KADOKAWA Technology Review
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究極のクリーン・エネルギー
「人工葉」を目指す
2人の科学者の物語
The race to invent the artificial leaf

究極のクリーン・エネルギー
「人工葉」を目指す
2人の科学者の物語

クリーン・エネルギーを目指す科学者たちは長年にわたり、植物が太陽光と水と二酸化炭素から炭水化物を作り出す光合成にヒントを得たプロセスを、商業的に採算の取れる方法で実現する方法を探究してきた。かつて同じ指導教官の下で学んだ2人のライバル科学者は今、それぞれ全く異なるアプローチで、まだ先は遠いものの、着実な成果を出しつつ研究を進めている。 by Varun Sivaram2018.04.24

1970年代初期から研究者たちは、二酸化炭素と水と太陽光から、光合成よりずっと効率的な方法で液体燃料を作る技術を探し求めてきた。光合成は、植物が太陽光を利用して炭水化物を生成したりエネルギーを貯蔵したりするプロセスである。研究者たちはこの新しい技術を「人工葉(artificial leaf)」と呼んでいる。

採算性のある人工葉が開発されれば、クリーン・エネルギーにおける難題がいくつか解決されるだろう。人工葉は、直接かつ手ごろな値段で太陽エネルギーを保存しつつ、カーボン・ニュートラル(燃やして排出される炭酸ガスの量が光合成による吸収で相殺される)な燃料を作れるので、輸送分野に変革が起きるかもしれない。飛行機による長距離移動が環境的に持続可能になる可能性さえある。

研究者たちは人工葉開発の2つの重要ステップにおいて、時間はかかったが大きな進歩を達成した。一つは太陽光エネルギーによって、水を酸素と水素に分解する触媒の開発である。そしてもう一つは、水素と二酸化炭素をエネルギー密度の高い燃料に変換する触媒の開発だ。残った問題は、安価で豊富にある材料を使って、これらのタスクをどう組み合わせて、手ごろな値段で大規模に実用化するかである。

以下は、物理学者で「外交問題評議会(The Council on Foreign Relations)」の特別研究員であるバラン・シバラム博士の最新の書籍『Taming the Sun: Innovations to Harness Solar Energy and Power the Planet』(太陽を手なずける:太陽エネルギーを利用して地球の動力とするためのイノベーション、発行:MIT Press、未邦訳)の抄録である。人工葉研究の近年の進歩について説明し、人工葉の開発と商業化を目指す二人のライバル研究者、カリフォルニア工科大学(Caltech)のネイサン・ルイス教授とハーバード大学のダニエル・ノセラ教授がそれぞれ選んだ方法について詳しく見ていく。

ある爽やかな晩、外交問題評議会のメンバーたちはビバリー・ヒルズのペニンシュラ・ホテルに集まり、ある研究者の人工葉開発に関する考えを聞くことになった。

集まっていた企業幹部や政府高官、大使経験者のうち、どんな話になるのか分かっている人間はほとんどいなかった。講演者の経歴が紹介されると、何人かは不安そうに目くばせし合った。おそらくは難解な物理学の講義でも聞かされるものと身構えたのだろう。

しかし当夜の講演者であったCaltechのルイス教授は、研究者としては稀有な能力を持っていた。複雑な概念を覚えやすいように簡潔に抜粋し、様々な研究の撚り糸を説得力のある話術に織りあげられる人物であるのだ。ルイス教授の白髪は、彼が人工葉の追及に捧げた何十年もの歳月を示している。ルイス教授は太陽光の将来についての説明を、「貯蔵できない? じゃ4時過ぎたら明かりなし」という簡潔できっぱりしたキャッチコピーで始めた。

ルイス教授は低い声でゆっくりと説明した。貯蔵できないのだから、太陽光を燃料の形で保存して、必要な時に使えるようにする技術を緊急に開発しなければならない。彼の推す方法は統合型太陽光燃料生成器という秀逸な装置だ。この装置は水と太陽光から、水素と酸素の気体を生成する。この水素を自動車の燃料にしたり、電力網への電気供給に使ったり、あるいは原料として使ってガソリンなどの複雑な燃料を製造したりするのだ。

連邦政府の資金援助を受ける人工光合成総合センター(Joint Center for Artificial Photosynthesis)の研究責任者でもあるルイス教授は、自然に存在するどんな植物よりも優れた効率を示す人工葉を開発したいと考えている。植物の光合成の成果は素晴らしいが、実は太陽光をエネルギーに変換する効率は恐ろしく悪い。もし光合成の仕組みを全く知らなくても、葉が緑色であることを見ればエネルギー効率が植物にとっての最優先事項でないことは分かる。太陽光の吸収には、葉が黒い方がずっとよいはずなのだ。葉の細胞の緑の葉緑体は、植物にとって十分な機能を持っている。複雑な化学反応をして、太陽光のエネルギーを使って、二酸化炭素と水を、エネルギーを貯蔵する糖分に変換する。植物の生存と繁殖などの活動には十分なエネルギーだ。しかし結局のところ、最もエネルギー変換効率の良い植物でも、受けた太陽光のせいぜい1%程度しか貯蔵エネルギーに変換できない。

とはいえ、植物は太陽光を燃料に変える一般的なモデルを提供する。光合成の初期段階で、植物は水を分解して水素と酸素を生成する。酸素は大気中に放出され、水素は次の化学反応に使われる。

植物が水を分解する方法は示唆に富んでいる。1つは、水分解という化学反応を二つの工程に分けていることだ。つまり水素と酸素を生成するための「半分ずつの反応」だ。進化の妙であろうか。反応を半分ずつに分けることで、酸素によって水素が自然に燃焼しないようにしているのだ。2つ目は、半分ずつの反応を加速する触媒の役を果たす分子が植物中に含まれていることだ。3つ目は、この半分ずつの2つの反応を、水素と酸素を隔離しつつ荷電イオンを通過させる膜で隔てていることだ。これは電荷の不均衡を防ぐうえで重要だ。

太陽光燃料生成器を開発する研究者は誰もが、植物と同じような装置構成を取る必要がある。「光電極」となる水に浸された二つの材料が太陽光エネルギーを吸収し、それぞれが水分解反応の半分ずつを実行する。2つの触媒はそれぞれ、水分解反応の半分を加速する。そして膜を使って「光電気化学電池(PEC)」と呼ばれるこの装置全体が爆発しないようにする。

だが、植物に似ているのはここまでだ。ルイス教授がよく言うように、人間は羽根のある鳥からアイデアをもらい、羽根を捨ててボーイング747を発明した。将来の太陽光燃料生成器は、植物とは異なり、2つの緑色の光電極が競い合って太陽光スペクトルの同じ部分を吸収することは多分ないだろう。おそらくは、水から酸素を作る …

クリーン・エネルギーを目指す科学者たちは長年にわたり、植物が太陽光と水と二酸化炭素から炭水化物を作り出す光合成にヒントを得たプロセスを、商業的に採算の取れる方法で実現する方法を探究してきた。かつて同じ指導教官の下で学んだ2人のライバル科学者は今、それぞれ全く異なるアプローチで、まだ先は遠いものの、着実な成果を出しつつ研究を進めている。
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