フラッシュ2023年5月15日
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性的不平等と脳との関連を明らかに=国際研究グループ
by MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]京都大学、チリカトリック大学、米国立衛生研究所などの国際研究グループは、性的不平等と脳構造の性差の関連について解析した。
研究グループは、29カ国から集めた成人男性3798人、成人女性4078人の脳を写したMRI画像を検証し、それぞれの大脳皮質の厚さと表面積、海馬の体積を求めた。さらに、29カ国それぞれのジェンダー・ギャップ指数とジェンダー不平等指数を組み合わせて、性別感の不平等指数を算出した。その上で、一人一人の脳の構造と、不平等指数の関連の有無を確認した。ジェンダー・ギャップ指数とジェンダー不平等指数は、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行する前の2019年のものを使用した。
その結果、右大脳半球の皮質の厚さの男女差が、性別感の不平等の程度に関連することが分かった。性別間の不平等が大きいほど、女性の右大脳半球の大脳皮質は薄くなる傾向があった。この傾向は、各国のGDPから算出した経済発展の差による影響を差し引いても認められたという。
さらに、大脳皮質を68の領域に分けて、それぞれの領域の皮質の厚さと性別間の不平等の関係を確認した。その結果、右前部帯状回尾側、右眼窩前頭回、左外側後頭葉の3領域で、男女間の不平等が大きい国ほど、男性に比べて女性の大脳皮質が薄いとの結果を確認できた。性別間の不平等がなければ、大脳皮質の厚さに男女差は表れず、右前部帯状回尾側に限っては女性の方が大脳皮質がより厚いという傾向が見られた。
男女間で皮質の厚さに差があった領域のうち、前部帯状回と眼窩前頭回は困難に耐え忍んでいるときや、不公平な状況で他人と自分とを比べているときに活動することが分かっている。うつ病患者は、この領域の大脳皮質が薄く、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者は、この領域の体積が低下していることも確認できている。
研究成果は5月8日、米国科学アカデミー紀要(The Proceedings of the National Academy of Sciences:PNAS)にオンライン掲載された。今回の研究結果からは、性別間の不平等によって女性が不利な環境に置かれ続け、生涯を通して脳に対するストレスの影響を受けていることが分かるとしている。
(笹田)
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