KADOKAWA Technology Review
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中国に勝ち、そして負けた
グーグルは悲願の再参入を
果たせるのか?
コネクティビティ How Google took on China—and lost

中国に勝ち、そして負けた
グーグルは悲願の再参入を
果たせるのか?

グーグルは中国市場にいち早く参入し、突然、中国政府に打撃を与える形で撤退した。その後の中国の成長したインターネット市場を狙って、グーグルは中国市場への再参入を試みている。しかし、したたかな中国政府、いらだつ米国政府、人権侵害に沸騰する世論という3者を相手に自らの進退も決められなくなっている。 by Matt Sheehan2019.02.08

中国市場への最初のグーグルの進出は、短命な実験だった。グーグル・チャイナの検索エンジンは2006年に発表されたが、2010年に大規模なハッキング攻撃を受け、検索結果の検閲について論争が起きる最中に突然、中国本土から引き上げた。しかし2018年8月、調査報道サイトの『インターセプト(The Intercept)』は、グーグルが「プロジェクト・ドラゴンフライ(Project Dragonfly)」という新しい検閲機能付き中国向け検索エンジンのプロトタイプを秘密裏に開発中だと報じた。人権活動家や一部のグーグル従業員が激怒する中、マイク・ペンス米国副大統領がグーグルに対して「プロジェクト・ドラゴンフライは共産党の検閲を強化し、中国人顧客のプライバシーを危険にさらす」から中止するように要請した。2018年12月中旬にインターセプトが伝えるところによると、インターセプトの記事によってプロジェクト・ドラゴンフライについて知ったグーグル社内のプライバシー・チームからの指摘によって、開発は中止されたという。

世界最大の市場に再び参入するかどうかの決定権がグーグル自身にあるかのように評論家はいうが、グーグルは原則を曲げ、中国の要求通り検索を検閲するだろうか? いや、ポイントのずれた質問だ。今回、それを決めるのは中国政府だ。

グーグルと中国は、どちらが主導権を握り、どちらが従うかという厄介な対立を10年以上も続け、動きが取れなくなっている。その間の両者の関係を調べてみると、グーグルなどのシリコンバレー企業と中国との関係が大きく変化したことが分かる。グーグルの中国への再参入を中国が許すかどうかを理解するためには、中国とグーグルの関係がどのようにして現在の状態に至ったのか、それぞれを駆り立てている条件は何か、そして人工知能(AI)が両者をどう近づけ、新たな協力体制を築く可能性があるのかを知る必要がある。

正しい選択だろうか?

2006年に「www.google.cn」がローンチしたとき、グーグルはまだ上場して2年経ったばかりだった。アイフォーン(iPhone)も、アンドロイドのスマートフォンもまだなかった。グーグルは規模も市場価値も現在の5分の1ほどであり、一方の中国のインターネットは他国市場から隔離された、発展やイノベーションのない「まがいもの」だと見られていた。グーグルの中国向け検索エンジンは、インターネットに関するこれまでの駆け引きの中でもっとも議論を呼ぶ実験だった。まだ若く「Don’t be evil(邪悪になるな)」をモットーにしていたグーグルだったが、中国市場に参入するため、中国のユーザーに表示される検索結果に検閲を入れることに同意した。

グーグル経営陣がこの決定で重要視したのは、たとえ検閲があったとしても中国市場で活動することで中国人ユーザーの視野を広げ、中国のインターネットを多少でもオープンにできるという考えだった。

最初のうち、グーグルは目的を達しているように見えた。中国のユーザーがgoogle.cnで検閲のかかったコンテンツを検索すると、削除された検索結果がある旨の注意書きが表示された。インターネットが検閲されていることを大衆に通知した検索エンジンは中国で初だったのだ。だが、規制当局には不評だった。

「中国政府は嫌悪していました」とバイドゥ(百度、Baidu)の郭怡廣(グゥォ・イーグゥァン、英名Kaiser Kuo)前国際通信部長は話す。「中国政府はこの件について、自宅に夕食に招待されてやって来たのに『料理を食べるのは同意したが、気に入らない』といっているようなものだ、と話すのです」。グーグルは検閲が入っているとの注意書きを掲載する許可を事前に得てはいなかったが、その注意書きを削除するようにも命令されていない。グーグルに世界的な名声があり、技術的な専門知識があったおかげだ。中国は有望な市場かもしれないが、有能な人材や資金、専門知識においては依然としてシリコンバレーに依存していた。グーグルは中国が欲しく(「できれば」進出したく)、中国はグーグルが「どうしても」必要だったのだ。

グーグルが検閲についての注意書きを掲載できたのは、透明性の点でのささやかな勝利だった。バイドゥなどの中国製の検索エンジンもすぐにまねをした。それからの4年間、グーグル・チャイナはさまざまな小競り合いを繰り広げた。中国政府とはコンテンツ制限をめぐって、中国内の競争相手バイドゥとは検索結果の品質をめぐって、カリフォルニア州マウンテンビューの本社経営陣とは世界的な製品を地元のニーズに適合させる自由をめぐって。中国のコンサルティング会社アナリシス・インターナショナル(易観智庫、Analysys International)のデータによれば、2009年末にグーグルは中国の検索市場の3分の1以上を占めており、かなりのシェアではあるものの、それでもバイドゥの58%よりはずっと少なかった。

しかし、最終的にグーグルが中国から撤退することになった理由は、検閲でも他社との競争でもなかった。グーグルの知的財産から中国の人権活動家のGメール(Gmail)アカウントに至るまでを対象とした広範囲なサイバー攻撃「オーロラ作戦(Operation Aurora)」だった。グーグルが中国国内からによるものだと発表したこの攻撃は、グーグルの許容範囲を超えていた。2010年1月20日にグーグルは「当社はGoogle.cnでの検索結果の検閲を続けることはできないとの決断をしました。ついては今後数週間で、検索結果への検閲を入れない方法が合法的に存在するのなら、どのような条件で運営できるのか中国政府と話し合う予定です」と発表した。

グーグルの突然の方向転換は中国の役人の面目を失わせた。中国のほとんどのインターネット・ユーザーは中国政府がインターネットを検閲しているという事実をオンラインで知ることは滅多にないが、グーグルの発表はサイバー攻撃と政府検閲にスポットライトを当てることになった。世界トップのインターネット企業と世界で人口のもっとも多い国の政府が、公開対決に入った瞬間だった。

「中国政府担当者はまったく守勢で、穴を掘ってそこに隠れようとでもしているようでした」と郭前部長は話す。「それまでインターネットの検閲について全然気にしたことのないような人たちが、検閲に対して怒りを表していました。インターネット全体がこの話題であふれかえっていました」。

しかし、それでも政府担当者は譲歩しなかった。当時、外務省のスポークスマンはロイターに「中国は法律にしたがって、中国でサービスを展開する国際的インターネット企業を歓迎します」と述べた。政府による情報規制は中国共産党方針の中核となっていたし、今もそうだ。その半年前には、新疆ウイグル自治区での騒乱を受けて、中国政府はフェイスブック、ツイッター、そしてグーグルのユーチューブを一挙にブロックすることで「グレート・ファイアウォール(Great Firewall)」を強化した。中国政府は「中国と中国のテクノロジー業界が成功するためにグーグル検索は必要でない」ことに賭けていた。

グーグルは直ちにgoogle.cnを放棄して香港に退却し、香港を本拠地にする検索エンジンになった。中国政府はそれに対し、Gメールやグーグル・マップ(Google Maps)などのサービスの完全ブロックを止め、しばらくは中国本土から香港の検索エンジンへの散発的なアクセスも許すことにした。両者は、緊張した膠着状態に留まった。

グーグルの経営陣は持久戦に入るつもりだった。「個人的に …

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