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Why Insurance Companies Want to Subsidize Your Smart Home

なぜ米国の損保会社はIoT機器設置で保険料を値引きするのか?

ドアベルとサーモスタットをインターネットで繋げば、住宅保険会社が保険金を支払わない済むよう、住宅を適切に管理してくれるかもしれない。 by Stacey Higginbotham2016.10.13

米国中の保険会社が、スマート家電の設置を後押しするサービスを提供している。自宅にインターネット接続型機器を取り付けると、住宅保険がお得になるサービスを提供し始めたのだ。機器の種類には湿度センサーから映像付きのドアベルまで、実にさまざまだ。

たとえば、USAA(米軍関係者とその家族向けの保険会社)やアメリカンファミリーなどの保険会社は最近、ハイテク製品のバーゲンセールを開始した。ステートファーム保険(米国最大の損害保険会社)は住宅セキュリティーモニター「カナリア」の設置を条件に住宅保険料を割引いている。

リバティーマチュアル保険(米国第2位の損害保険会社)は販売価格99ドルの火災報知器「ネスト・プロテクト」を無料で配布し、機器を受け取った加入者の住宅保険料から火災保険料を割り引くサービスを提供している。

このようなサービスがスマート家電の普及を促進し、保険ビジネスに大きな変化を与え、住宅管理の方法を変化させるかもしれない。将来的には、たとえば、家の水道管が破裂する前に保険会社が配管業者を呼んでくれるかもしれない。しかし同時に、こうしたデータの漏洩や家宅侵入から機器を守らねばならず、データ損失やランサムウェアに対する脆弱性といった新たなリスクも生じる。

Insurer American Family has a 600-square-foot model home for testing connected home devices.
保険会社のアメリカンファミリーは、スマート家電設備の試供を目的とした約56平方メートルのモデルハウスを所有している

一部の保険業者はより多くのことを望んでいる。顧客が自宅にインターネット接続型家電を取り入れるよう促すことで、自社に利益をもたらす大量のデータが手に入ると考えているのだ。スマート家電から得られるデータを使って、 従来のクレーム対応業務をより効率的にこなしつつ、顧客との新たな関係を築けるかもしれない。顧客の自宅から提供されるデータがあれば、保険業者は顧客に対して住宅メンテナンスの優先事項を知らせ、水漏れなどの問題が大きな損害を引き起こす前に手を打てるだろう。

USAAイノベーション事業部のジョン=マイケル・コウォール部長補佐は、自身が生み出したいと考えているのは「住宅のためのエンジン警告灯」のようなものだという。たとえば、もうすぐ水道管が壊れそうなとき、湿度センサーのデータをもとに保険会社が入居者に対して警告したり、あるいは子どもが時間通りに学校から帰ってきたかを通知したりできるようになるかもしれない。

コウォール部長補佐は「近い将来、加入者の皆さんに郵便の宛先をうかがって、『テクノロジーの箱』をお送りすることになるでしょう。箱の中には、クレームを未然に防ぎ、なおかつ保険加入者の皆さんにより良いサービスを提供するための機器が入っているのです」という。

ウィスコンシン州マディソンには、アメリカンファミリーが所有する約56平方メートルのモデルハウスがあり、家具が備え付けられた室内で水漏れセンサーやカメラなどで危機を実際に試せる。アメリカンファミリーがすでに映像付きドアベル「リング」を設置する顧客に対する割引サービスを実施しているのは、リングが強盗被害に対する抑止力になるからだ。アメリカンファミリーのサラ・プティ事業開発部長によると、今後スマート機器のサポート台数を増やしていく予定だという。

住宅の管理手法を変革する保険業者の夢の実現は、今のところ、プライバシーとセキュリティーに対する疑問によって阻まれている。また、サポート機器に業者間での互換性がないことも障害になっている。プティ事業開発部長は最近、イリノイ州の保険事業部を率いる同僚から、顧客の家から集められたデータが不正使用される懸念について話を持ちかけられたという。また、何が不正使用に当てはまるのかを定義するのも難しいことだろう。

たとえば、保険会社が水漏れ被害を防ぐために閲覧するデータが、顧客の分析にも使われるかもしれない。その結果、ある顧客がよりリスクの高い行動を取りやすい傾向にあるとわかれば、その顧客の保険料がこっそり引き上げられるかもしれない。アメリカンファミリーとUSAAは、集めるデータの種類とその目的について加入者がしっかりと理解するよう、顧客と明確なコミュニケーションを取っているという。

USAAのコウォール部長補佐は、起きやすい損害を避けることで浮いた資金で、損害を防ぐテクノロジーにかかる費用をまかなえるだろう、という。水漏れに対して支払う補償金が少なければ少ないほど、水漏れセンサーに、より多くの資金を投入できるわけだ。

しかし、アクセンチュアのグローバル保険事業を率いるジョン・クザーノ専務取締役は、顧客の家をデータの供給源に変えていく動きは、データ漏洩のリスクを高めることにもなると指摘する。たとえば、スマート家電から得られるデータであなたが自宅にいるかどうかわかれば、強盗にとって有利だ。もっとありそうなのは、ランサムウェアが特定の機器を攻撃することだ。たとえば、家主が大金を支払うまで暖房が作動しなくなるといったトラブルが考えられる。

クザーノ専務取締役は、このような新たなリスクを反映するために、保険業も変わっていくだろうと予想している。保険業者は水漏れに対する保証金の支払額を大幅に削減できるかもしれないが、ランサムウェアに対する対策もしなければならなくなるだろう。スマート家電が保険業者と住宅オーナーにもたらす利益が、全ての欠点を上回るほど大きなものであればいいのだが。

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