KADOKAWA Technology Review
×
12/16開催 「再考ゲーミフィケーション」イベント参加受付中!
ハッキングされた
「ハッキング・チーム」
崩壊と再建のシナリオ
-
コンピューティング Insider Online限定
The fall and rise of a spyware empire

ハッキングされた
「ハッキング・チーム」
崩壊と再建のシナリオ

人権侵害と独裁政権への協力で高収益を上げていたイタリアのハッキング企業は、別のハッカーによるハッキング被害によって壊滅に追いやられた。だが、同社を買収した新しいオーナーは、法執行機関を支援しながら、新たな監視帝国を築きたいと考えている。 by Patrick Howell O'Neill2019.12.25

そのスパイウェアは目に見えず、誰にも追跡できないはずだった。だがその代わりに、開発していた企業の活動が捉えられ、世間に暴露されてしまった。

イタリア企業の「ハッキング・チーム(Hacking Team)」は創業10年目の2014年、監視分野で世界規模の事業を展開していた。同社の「リモート・コントロール・システム(RCS)」と呼ばれる先進的な監視技術は、悪名高い独裁国家を含む各国政府に導入されていた。RCSはもっぱら、政府が狙った特定の人物からデータを密かに盗み出すために利用された。セキュリティ研究者によって同社の活動が明らかになったとき、ハッキング対象のリストには人権活動家やジャーナリストが含まれていた。

そのハッキング・チームが別のハッカー集団によって攻撃されたのは2015年のことだ。電子メールから納品書、ソース・コードまで総計400ギガバイトを超えるデータがネット上に公開された。同社のツイッター・アカウントもハッキングされ、攻撃の事実を世間一般に広く晒されることとなった。

世間一般から見れば、ハッキング・チームは抑圧的な政権の協力者である。同業他社から見れば同社は「ハッキングされたハッキング会社」だった。顧客は次第に離れ、学生アルバイトでさえ同社で働くことには慎重になった。

あれから5年近く経った現在、大失敗した会社を立て直し、元の収益性の高い事業を取り戻したいと考えている人物がいる。パオロ・レッツィだ。

新しい枠組み

11月下旬、パリで開催されたハイテク防衛軍事展示会でレッツィを取材する機会があった。ハッキング・チームがレッツィによって買収されてからほぼ1年になる。レッツィは社名を変更し、自身が経営する企業とグループ化し、かつての強大な事業を死の淵から生き返らせようとしている。

レッツィへの最初の質問は、抑圧的な政権との関係が取り沙汰されるスパイウェア企業の首脳と面と向かったときに、誰もが最初に思い浮かぶものだった。

「(あなたの会社のツールが)悪用されないことを、どうやって確認するのですか?」。

レッツィは質問をよく吟味しながら、ゆっくりと息を吸った。それから顔を上げ、取材場所から数メートルほど離れた機関銃の展示ブースを指差した。

「ほとんどの人が我々にその質問を浴びせますが、なぜ同じ質問を彼らにはしないのですか?」。彼は眉を吊り上げながら言った。

レッツィはサイバーセキュリティ企業「インザサイバー(InTheCyber)」のオーナー兼CEO(最高経営責任者)である。レッツィCEOは2019年3月にハッキング・チームを買収し、インザサイバーの子会社として「メメント・ラボ(Memento Labs)」を設立した。

ハッキング・チームの買収で、レッツィCEOはハッキング・チームに留まっていたエンジニアとインザサイバーの研究開発チームを統合。新会社には以前より控え目な社名を採用した。2019年後半、同社は監視業界の主要なカンファレンスである「ISSワールド」(プラハ)とミリポル(Milipol、パリ)でデビューした。レッツィを取材したのは、ミリポルの会場でのことだ。

「我々は、完全にすべてをやり直しています」とレッツィCEOは話す。「当社は法執行機関を支援するために、考え得る最良のツールを開発しています」。

「検知不能」

「暗闇での狩り」をスローガンに掲げているメメント・ラボは、優れたスヌーピング(のぞき見)ツールを複数販売している。

たとえば「クレイト(KRAIT)」という製品を使えば、「痕跡を残さずに、あらゆるアンドロイド・デバイスを攻撃」してデバイスを乗っ取り、ターゲット・デバイスを操作することなく監視できる。

メメント・ラボは、クレイトをターゲット・デバイスに忍び込ませるため …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #31 MITTR主催「再考ゲーミフィケーション」開催のご案内
  2. Google’s antitrust gut punch and the Trump wild card グーグルに帝国解体の危機、米司法省がクローム売却も要求
▼Promotion 再考 ゲーミフィケーション
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る