KADOKAWA Technology Review
×
新たなゴミにはならない?
宇宙のゴミ問題解決を目指す
カナダの宇宙企業
Ms Tech
This company wants to deal with space junk by… sending up more space junk

新たなゴミにはならない?
宇宙のゴミ問題解決を目指す
カナダの宇宙企業

カナダの宇宙企業がスペース・デブリを40基のコンステレーション(衛星群)で追跡すると計画している。この計画は宇宙のゴミを増やすのか、衛星とゴミの衝突を避ける機会を増やすのか? by Neel V. Patel2019.09.24

地球の大気圏を周回しているスペース・デブリ(宇宙ゴミ)はおよそ1億3000万個もある。そのうち世界(つまり、米国空軍)が追跡しているのは、大きな脅威をもたらす大きさ10センチメートル以上の約2万2300個のデブリだけだ。

だがこれでは、多くのリスクが問題として残るのは確かだ。デブリの大半は時速約3万5400キロメートル以上で地球を周回している。つまり、わずか0.2ミリメートルのデブリでも人工衛星に重大な損傷を与える可能性がある。現在のデブリ追跡システムは、嘆かわしいほどに力不足だ

ノーススター・アース&スペース(North Star Earth & Space)は、救済策があると考えている。このカナダの宇宙企業は、デブリの監視や追跡用の衛星40基で構成するコンステレーション(衛星群)を開発している。商用サービスの開始は2021年の予定だ。ノーススターは、ハイパースペクトル、赤外線、光学の3種類のセンサーを組み合わせてデブリを追跡。ソフトウェアを使って各センサーから送られてくるデータを分析して予測を作成し、衝突の可能性を予想する。報道によれば、カナダ政府はすでにシステムの開発に1300万ドルを投資している。

ゴミを追跡するのに、さらに多くのゴミを宇宙に送るのは直観に反しているように思われるかもしれないが、ノーススターはいいところに目をつけたかもしれない。現在、デブリの追跡に使っているレーダー・システムや望遠鏡の大半が地上に設置されているため、大気による歪みの影響を受けているデータを処理しなければならない。軌道に設置する追跡システムならそのような心配は必要ない、とニューヨーク州立大学バッファロー校(UB)の軌道デブリ専門家のジョン・クラシディス博士は話す。

宇宙からの見晴らしの良い場所、特に衛星が対地同期赤道上軌道(GEO:地表から3万6000キロメートル以上)といったより高い軌道高度に配置されれば、デブリをより広い範囲に渡って追跡し、より定期的に、1桁以上も多く見つけられる。ノーススターによると、地球の観測にも使われる同社のシステムは、ほとんどの軌道レベルでのデブリ監視を目指しているとう。

「技術的な観点からだけでも、大きな影響を与える革新的なことです」とノーススターのジャン=フィリップ・アルセノー広報責任者は話す。

この戦略を検討しているのはノーススターだけではない。米軍もデブリ追跡支援用に独自のコンステレーション衛星を打ち上げている。宇宙配備宇宙監視衛星(SBSS:Space Based Space Surveillance)計画では、2010年に1基の衛星を地球低軌道(LEO:地表から2000キロメートル以下)に打ち上げ、さらに4基をGEOに打ち上げている。

それでもやはり、取り組まなければならない障害がある。つまり、コストだ。衛星を作り、宇宙に打ち上げ、規則正しく運用するための維持管理費用は安くない。使用年数、放射線損傷、老朽化により、ハードウェアの価値や有用性が急速に低下する可能性がある。「自動車を160万キロメートル走らせることを想像してください。車は1日24時間完璧に機能しなければならないのに、点検や修理ができないのです」とクラシディス博士は話す。「私たちは衛星で同じことをしているのです」。地上では些細なことに見える問題は、宇宙では重大な問題になるのだ。

それではノーススターはどうやって、自社の機器が軌道上のデブリに加わらないようにするのだろうか? この質問はスペースX(SpaceX:自社コンステレーション「スターリンク」で1万2000基の衛星の打ち上げが目標)といった企業にも浴びせられている質問だ。事態がはっきりしなくなる恐れがあるのは、ここだ。

ゴミの軽減や是正に関する限り、宇宙で許可されていることと、許可されていないことを規定する国際条約はない。せいぜい米国にLEOに関する2つの規則があるくらいだ。衛星はミッション終了時に軌道を周回するのに十分な燃料を保持しなければならないこと、LEO小型人工衛星は打ち上げから25年以内に軌道から外れなければならないことの2つだ。クラシディス博士は、これでもまだ長すぎると考えている。衛星の寿命を10年程度に制限する方がずっといいというのだ。

さらに悪いことに、GEOに関してこのような規則は存在しないことだ。 「これらの規則が及ぶことはないでしょう」とクラシディス博士は話す。唯一の頼みは、衛星を墓場軌道(GEOより約500キロメートル以上高い軌道)に移すことだ。その場合でも、太陽系の他の天体(木星など)の重力の影響により位置を外れ、最終的にGEOで運用中の衛星に脅威が及ぶ可能性もある。

ノーススターは、自社の衛星が軌道上のゴミになる恐れがあるという意見に異議を唱えている。アルセノー広報責任者は、ノーススターの事業は最終的に「宇宙交通管理の組織化」に役立つと話す。スペースXの1万2000基のスターリンク衛星と比較して、ノーススターのコンステレーションが「ゴミを増やしたり、衛星の渋滞を引き起こしたりしないのは確かです。当社の計画はこの問題に対し切望されているソリューションなのです」(アルセノー広報担当役員)。

そして、宇宙に関わるほとんどの物事と同様に、そこに至るまで何が起こるか分からない。より多くの物体を宇宙に送り込めば軌道衝突のリスクが高まるが、宇宙にある物体を追跡すれば衝突を回避する機会が増える。そうした利点がリスクを上回るかどうかは、今のところまだ何とも言えない。

MITテクノロジーレビュー[日本版]は、宇宙ビジネスの可能性をキーパーソンとともに考えるイベント「Future of Society Conference 2019」を11月29日に開催します。詳しくはこちら
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る