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福澤知浩:離陸近づく「空飛ぶクルマ」起業家のビジョン
福澤知浩(スカイドライブ)/提供写真
Trajectory of U35 Innovators: Tomohiro Fukuzawa

福澤知浩:離陸近づく「空飛ぶクルマ」起業家のビジョン

スカイドライブ(SkyDrive)の創業者兼CEO 福澤知浩は、大阪・関西万博での展示・デモフライトを経て、「空飛ぶクルマ」が社会実装され、人々に受け入れられる確信を強めている。 by Yasuhiro Hatabe2025.08.19

SF作品でおなじみの「空飛ぶクルマ」は、長らく未来を象徴する乗り物として描かれてきた。この実現を目指して2018年7月にスカイドライブ(SkyDrive)を創業し、2020年8月に日本の民間企業としては初となる4分間の有人飛行を成功させた福澤知浩は、2020年に「Innovators Under 35 Japan(35歳未満のイノベーター)」の1人に選ばれた。

福澤らが開発する「空飛ぶクルマ」は、正確にはeVTOL(電動垂直離着陸機)と呼ばれる移動手段である。電池をエネルギー源とし、滑走路を必要とせずヘリコプターのように離着陸でき、飛行機のように飛ぶ小型航空機だ。それでいてヘリコプターよりも騒音を抑え、飛行機のパイロットほどの専門知識・技術を必要とせずに運転できる乗り物を目指しており、“クルマのように身近な移動手段”として未来の生活に定着させていくという意志を込めて、「空飛ぶクルマ」と呼んでいる。

万博での一般向けデモフライト初日の模様

想定を超えたハードルの高さと新たな発見

2020年当時、日本政府は2023年を目標に地方で人員輸送サービスを実現し、その後都市へと利用を拡大していく方針を決定していた。スカイドライブも、2023年度に湾岸部を飛行するエアタクシー・サービス事業を開始し、2028年度には機体の量産化を目指すとしていた。

それから約5年が経過した現在、福澤は当時の見通しを振り返る。「2025年開催の大阪・関西万博で空飛ぶクルマを披露したいと考えていたが、これは達成できた」と話し、機体の開発は着実に進んでいると評価している。

一方で、想定以上に困難だった側面も明かす。「進めれば進めるほど見えてくる、事業化に必要な試験項目の多さや、日本で初めて電動の機体を飛ばすための認証の基準を整理しなければならない部分」が、開発期間を押し延ばす要因となった。しかしそれも、2025年2月に国土交通省航空局から「適用基準」が発行されたことで、型式証明取得への道筋が明確になった。

最も予想できなかったことは、2022年頃からの景気の悪化だという。「2020年当時は資金調達環境もよかったが、今はマクロでの資金調達額はAI領域を除くと減少傾向。eVTOL業界でも倒産した企業がいくつかある」と、外部環境の変化を指摘する。しかしそのような中でも、スカイドライブは2025年7月にスズキ、JR東日本、JR九州などから総額83億円の資金調達を実施し、活動の基盤を整えている。

物流など多様な用途での事業化を実現

人の輸送以外の分野では、すでに事業として回り始めているものもある。1つは、物流だ。人を乗せるのではなく、物を運ぶための「物流ドローン」を開発して荷物運搬を支援するサービスを展開している。現状で最も多い顧客は電力会社で、山間部にある送電用鉄塔の修理・部品の交換時に、従来は人が背負って運んでいた資材を、ドローンで運搬する需要を捉えた。

「空飛ぶクルマ」はもともとドローンの技術をベースにしており、物流などのドローン事業とは親和性が高い。物流以外にも、各地で開かれるドローンショーの企画・運営を受託する事業などを展開している。30人弱のメンバーによって「事業として完全に回っている状況」で、収益基盤の安定化に寄与しているという。

また、防災や医療における緊急輸送手段としての活用を視野に入れ、実証実験を進めているという。

「空飛ぶクルマ」が飛ぶ世界を万博で見せたい

万博での取り組みは、スカイドライブが空飛ぶクルマを実用化するうえで、重要なステップに位置づけられる。4月のメディアデーでのデモフライトに続き、7月末からは一般向けのデモフライトも開始した。福澤は「従来より広範囲を飛ぶことで、多くの方々に『空飛ぶクルマ』が飛びまわる世界を体験してもらいたい」と、その狙いを語る。

また、万博会場内の「空飛ぶクルマ ステーション」では、「SKYDRIVE(SkyDrive式SD-05型)」の実物大モックを展示している。予約すれば機体に乗り込むこともでき、「中が広い」「思ったよりクルマっぽい」など、さまざまな反応が寄せられているそうだ。未来の乗り物を実際に見て、触れることができてよかったという好意的な評価を得ている。

福澤が特に重視しているのは、新しいモビリティが社会に受け入れられることだ。「新しいモビリティが実際に街の中を飛んだときには、乗る人以外へのインパクトも大きい」として、社会受容性の重要性を強調する。

万博会場内「EXPO Vertiport」での充電風景/提供写真

「物理的に無理」以外はすべて実現できる

航空業界という規制の厳しい世界で、イノベーションを創出する上で大事にしている考え方を聞いた。福澤の答えは、「物理的に無理なこと以外はすべて実現可能」というものだった。「難しいとされることの多くは、気持ちの問題か制度の問題です。気持ちの問題は、気の持ちよう次第。制度を作っているのは人なので、うまく整理して皆が同じ方向を見ることができれば、制度を変えるなり他の方法を選択することで困難を乗り越えられると考えています」。

これまでの開発過程で「物理的に無理」として大きく方針転換したものはないが、電池性能の現実的な制約は受け入れている。「いきなり100キロメートルは飛ばせないので、まずは今の電池で飛べる15〜40キロメートルの範囲で事業をつくろう」と、技術の発展段階に合わせた現実的なアプローチをとっている。

社会実装への確信は強まる一方

これまでの取り組みの中で福澤が得た最大の学びは、「思ったよりも進む」ということだという。「自動車業界出身で、ベンチャーに慣れていない自分が、ある種”思いつきで”始めたプロジェクトでしたから、うまくいくかわからないと思っていました」。福澤は創業当時をこう振り返る。

航空業界では認証基準の策定に通常10年かかると言われる中で、社員、株主、関係会社、政府などさまざまなステークホルダーのサポートを得て、「目の前の課題に真摯に向き合って進めていくと、プロジェクトは進む」ということを実感した。「今は、空飛ぶクルマの事業化への確信は強まる一方。できない理由ができる理由にどんどん変わっていく」と力強く語る。

直近の課題は、2025年中に事業に必要なすべての動作検証を社内で完了させること。そして2026年以降は、認証取得にフォーカスするという。「認証取得に向けての大きな障害は今のところありません。粛々と進めていきます」。

スカイドライブは早ければ2026年の認証取得を目指しており、2028年のサービス開始に向けて大阪メトロとの協業も発表した。ポスト万博の大阪エリアでの社会実装を具体的な目標として掲げている。

その先の展望について福澤は、「高層階のマンションのベランダから直接離陸し、世界中どこへでも、さらには宇宙へも自由に移動できる世界を実現したい」という壮大なビジョンを描く。

この連載ではInnovators Under 35 Japan選出者の「その後」の活動を紹介します。バックナンバーはこちら

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畑邊 康浩 [Yasuhiro Hatabe]日本版 寄稿者
フリーランスの編集者・ライター。語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集、社内SEを経験。その後人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。2016年1月からフリー。
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