人工知能は
「次のパンデミック」を
救えるか?
新型コロナウイルス感染症のパンデミックへの対応では、人工知能(AI)を活用するさまざまな動きが報じられた。だが、AIが実際に役に立つには、多くの課題を乗り越える必要がある。 by Will Douglas Heaven2020.06.08
パンデミック(世界的な流行)の発生に最初に気づいたのは、人工知能(AI)だったのだろうか?
機械学習を駆使して世界中の感染症のアウトブレイクを監視するAI関連企業ブルードット(BlueDot)は、2019年12月30日、各国政府および医療機関や企業などの顧客に対して、中国・武漢で肺炎の症例が急増しているとの警告を出した。のちに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)として知られることになったこの疾病について、世界保健機関(WHO)が公式に警鐘を鳴らしたのはそれから9日後のことだった。
ブルードットだけではない。ボストン小児病院(Boston Children’s Hospital)にある「ヘルスマップ(HealthMap)」という自動監視サービスも、その最初の兆候を捉えていた。サンフランシスコを拠点とするメタビオタ(Metabiota)が運用するモデルも同様だった。AIが地球の裏側で発生したアウトブレイクに気づいた驚くべきケースであり、早期の警告によって多くの人命を救える可能性がある。
では、今回のパンデミックでAIは実際にどの程度役に立っているのだろうか? 難しい質問だ。ブルードットなどの企業は原則として、誰に情報を提供し、その情報がどう使われているか、第三者に口外しない。そして、人間のチームもAIと同じ日にアウトブレイクを発見したという。AIが診断ツールとして、あるいはワクチン発見支援ツールとして使われている他のAIプロジェクトは、依然としてかなり初期の段階にある。それらのプロジェクトが仮に成功したとしても、実際にイノベーションを必要としている医療従事者に届けるまでには、おそらく何カ月もの時間が必要だ。
現実を無視した過剰な宣伝文句が飛び交っている。実際に、AIが疾病に対する新しい強力な武器になるという多くのニュース報道や息を弾ませたプレスリリースに出てくる話は、部分的に正しいだけで、逆効果になってしまうリスクがある。たとえば、AI能力への過信は、情報が不足した中での意思決定につながり、薬物プログラムといった実績ある治療への介入が犠牲となり、実績のないAI関連企業に公的資金が注ぎ込まれる可能性がある。これはAI分野自体にとっても好ましくない。過度な期待を裏切ることでAIに対する関心が失われ、資金を失う結果を招くことが過去に何度もあったからだ。
だからこそ、現実を確認しておこう。AIは、特に今回、新型コロナウイルスから私たちを守ってはくれない。しかし、将来的な流行への対策として、大きな改編を加えておけば、AIがより大きな役割を果たす可能性は十分にある。その多くは簡単ではなく、好ましくないものもある。
AIの活用が期待される領域には、主に予測、診断、治療の3つがある。
予測
ブルードットやメタビオタなどの企業は、さまざまな自然言語処理(NLP)アルゴリズムを使って、世界中の異なる言語の報道機関による記事や公的な保健機関による報告を監視している。言及されているのが、新型コロナウイルスなどの優先度の高い感染症なのか、あるいはHIVや結核といったエンデミック(地域常在化)なのかを分類してフラグを立てる。さらにこれらの予測ツールでは、航空機の利用データを活用し、感染者が交通ハブに到着または出発するリスクを評価する。
その結果はかなり正確で、たとえばメタビオタが2月25日に公表した報告書は、3月3日時点の世界全体の感染者数を計12万7000件と予測した。実際より約3万件多かったが、同社データ科学部のマーク・ガリバン部長は、十分に誤差の範囲内だと説明する。さらに予測では、中国、イタリア、イラン、米国など、新たに症例が確認される可能性の高い国がリストアップされていた。繰り返しになるが、悪くない予測だ。
ソーシャルメディアの動向を注視する予測ツールもある。ノースカロライナ州シャーロットを拠点とするデータ分析企業のストラティファイド(Stratifyd)は、フェイスブックやツイッターなどのサイトへの投稿を収集し、米国立衛生研究所(NIH)や世界動物保健機関(World Organisation for Animal Health)、さらにゲノム配列情報が格納されている世界微生物識別データベースといった情報源から抽出された疾病の説明と、ソーシャルメディアの投稿とを相互参照するAIを開発している。
こうした企業の取り組みは間違いなくすばらしいものだ。機械学習のここ数年の進化を証明するものでもある。グーグルは数年前、「フル・トラッカー(Flu Tracker)」でアウトブレイクの予測を試みたが、2013年のインフルエンザの流行予測に失敗し、運用を終了した。そこから何が変わったのだろうか? 大きな違いは、幅広い情報源からデータを取り込める最新ソフトウェアの能力に行き着く。
教師なし機械学習もまた重要な鍵となる。事前に選択された例で訓練するのではなく、AIにノイズの中から独自のパターンを識別させることで、人間が予期していなかったことが浮き彫りになる。ストラティファイドのデレク …
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