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見過ごされた気候フィードバック効果、温暖化が数年早まる可能性も
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The greenhouse gases we're not accounting for

見過ごされた気候フィードバック効果、温暖化が数年早まる可能性も

気候変動が引き起こすフィードバック効果により、地球温暖化は予測よりも数年早く進む可能性がある——。永久凍土の融解、熱帯湿地からのメタン急増、山火事の拡大が相まって、自然システム自体が新たな温室効果ガス排出源となっている。 by James Temple2025.08.11

この記事の3つのポイント
  1. 気候変動が湿地・永久凍土・山火事からの温室効果ガス排出を加速させるフィードバック効果が発生
  2. IPCCの現行予測モデルはこれらの自然由来排出をほとんど考慮していない
  3. フィードバック効果により2℃上昇が数年早まり、温暖化対策の時間が最大4分の1短縮される可能性
summarized by Claude 3

2021年の春、気候科学者は頭を抱えていた。

世界経済は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のロックダウンからようやく脱却しつつあったが、なぜか大気中のメタン濃度が前年に急上昇し、観測史上最速のペースで増加していた。メタンは主に農業や化石燃料の生産を通じて排出される温室効果ガスである。

世界中の研究者がこの謎を解明すべく、人工衛星や航空機、温室効果ガス観測所が収集したデータの検証に取り組み始めた。やがて、明確なパターンが発見された熱帯地方全域でメタン排出量が急増しており、この地域の湿地では湿潤化と温暖化が進行していたのだ。 

この状況は、嫌気性の汚泥で繁殖する微生物にとって理想的な環境を作り出した。そして、微生物は炭素を豊富に含む有機物をより多く消費し、副産物としてより多くのメタンを排出していた(大気中のメタンの分解を助ける窒素酸化物による汚染が減少したことも、大きな役割を果たした可能性が高い)。

この発見は、気候変動そのものが自然システムから温室効果ガス排出量を増加させていることを示す、これまでで最も明確な事例のひとつである。この排出量の増加によって温暖化がさらに進み、それによってさらに排出量が増加するという悪循環を繰り返すフィードバック効果が生じている。

このフィードバック効果が現在発生している、あるいは近い将来に発生する可能性のある要因は、山火事や永久凍土の融解など、他にも多数存在する。これらは、主要な排出源であるにもかかわらず、パリ協定に基づき各国が達成を目指している目標には含まれておらず、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の温暖化シナリオでもほとんど考慮されていない。

サンフランシスコに拠点を置く非営利団体、スパーク・クライメート・ソリューションズ(Spark Climate Solutions)は、この状況を変えたいと考えている。

同団体が立ち上げようとしているのが「モデル相互比較プロジェクト」という取り組みだ。これは、複数の研究チームが多様な排出シナリオにおいて、同一の実験を異なるモデルを用いて実行し、気候変動がどのように進行するかを把握することを目指すものだ。今回のプロジェクトでは特に、さまざまな気候フィードバック効果が、どのようにしてさらなる温暖化、排出量の増加、そして新たな種類のフィードバックを引き起こすのかを探究する。

「このような自然発生源からの排出量の増加は、人為的な排出量を増加させ、気候変動を増幅させます」。ジョー・バイデン政権下で気候科学顧問を務めたスパーク・クライメート・ソリューションズの主任科学者、フィル・ダフィーは言う。「そして、これらすべてを総合的に検証しなければ、フィードバック効果の強さを定量化することはできません」。

スパーク・クライメート・ソリューションズによると、このプロジェクトには米国の非営利団体である環境防衛基金(EDF)、スタンフォード大学、ウッドウェル気候研究センター、そして欧州とオーストラリアの他の機関の科学者も参加する予定だという。

同団体は、IPCCの第7次評価報告書の作成に間に合うように成果を発表し、これらの危険性が十分に反映されることを目指している。そうなれば、各国は世界の炭素収支、つまり産業革命以前の水準から地球の気温上昇を1.5℃または2℃以内に抑えるために排出できる温室効果ガスの総量について、より正確に把握できるようになる。

とはいえ、現時点ですでに明らかなことが1つある。それは、現在のシナリオではこのようなフィードバック効果は十分に考慮されていないため、世界の温暖化は、現在予測されているよりもほぼ確実に速いペースで進むことになるということだ。これは、この研究の実施がいかに重要かを強調している。

環境防衛基金、ウッドウェル気候研究センター、その他の研究機関の科学者が査読中の論文で明らかにしたところによると、世界最北端での森林火災や永久凍土の融解、熱帯湿地の温暖化が相まって、地球が2℃の上昇を超える時期が数年早まり、パリ協定の中核目標を達成するまでに残された時間が最大で4分の1失われる可能性があるという。

スパーク・クライメート・ソリューションズは今年これまでに、「温暖化によって誘発される温室効果ガス排出」に関する研究と啓発を推進するためのより広範なプログラムを立ち上げた。このプログラムでは、今回のモデル相互比較プロジェクトと同様の共同研究を今後も展開する予定だ。

プログラムを率いるベン・ポールターは、「気候科学と気候政策の分野でこのテーマが当たり前に取り上げられるようになること、気候問題の解決策に関する研究を推進すること」が目標だと説明する。ポールターはかつて、米国航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙飛行センターの科学者だった。

スパーク・クライメート・ソリューションズは、気温の上昇によって、海洋からの二酸化炭素放出が増える可能性があると指摘している。また、農地からは二酸化炭素と、オゾン層を破壊する強力な温室効果ガスである亜酸化窒素が追加で放出され、山火事によって二酸化炭素とメタンがさらに増加し、そして永久凍土の融解によってこれら3つガスすべてがさらに増加する可能性があるという。

北半球の広大な地域では、地面が一年中凍結しており、アラスカからシベリアにかけて、大気中の2倍の量の炭素を蓄えた凍土の地下貯蔵庫が形成されている。

ウッドウェル気候研究センターで永久凍土を研究する北極気候科学者のスーザン・ナタリは、凍土が融解すると温室効果ガスが分解・放出され始めると述べている。1月に学術誌『ネイチャー(Nature)』に掲載された研究論文では、山火事や永久凍土の融解、その他の要因を考慮に入れると、世界の北極域と亜寒帯地域の30%がすでに炭素の吸収源から排出源へと転じていると指摘されている。

こうしたリスクの高まりにもかかわらず、IPCCの前回の主要報告書に反映されたモデルのうち、永久凍土の融解によるフィードバック効果を考慮に入れたものはごくわずかだった。さらに、これらの生態系は監視とモデル化が難しいため、排出リスクは依然として十分に考慮されていなかったとナタリは指摘する。

複雑な要因の1つに山火事がある。山火事は予測が難しく、融解を加速させる可能性がある。また、どの地域が乾燥化し、どの地域が湿潤化していくかを予測することも困難だ。それによって主にメタンが放出されるか、二酸化炭素が放出されるかが決まる。しかも、二酸化炭素とメタンは短期間か長期間かによって温暖化への影響が大きく異なる。考慮に入れるべき相殺効果も存在する。たとえば、地域によっては、二酸化炭素を吸収する植物が氷や雪に取って代わることもある。

ナタリは、こうした複雑なフィードバック効果への理解を深めることが、私たちが直面する危険を理解する上で不可欠だと主張する。

「十分に理解できていなければ、人々の命や健康がさらに危険にさらされることになります」とナタリは語る。「私たちは人々の安全を願っていますが、今後の展開が分からず、それに対する備えがなければ、安全を確保するのは非常に困難です」。

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ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。
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