KADOKAWA Technology Review
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生命の再定義 3-D Printed Kidney Parts Just Got Closer to Reality

人工透析患者を3Dプリンターで救う方法

全人類の10人に1人の慢性腎疾患患者は移植に変わる工学技術を利用できる。 by Mike Orcutt2016.10.20

3Dプリンターを使って、科学者が、小さくて複雑な、本物の腎臓の重要な機能と似た働きをするチューブを製造した。

3Dプリンター製の腎組織はハーバード大学のジェニファー・ルイス研究室の成果だ。ルイス研究室は組織を「バイオプリンティング」する革新的な手法を開発している。人間のさまざまな種類の組織にある複雑な構造や、組織の生存に欠かせない血管系を、バイオプリンティングの手法で印刷できる。3Dプリントはさまざまな種類のゲル状「インク」を用いて印刷し、印刷後に研究者が不要なインクを取り除くことでチューブの中を空洞にする。その後、細胞を付着させ、組織に成長させる。

腎臓の人工的な交換部品を製造するには多くの段階が必要だ。しかし、3Dプリンターで本物の腎臓と似た働きをする腎組織を研究者が製造したことは、重要な意味がある。この腎組織を考案した、材料科学者で応用生物学エンジニアリングの専門家であるルイス教授によれば、近い将来、人工腎臓は人体の外で利用され、腎機能を失った人や新しい医薬品の毒性を試験するときに役立つ可能性がある。

研究者は20年以上も人工腎臓を作ろうとしてきたが、腎機能に欠かせない腎臓の複雑な3次元構造や細胞の構造の再現が大きな課題だった。しかし、人工腎臓の必要性は急を要している。世界人口の約10%が慢性腎疾患に苦しんでいるのだ。何百万人もが、時間がかかり肉体的にきつい透析療法に頼って生きている。透析療法では、血を抜き取り、ろ過装置を通して、身体に戻す。ただし、透析の機械は腎臓ほどの効果がない。そのため、米国では毎年1万6000人が腎臓の移植を受けており、さらに10万人が移植を待っている。

Using a 3-D "bioprinter," researchers were able to mimic the structure of an important kidney part.
3D「バイオプリンター」で、研究者は腎臓の重要な構造を一部再現できた

研究室の実験によって、培養組織がある程度本物の腎機能の働きを示すことが明らかになった。誰も達成したことがないことだと研究者はいう。特に目を引くのは、腎臓の基本的な機能単位であるネフロンの構成要素である近位尿細管を研究者が作り出したことだ。ネフロンは血液をろ過し、身体によいものを保ち、よくないものを排出する。科学者がネフロンを生成できれば、理論上は腎臓を製造できる。しかし、そのためには相互に接続された組織をいくつかさらに開発する必要があり、それにはもっと多くの年月が必要だ。

それでも、ルイス教授によれば、近位尿細管は栄養を再吸収する過程で重要な役割を果たすため、印刷された人工組織は、たとえば、新薬の試験に利用できるなど、医療的な価値がある。治験の後半段階である臨床試験で約20%が失敗するのは、新薬が腎臓に毒とみなされるからだ。また、腎臓透析の手助けをするために、身体の外に置かれた装置内でも、人工組織を利用できる。ルイス教授は、装置の開発には少なくとも数年かかるという。

(関連記事:“10 Breakthrough Technologies: Microscale 3-D Printing,” “Artificial Organs May Finally Get a Blood Supply”)

マイク オルカット [Mike Orcutt]米国版 共同編集者
マイク・オルカットはMIT Technology Reviewの共同編集者です。ワシントンDCに駐在して、米国政府がどのように新興技術を取り入れているか(または取り入れていないか)がわかるような動向を追いかけています。また ワシントンでは、新しいテクノロジー的機会や産業に関わったり妨げになったりする出来事や論争を取材しています。連絡は、mike.orcutt@technologyreview.comまでお願いします。
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