トランプ政権、気候研究100件超を打ち切り 揺らぐ科学基盤
トランプ政権の意向を受けて、国立科学財団(NSF)は、気候変動に関係する100件以上の研究への助成金を打ち切った。トランプ政権は、気候変動関係の研究への助成金打ち切りをさらに進める意向だ。 by James Temple2025.06.17
- この記事の3つのポイント
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- トランプ政権が米国立科学財団の気候変動関連研究100件以上への助成金を打ち切った
- 大学研究への最大級資金供給元による削減で気候科学やクリーンエネルギー開発研究に深刻な影響
- 優秀な若手研究者の海外流出や他分野転身により一世代分の科学人材を失う懸念が高まる
トランプ政権は、気候変動に関連する100件以上の研究プロジェクトに対する米国立科学財団(NSF:National Science Foundation)の助成金を打ち切った。これは、地球温暖化によって高まるリスクを研究する科学者や研究機関への連邦資金を削減しようとする広範な動きの一環である。
この措置により、大半がすでに承認済みかつ進行中だった研究に対する数千万ドル規模の助成金が打ち切られることになる。
MITテクノロジーレビューが、連邦研究資金の削減を追跡するボランティア主導のプロジェクト「グラントウォッチ(GrantWatch)」のデータベースおよびNSFの打ち切り助成金リストを調査した結果、クリーン燃料の開発、メタン排出量の測定、熱波や海面上昇が社会的弱者に与える影響の評価、地域社会の持続可能エネルギーへの移行支援といったプロジェクトが助成対象から外されたことが明らかになった。
NSFは米国の大学研究に対する最大級の資金供給元の一つであるため、今回の打ち切りは気候科学やクリーンエネルギー開発の研究に深刻な影響を与えるだろう。
今回の助成金打ち切りに先立ち、ホワイトハウスは大学の研究資金や収入を削減し、税負担を大幅に引き上げるという広範な取り組みを開始していた。今回の措置は、さらなる助成金削減の一環である。また、トランプ政権は連邦研究機関の人員や予算を大幅に削減し、気候変動の物理的・経済的リスクの評価を中止し、長年にわたって温室効果ガス濃度を監視・分析してきた研究所の閉鎖も目指している。
「こうした動きがどこへ向かっているかを理解するのに、豊かな想像力は必要ないと思います」と語るのは、ハーバード大学の科学・技術・公共政策プログラムの共同責任者、ダニエル・シュラグ教授である。ハーバード大学はトランプ政権との法的対立の中で、他のどの大学よりも多くの研究資金を削減されている。「私は、トランプ政権が気候科学への資金を完全にゼロにしようとしていると考えています」。
NSFは、同機関のプログラム目標に合致しない助成金の打ち切りを進めており、「そこにはDEI(多様性・衡平性・包摂性)、環境正義、誤情報/偽情報に関するプロジェクトも含まれるが、それに限られない」と述べている。
トランプ政権の高官らは、DEへの配慮が米国の科学を「汚染」し、特定の集団を他よりも優遇し、研究者に対する国民の信頼を損なっていると主張してきた。
「政治的偏向によって、真理を追究するという科学本来の役割が損なわれている」と、ホワイトハウス科学技術政策局のマイケル・クラツィオス局長は先月、NSFの運営関係者らに向けて語ったと、サイエンス誌は報じている。
科学 対 政治
しかし、助成金打ち切りの対象となったのは、政権の反DEI方針に該当した研究プロジェクトだけではない。NSFは、例えば触媒に関する研究など、DEIとの明確な関連がほとんど見られないプロジェクトの助成金も打ち切っている。
多くの人は、政権の根本的な動機は、大学制度の影響力を弱め、政権の方針に反する研究成果の発表を阻止することにあると考えている。
トランプ大統領および政権の高官たちは、公式声明や大統領令を通じて、気候変動への懸念は過度に誇張されており、厳格な環境規制は国家のエネルギー安全保障と経済成長を妨げていると繰り返し主張してきた。
「これは、政権の方針に矛盾する科学研究を意図的に否定しようとする試みに見えます」と語るのは、カリフォルニア大学サンタクルーズ校で海洋科学の助教授を務めるアレクサ・フレッドストンである。
5月28日、カリフォルニア州、ニューヨーク州、イリノイ州などの州政府は、連邦予算の管理権限を持つのは議会であり、今回の助成金削減は議会が明示的に定めた多様性目標および資金配分の優先順位に違反しているとして、NSFを集団提訴した。
また、大学グループも、NSFが以前に決定した研究間接経費率(大学の施設・設備使用などに対する補填)の引き下げをめぐってNSFを提訴している。原告にはカリフォルニア工科大学、カーネギーメロン大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などが含まれる。MITも複数の研究助成金を失った。
(MITテクノロジーレビューはMITが所有しているが、編集権はMITから独立している)。
NSFはコメントを拒否した。
「米国民からの詐取」
グラントウォッチは、オープンサイエンスと再現可能な研究を推進する非営利団体「アールオープンサイ(rOpenSci)」、ハーバード大学、およびその他の機関に所属する研究者たちによる取り組みで、米国立衛生研究所(NIH)およびNSFによる助成金の打ち切りを追跡している。この活動は、関係する科学者からの自主的な情報提供と、政府が公開している情報に基づいている。
「気候変動」「クリーンエネルギー」「気候適応」「環境正義」「気候正義」といった用語でこのデータベースを検索すると、NSFが118件のプロジェクトへの助成金を取り消していたことが明らかになった。これらの助成金の合計額は1億ドルを超える。また、「climate(気候)」という単語で検索した場合、300件以上の研究プロジェクトが該当し、それらには2億3000万ドル超の資金が割り当てられていた(「climate」という語は通常は気候変動関連の研究を指すが、一部の抄録では文化的風潮を意味している)。
これらの助成金の一部は、すでに研究グループに交付済みである。rOpenSciの代表で計算科学研究者のノーム・ロスによると、データベースのNSFに関する部分にはこの「支出済み」金額は含まれていないが、概ね元の助成金額の半分程度に相当するという。
NIHのプロジェクトの中で「気候変動」で検索すると、さらに22件の研究が打ち切られており、約5000万ドルの助成金が未払いのままとなっている。これらの多くは、気候変動や極端気象が人々の精神的・身体的健康に与える影響を研究するものであった。
NSFは最近、打ち切りとなったプロジェクトの独自リストを公開しており、その内容はグラントウォッチの調査結果とほぼ一致している。このことは、この記事で言及されている各プロジェクトの助成金が実際に打ち切られたことを裏付けている。
rOpenSci代表のロスはメールで次のように述べている。「これらの助成金打ち切りは、米国民に対する詐取行為です。トランプ政権は、これらの研究を違法に中止することで、納税者のお金を浪費し、科学分野における米国のリーダーシップを損ない、米国政府が約束を守らないことを世界に示しているのです」。
米国最古の大学であるハーバード大学は、特に大きな打撃を受けている。
同大学は4月、研究資金の削減に加え、入学選考や大学運営に対する連邦政府の介入を理由として、トランプ政権を提訴した。これに対しホワイトハウスは、NSFおよびNIHからの数百件に及ぶ助成金を含む、同大学へのすべての連邦資金の停止に動いている。
太陽光を利用してクリーン燃料を生産する「人工光合成」に関する先駆的な研究をしていたハーバード大学のダニエル・ノセラ教授は、自身が受けていた助成金がすべて打ち切られたとメールで明かした。
「もはや研究資金はありません」とノセラ教授は付け加えた。
打ち切られたプロジェクトのひとつには、ハーバード大学とNSFのアメリカ大気研究センター(NCAR)による共同研究も含まれていた。この研究は、世界中の科学者に広く使われているオープンソースの気候モデル「コミュニティ地球システムモデル」の大気化学コンポーネントを更新することを目的としていた。
NSFの抄録によれば、この研究は「気候システムにおける大気化学の理解を深め、気候変動の文脈における大気質予測の改善に寄与する」ことが期待されていた。
この研究の責任者であるハーバード大学のダニエル・ジェイコブ教授は、メールで次のように述べた。「私たちは作業の大部分を完了し、区切りとなる段階まで到達することができました。しかし、助成金の打ち切りは化学と気候の相互作用に関する研究の継続に影響を与えるでしょう。そして、進行中のプロジェクトから資金を引き揚げることが正しいとは思いません」。
打ち切りの影響を受けた研究プロジェクトの多くは、何らかの形でDEIの問題に取り組んでいる。しかしそれは、恵まれない地域の人々がエネルギー産業由来の汚染によって病気になる割合が高く、極端気象の悪影響をより強く受けやすく、また科学分野での代表性が不足しているという確固たる証拠が存在するからである。
最も高額な打ち切り事例のひとつは、カリフォルニア大学アーバイン校のフェローシッププログラム「気候正義イニシアチブ(CLIMATE Justice Initiative)」で、約400万ドルの助成金が未交付のまま打ち切られた。このプログラムは、地球科学分野でより多様な研究者を採用・育成・指導することを目的としていた。
この5年間のプログラムはちょうど折り返し点にあったが、NSFは突如として資金提供を停止し、南カリフォルニアの地域パートナーと共に環境正義研究に取り組んでいた多くのフェローへの支援が打ち切られた。プログラム責任者であるカリフォルニア大学アーバイン校のキャスリーン・ジョンソン教授は、フェローシップの残りの期間中にできる限り多くの参加者へ支援が続けられるよう大学が模索していると述べた。
「私たちが直面しているすべての地球規模の課題に取り組むには、地球科学や気候科学の訓練を受けた、あらゆる社会的背景を持つ人々の力が必要です」とジョンソン教授は語る。「この研究に最も適した人材とは、地域社会のニーズを理解し、公平な解決策の実践に取り組める人々なのです」。
「多様性のあるチームの方が、より優れた科学を生み出すことが証明されています」とジョンソン教授は付け加えた。
トランプ政権が反対意見を持つ科学者や研究機関に報復するのではないかという懸念が広がる中、助成金を打ち切られた研究者の多くは、MITテクノロジーレビューからの問い合わせに回答せず、コメントを辞退した者もいた。
今後の削減
NSFおよびNIHによる既存助成金の打ち切りは、気候関連およびクリーンエネルギー研究に対する、トランプ政権による連邦資金削減計画のほんの始まりに過ぎない。
ホワイトハウスが発表した次年度予算案では、連邦政府機関全体で数百億ドル規模の資金を削減する方針が示されており、具体的には以下のような取り組みが名指しされている。すなわち、エネルギー省の「グリーン・ニュー・スキャム(新手のグリーン詐欺)基金」、NASAの「優先度の低い気候監視衛星」、NOAAの「気候偏重型の研究・データ・助成金プログラム」、そしてNSFにおける「気候変動、クリーンエネルギー、『意識高い系(woke)』の社会・行動・経済科学」に関する活動である。
トランプ政権はさらに、5月30日により詳細なNSFの予算案を発表し、研究支出の60%削減と、クリーンエネルギー技術プログラムのほぼ全面的な廃止を提案した。加えて、気候リスクを定期的に評価する米国地球変動研究プログラムへの資金を97%削減し、世界規模の海洋変化を監視する海洋観測イニシアチブへの資金を80%、また大気研究の中核機関であるNCARへの資金を40%削減する方針も打ち出している。
科学者たちは、トランプ政権が提案した規模に近い予算削減が議会で承認されてしまえば、海洋、森林、大気といった自然環境に対する長期的な気候観測を維持するための資源が失われかねないと懸念している。
また報道によれば、政権は、ハワイ州ヒロにあるグローバル・モニタリング・ラボラトリーをはじめとするNOAAが保有する数十の施設について、リース契約を終了する計画も進めているという。同ラボラトリーは、近隣に位置するマウナロア観測所を支えており、そこでは大気中の二酸化炭素濃度の測定が数十年にわたって続けられている。
こうした時系列データに基づく研究は世界中の科学者たちにとって不可欠なものであり、たとえごく短期間の空白であっても、気象や気候の傾向を分析・理解する能力に長期的な悪影響を及ぼす恐れがある。
「私たちが今起きていることの測定をやめてしまえば、今後どこへ向かっているのかも分からなくなってしまうでしょう」と語るのは、ローレンス・リバモア国立研究所でエネルギー・環境部門の副所長を務めたジェーン・ロングである。「これは壊滅的です。逃げ道はありません」。
科学の発展を阻害
来年度にかけて公的研究資金がさらに大きく削減されるのではないかという懸念が高まり、科学者たちは研究計画の再考を迫られている。中には、そもそもその分野にとどまるべきかを見直し始める者もいる、と多くの関係者は語る。
「現在話題になっている資金の額は、大学が永続的に埋め合わせられるような規模ではありませんし、民間の慈善団体が長期的に補完できる額でもありません」と、プリンストン大学で地球科学および国際関係学の教授を務めるマイケル・オッペンハイマーは語る。「つまり、これは気候科学にとって壊滅的な打撃となる可能性があります」。
「要するに、もう滅茶苦茶な状況です。どれほどひどくなるかは、今後数か月間の裁判所と議会での動き次第です」と、オッペンハイマー教授は付け加える。
ある気候科学者は、政権による報復を懸念して匿名を条件に語ったが、資金が減少しているため、研究者たちは科学的野心を「手元のノートパソコンと既存のデータセットで何ができるか」というレベルにまで縮小せざるを得なくなっているという。
「もし、科学と教育の分野において米国を二流、三流の国に転落させることが目標だったとしたら、まさにトランプ政権がやっている通りのことをするはずです」とその科学者は語った。「みんな深く落ち込み、動揺し、そして恐れています」。
ハーバード大学のシュラグ教授は、今後さらに困難が積み重なる中で、優秀な若手気候科学者たちが米国外でのキャリアを模索したり、はるかに高収入が期待できるハイテク産業や他分野へと転身する可能性を危惧している。
「一世代まるごとの才能を失うことになるかもしれません。そして、その損失は4年後に修復できるようなものではありません」とシュラグ教授は語る。「皮肉なことに、トランプ大統領は『アメリカを再び偉大にする』どころか、まさに米国を偉大にしてきた科学の制度と基盤を攻撃しているのです」。
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- ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
- MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。