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人工卵巣で更年期障害を改善できるか? 米国でラット実験
WAKE FOREST INSTITUTE FOR REGENERATIVE MEDICINE
Will Artificial Ovaries Mean No More Menopause?

人工卵巣で更年期障害を改善できるか? 米国でラット実験

閉経後、女性の卵巣は機能を停止し、ほてりや睡眠障害、体重増加、さらには骨粗鬆症などの症状が出てくる。

研究室で作成した卵巣を移植することで、これらの症状を止められるかどうかを調べる研究が現在なされている。手法の有効性を調べる最初の研究の1つに、生体組織工学を用いて、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンを分泌する人工のラット卵巣を作成した取り組みがある。

ウェイク・フォレスト・バプティスト(Wake Forest Baptist)医療センターで実施された研究によると、大勢の女性が中年期に達した後に摂取する合成ホルモンに代わる治療法の可能性が示されたという。この発見について述べた論文が12月5日、ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された。

オルガノイド(研究室で作られた立体的な臓器)と呼ばれる組織片として作成した人工卵巣をラットで試験したところ、骨の健康状態の改善や体重増加の防止において、従来のホルモン補充薬より良い結果が得られた。子宮の健康的な組織を維持する面でも、ホルモン薬と同等の効果を発揮した。

しかし、人工卵巣の臨床試験がすぐに実施される見通しはない。理由の1つとして、オルガノイドの作成に必要な細胞をどこから調達するのかという問題がある。研究を主導するウェイク・フォレスト・バプティスト医療センターのエマニュエル・オパラ教授は、若い女性から提供してもらう可能性に言及している。

更年期にある女性や、がん治療を経験したり、医療上の理由で卵巣を取り除いた女性は、エストロゲンやプロゲステロンなどの重要ホルモンをつくる能力が失われる。体内でこれらのホルモンの量が少なくなると、身体機能に様々な影響が表れる。

不快な症状を抑えるため、多くの女性はホルモン補充薬である合成エストロゲンやプロゲスチンを組み合わせて摂取する。しかしホルモン補充療法は心臓病や乳がんのリスクを増大させるため、長期にわたる実施は推奨されない。オパラ教授は、現在使用されている薬剤よりも人工卵巣の方が安全で効果も大きいかもしれないと考えている。

人工卵巣のオルガノイドを作成するため、オパラ教授のチームは顆粒膜細胞と卵胞膜細胞という2種類の細胞を組み合わせた。卵巣を取り除いたメスのラットからこれらの細胞のサンプルを採取し、研究室で育てて、立体的な組織を作り上げた。

移植から1週間以内に、人工卵巣はエストロゲンやプロゲステロンを分泌し始めた。現在のホルモン補充薬には含まれない2種類の天然ホルモンもほかに確認された。

内分泌学会のスポークスパーソンを務める、カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部のシンシア・ステュエンケル臨床教授は、研究は素晴らしい内容だが、このような治療で本当に閉経状態が逆転するとマイナス面も予想されると話す。女性の生理や、それに伴う諸症状を取り戻すだけの量のホルモンを確保できるのかも疑問だと言う。

エミリー マリン [Emily Mullin] 2017.12.07, 13:30
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