130年前の「切り裂きジャック」を特定? DNA捜査はどこまで進んだか
130年前のショールについた精液のしみから、切り裂きジャックの正体を突き止めたとする英国人研究者の主張は、冷ややかに受け止められている。だが、新しいDNA分析の手法は、古い手紙やパイプ、そして一房の髪に隠れた秘密を解き明かしつつあることを意味している。
法科学ジャーナル(Journal of Forensic Sciences)に掲載された論文によれば、ある研究者はビクトリア朝の忌まわしい連続殺人事件に関係する、彼が言うところの「唯一の物的証拠」から得られたDNAが、ポーランド系移民で長年容疑者であったアーロン・コスミンスキーのものである可能性があると述べている。
だが、専門家らは疑いを抱いている。ジャーナリストであり遺伝学者のアダム・ラザフォード博士はツイッターで、その報告は「ひどい科学」であり、調査対象となったショールの出所も疑わしく、歴史的根拠もあやふやだとこき下ろした。
このニュースで本当に注目すべきことは、人工遺物からDNAを抽出することに特化した、今まさに誕生しつつある新しい産業なのだ。人工遺物とは、たとえば祖父の舐めた切手や、昔の大農園に埋められた南北戦争前の喫煙用パイプなどである。
研究者がどうにかしてDNAサンプルを取得しさえできれば、我々の先祖が何をしていたか、そもそも彼らは誰なのか、そして髪や目の色といった情報さえも知ることができるのだ。
古い手紙からDNAを抽出するのは依然としてきわどいビジネスだが、実際にそうしたサービスを提供している企業もある。オーストラリアのクイーンズランドに拠点を置く「トゥザレターDNA(TotheletterDNA)」は約550ドルで、切手や封筒に残されたDNAを探して検査している。
DNA検査で先祖を探る企業「マイヘリテージ(MyHeritage)」の創業者であるギラード・ヤフェット最高経営責任者(CEO)は昨年開催されたあるカンファレンスで、アルバート・アインシュタインとウィンストン・チャーチルが書いた手紙を所持しており、DNAを抽出しようとしていると述べた。
「私たちの先祖は気づいていなかったでしょう」とヤフェットCEOはアトランティック誌の取材で語っている。「彼らが切手や封筒の垂れぶたを舐めたとき、その貴重なDNAを私たちのために永久に保存してくれたのです」。
サクラメント・ビー紙によると、警察当局は現在、ゾディアック事件に関連した、1960年代に複数の新聞社に向けて暗号文を送った際に使われた封筒を分析する遺物調査に着手している。この連続殺人鬼は捜査から逃れることに注意深かった一方、封筒を舐めて封をするという行為が、自身の正体をばらす可能性があるとは認識していなかっただろう。当時はまだ、DNA鑑定は広く使用されていなかったからだ。
警察や好奇心の強い研究者がひとたびDNAを取得すれば、彼らはその身元を突き止めるために、遺伝子系図を利用できる。遺伝子系図を利用した捜査の多くは、GEDマッチ(GEDMatch)というオープンソースのWebサイトに遺伝子情報をアップロードし、それを元に親族を特定する。
GEDマッチの運営者は、人工遺物からDNAを調査する研究者に対し、「対象物の以前の所有者、または使用者が死亡していると分かっている限り」自由なアクセスを許可している。現在のところ、たとえば机の下にガムをくっつけた人間を特定するような、現代の物体の検査は許可していない。しかしそれも、将来は可能になるのかもしれない。