KADOKAWA Technology Review
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After Setbacks, a Pioneering Stem-Cell Technology Is Back in Human Trials

脊髄損傷患者の臨床試験で
ES細胞に「効果あり」

細胞療法は脊髄損傷を治療できるのか? 長期の研究で効果あり、に希望。 by Katherine Bourzac2016.09.15

ヒトES細胞の史上初の臨床応用に踏み出した アステリアズ・バイオセラピューティクス(カリフォルニア州フリーモント)によると、脊髄を損傷した患者の治療結果は良好だという。

治療法を開発するアステリアズは14日(日本時間15日)にデータを発表予定だ。脊髄を損傷した5人の患者が神経系の細胞を注入された後、動きと感覚を若干取り戻したという。

アステリアズのテクノロジーは、約20年前のヒトES細胞の発見と結びついており、注目に値する。ヒトES細胞はヒトの初期胚から得られ、ほとんどあらゆる種類の細胞に分化できる。たとえばオリゴデンドロサイトは神経を保護する支持細胞で、アステリアズがES細胞から作り出している細胞だ。

アステリアズのジェーン・レブコウスキーCSO(最高科学責任者)によると、支持細胞を脊柱に注入すると、神経の損傷を抑えたり回復させたりできるという。直接新しい神経細胞を育てるわけではない。動物実験の結果から、支持細胞は既存の神経細胞が死ぬのを防ぐと期待される。「当社は治療で神経系を回復できることを示したいのです」とレブコウスキーCSOはいう。

幹細胞の治療効果には疑念もある。メソジスト・リハビリテーションセンター(ミシシッピ州ジャクソン)の神経学者キース・タンゼイによると、細胞移植には不明なことがあり、脊髄損傷患者への細胞注入は「ヘイル・メリー(アメフトで終盤に出す苦しまぎれのロングパス)です。とりあえず投げてみて、うまくいくのを願うだけです」という。

医師は500万個または1000万個の細胞を有志の患者の脊柱に注入した。1000万個注入された方の患者は、5人とも特定の動きの機能が改善した、と南カリフォルニア大学神経再生センター(ロサンゼルス)のチャールズ・リュウ所長はいう。この結果は、ウィーンで開催される国際脊髄学会55周年科学会議で発表される予定だ。

そもそも研究の始まりは、バイテク企業の先駆者ジェロンがスポンサーとなった1998年のヒトES細胞発見まで遡る。ジェロンは2010年にES細胞の医学的応用に向け、脊髄損傷患者に世界初の臨床試験をした。しかし安全性試験で何人かの患者を治療した後、ジェロンはこの計画を打ち切った

この計画はその後、アステリアズとその親会社でジェロンのミッチェル・ウェスト元CEOが率いるバイオタイムに引き継がれた。アステリアズは2014年にカリフォルニア再生医療機構から1430万ドルの資金を得て、現在の「SCiStar」試験を始めた。

研究では段階的に注入細胞数を増やしたが、対照群となる患者がいなかったため、治療の効果を実証するのは難しい。アメリカ脊髄障害協会のタンゼイ会長は、治療ありの患者と治療なしの患者を含む盲検試験の結果が示されるまでは、慎重にならざるを得ないという。アステリアズは現在の試みがうまくいけば、そのような盲検試験を実施する予定だとしている。

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カリフォルニア州サンフランシスコを拠点に活動するフリーランスのジャーナリスト。MIT Technology Reviewの契約編集者で、以前は材料科学担当編集者でした。材料科学やコンピューティング、医療についての記事を書いています。お気に入りは、ナノマテリアルならカーボンナノチューブで、準粒子ならプラズモンです。職業ジャーナリスト協会北カリフォルニア支部の理事も務めています。2004年に、MITのサイエンスライティング講座を修了しています。
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