネルギーを消費する。さらに大きな違いは、使用されるモデルの大きさに由来する。同じプロンプトでも、パラメーター数が多い大きなモデルは、小さなモデルの最大70倍ものエネルギーを使用する。
想像できるように、テキスト、画像、動画の間にも大きな違いがある。動画の生成には、一般的にテキストの応答の数百倍ものエネルギーを要する。
2. 送電網への電力供給源が、AIのエネルギー使用による気候への影響に大きく影響する
気候担当記者として私は、予想されるエネルギー消費量を、予想される二酸化炭素排出量に置き換えることに興奮を覚えた。
原子炉や大量のソーラーパネルとバッテリーでデータセンターに電力を供給することは、山のような石炭を燃やすのとは地球への影響が異なるだろう。この考えを定量化するために、私たちは「炭素強度」と呼ばれる数値を使用した。これは、特定の送電網における電力単位の汚れ具合を測定したものである。
同じクエリで、同じエネルギー需要であっても、データセンターへの電力供給源によって気候への影響が大きく異なることが分かった。それは場所と時間帯に依存する。例えば、2024年の平均データに基づく計算によると、ウェストバージニア州のデータセンターへのクエリは、カリフォルニア州のデータセンターへのクエリと比べて、ほぼ2倍の排出量を引き起こす可能性がある。
この点は、大手テック企業がデータセンターを構築する場所、その場所における送電網がどのようになっているか、そして新しいインフラからの需要増加によってそれがどのように変化する可能性があるかが重要であることを示している。
3. AIとエネルギーに関しては、まだ分からないことが非常に多い
今回の調査の結果、最も具体的で包括的な推定値の一部が得られた。しかし最終的に、最大かつ最も影響力のあるモデルの多くにより、エネルギーと二酸化炭素排出量の観点で何が加わるのかについては、まだ見当もつかないでいる。本誌が調査の過程で連絡を取ったどの企業も数値を提供しようとしなかった。1社たりともである。
推定値を合計しても限界がある。その理由の一部は、AIがますます、至る所で使われるようになるからだ。現在は一般的に、専用のサイトに行って質問を入力しなければならないかもしれないが、将来的には私たちのあらゆるやり取りの中にAIが組み込まれる可能性がある。本誌のウィル・ダグラス・ヘブン編集者の最新記事「AIは「見えないもの」へ——グーグルI/O、驚きの時代の終わり」を参照していただきたい。
AIは、私たちの社会、仕事、そして送電網を形作る主要な力の1つになる可能性がある。その影響についてより多くを知ることは、私たちの未来を計画するために極めて重要である。
さらに詳しく知りたい方は、メイン記事を読んでいただきたい。そして、私たちがどのようにして数字を算出したのかについてより詳しく知りたい場合は、この舞台裏記事をご覧いただきたい。
特集には、ネバダ砂漠におけるデータセンターブームについての記事、AIの台頭が天然ガスを定着させる可能性についての記事、AIをより効率的にするのに役立つ可能性のあるいくつかのイノベーションについての記事など、っすばらしい関連記事がある。なぜ原子力が一部の人が考えているような簡単な答えではないのかについての私の記事もある。特集ページをチェックしてほしい。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。