フラッシュ2023年3月19日
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量研ら、てんかん発作時に症状を短時間で抑える治療法を開発
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]量子科学技術研究開発機構(量研)、東京都立神経病院、京都大学、情報通信研究機構、新潟大学の研究グループは、人工受容体とそれにのみ作用する人工薬剤で神経活動を操作する「化学遺伝学」の手法で、てんかん発作の症状が出たときにだけ、病巣の神経細胞の活動をオフにして症状を緩和する治療法を開発した。化学遺伝学は、量研が霊長類への応用に成功している技術である。
研究グループは、実験用に2頭のカニクイザルを用意。それぞれの左脳の一次運動野(手支配領域)に抑制性の人工受容体を発現させるウイルス・ベクターを注入。6週間後にPET検査で、一次運動野に狙い通り人工受容体が発現していることを確認した。さらに、皮質脳波を計測するアレイ電極を埋め込み、てんかん発作を誘発する薬剤(ビククリン)を運動野に微量注入した。
ビククリンを注入されたカニクイザルは、右手が勝手に動く症状から始まり、数分後には全身がけいれんする重篤な発作を起こした。ここで、人工受容体を作動させる人工薬剤であるデスクロロクロザピン(DCZ:Deschloroclozapine)をごく微量だけ筋肉注射したところ、数分でてんかん発作とてんかん脳波が減弱した。2頭のカニクイザルを対象に、同様の実験を6回実施したところ、6回ともDCZの筋肉注射でてんかん発作が3分以内に減弱することが分かり、統計学的に有意な効果であることを確認できた。
研究成果は2月28日、ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)にオンライン掲載された。実験では、脳へ人工受容体の遺伝子を導入し、CDZ投与後に人工受容体が活性化しても神経細胞死や免疫応答などの脳へのダメージは確認できなかった。また、DCZ投与によって運動能力や覚醒状態に悪影響が及ぶこともなかった。
今後はヒトを対象とした臨床試験を視野に入れ、遺伝子導入技術の安全性とDCZを長期間投与することの安全性の確認などの取り組むとしている。
(笹田)
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