KADOKAWA Technology Review
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ヒトゲノム計画から20年、
「適確医療」の現在地
生命の再定義 Look how far precision medicine has come

ヒトゲノム計画から20年、
「適確医療」の現在地

30億ドルを投じて人間の遺伝子を解読する「ヒトゲノム計画」でゲノムの設計図が発表されたとき、遺伝子情報に基づく「適確医療」が病気の診断・予防・治療に革命を起こすと大きな期待が寄せられた。それからほぼ20年が過ぎた現在、適確医療は一見するとさほど普及しておらず、期待外れとの声も一部で聞かれる。 by Antonio Regalado2018.11.16

管の中に唾を吐いて、アンセストリー(Ancestry)や23アンド・ミー(23andMe)などの消費者向け大手DNA検査会社に自分のDNAを送った人の数は、今秋にも2000万人を超えそうだ。自分のクラスメートや隣人の何人かがその中に含まれていてもおかしくない。今まであまり関心のなかった人にとって、2000万という人数は非常に多いと感じられるだろう。そして、どのようにしてこうなったのかと疑問に思うかもしれない。

その答えは「徐々に」である。DNA検査を受ける人の数は、2010年以来ほぼ毎年倍増している。検査を受ける人数は現在、毎月100万人単位で増加しており、この巨大なDNAバンクのおかげで驚くほどの新しい応用が可能になっている。消費者は、将来禿げるかどうか、がんになるかについての科学的な予測を受け取ることができる。警察の捜査員たちは今年、犯罪者逮捕のために、消費者のDNAデータの利用を開始した。不眠症や知能の原因究明にも遺伝子探索が広範になされている。そして、23アンド・ミーは今夏、パーキンソン病の治療をはじめとする、個々人向けにカスタマイズされた医薬品を開発するため、巨大製薬会社グラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline)と3億ドルで提携した。今回の提携は、カスタマイズした医薬品により、特定の遺伝子異常を持つ一部のパーキンソン病患者を救うことが可能であり、この遺伝子異常は23アンド・ミーのデータベースで容易に発見できるはずだとの考えに基づいている。

30億ドルを投入して人間の遺伝子コードを解読する、13年間にわたるヒトゲノム計画以来、研究者や医師は「適確医療(precision medicine=「精密医療」とも呼ばれる)」の到来を予測してきた。言葉の定義についてはさまざまな意見があるが、グラクソや23アンド・ミーが追求している医療の形態をまさに強く示唆している。各個人の特定の遺伝子構成を考慮に入れて、ターゲットを絞った、より効果的な医療である。2000年6月、ゲノムの最初の設計図が発表された時、当時の大統領であったビル・クリントンは、このデータが「全てとは言わないまでも、ほとんどの人の疾病の診断、予防、治療に革命をもたらすだろう」と述べた。

この大きな約束からほぼ20年が過ぎた現在、適確医療がなぜそれほど普及していないのかという議論が盛んである。今年の夏のニューヨーク・タイムズ紙の記事によると、がん患者の死亡者数は依然として生存者数を大きく上回っており、「適確医療が革命をもたらすというのは誤解なのだろうか」との疑問が提起されている。進歩が遅いと感じられる1つの理由に、すべての適確医療が医薬品を含むわけではないことがある。遺伝子探索の範囲が広がるにつれ(最新のものでは、100万人以上のDNAと医療記録の比較が含まれる)、多くの通常疾患について、不都合な事実が明らかになってきた。つまり、これらの通常疾患は大概、1つの原因で生じるわけではなく、数百個もの遺伝子がそれぞれ少しずつ関わっているのである。そのため、薬で介入する箇所を明確に定められないのだ。

そこで、医薬品の代わりに、新たな予測科学に力が入れられている。予測科学では、遺伝学的リスクのプロファイルを利用して、血圧を下げた方がよい人や、アルツハイマー病にかかる可能性が高い人、化学療法の恩恵を得にくいために治療を受ける必要のないがん患者などを特定できる可能性がある。このような予測医療は広くは認められておらず、患者に習慣を変えさせるのが困難であることは確かだ。しかし、こうした予測は、多くの人々に適確医療への確実な道筋を提供し、患者が自分自身の身体について知識を深めることにつながるかもしれない。

がん以外の疾病に関しても、いくつか効果的な治療法がすでに開発されている。DNA検査をした人の数が数百万人まで増大していることになかなか気づかないのと同じように、変化はいたる …

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