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接触者追跡ってどんな仕事?米国の最前線で働く3人に聞いた
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“The first day was really hard”: Life as a contact tracer

接触者追跡ってどんな仕事?米国の最前線で働く3人に聞いた

新型コロナウイルス感染症患者への濃厚接触者を追跡するため、米国では多くの人を雇っている。図書館員や元医療関係者など、その職歴はさまざまだ。 by Bobbie Johnson2020.05.16

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが広がる中、米国の各州は経済活動の再開を検討している。経済活動を再開すれば、新型コロナウイルス感染症に感染している可能性のある人を追跡して隔離する、接触者追跡の需要はますます高まるだろう。米国全土で働く接触追跡担当者に、どのような仕事か、経験したこと、今後について話を聞いた。

ジャイナ・ブロウワー(44歳)、サンフランシスコ

サンフランシスコの公衆衛生局が、図書館業務に携わる人の中で接触者追跡プログラムに参加したい人がいるかと尋ねたとき、私はすぐに手を上げました。説明を聞くと、図書館員としてのスキル、さらに本人や家族が必要とする情報を提供するという私たちのミッションに完全に合った業務だと思いました。

多岐にわたる研修を1週間受ける間に、手順、ソフトウェア、プライバシー・ルールについて学習し、経験豊富な接触追跡担当者から仕事を学びました。私の勤務は5月10日から始まり、接触者追跡プログラムに週に20~25時間取り組む間も、図書館の他の業務も続けることになっています。

接触者追跡プログラムでの主な仕事は、検査で陽性となった人から新型コロナウイルスに曝露した可能性のある人に連絡することです。現在接している人の多くはスペイン語しか話せないので、多くの図書館員は翻訳機を使用しなければならず、さらに会話に時間がかかります。私の母国語はチェコ語ですが、スペイン語を話すようにしています。それによって、より多くの人に電話で対応でき、役立っていると感じられるようになりました。勤務中はだいたい15~25人に電話し、4~5人に完全な聞き取り調査をします。

「政府に不信感を持ち、接触者追跡プログラムのやり方を疑う人も多少はいます。気持ちはわかりますが、残念です」

私が接する人はたいてい、こちらが手を差し伸べたことにとても感謝します。彼らは私たちの目的に役立つ、多くの情報を提供してくれます。

中には、接触者追跡プログラムのやり方を少し疑う人もいます。生年月日や住所を尋ねると電話を切る人もいます。政府に対して不信感を持っている人がいるのも理解できます。でも、それは非常に残念です。自主隔離する方法、家族を守る方法、利用できるサポートの種類など、政府からの情報で得られるメリットもいろいろとあると私は感じています。

私が電話する人のうち、だいたい50%から60%くらいの人は出ません。留守番電話を設定していない人もいます。でも可能な場合は伝言を残しています。昨日は数人がかけ直してくれました。

初日は本当にハードでした。用意されたシナリオに従い、データを入力しながら会話します。これまで経験してきた仕事よりも、マルチタスクになってしまいます。でも、徐々に楽になってきたし、電話相手をかけた人たちと信頼関係を築けたと思えるときもあります。ときには、政府があなたを追いかけているのではなく、あなたを助けるため、あなたのためを思って電話をかけているのだと伝える必要があります。

これは私にとって有意義な経験です。いろいろと新しいことを覚え、助けが必要な人にどれほど協力できるかを知ることができるからです。部門の壁を越え、医学生や図書館員、市の弁護士事務所の職員など、さまざまなスキルも持った人たちが新型コロナウイルス感染症の接触者を追跡する課題に取り組んでいます。

ロバート・ブランソン(79歳)、マサチューセッツ州

私は現役を退いていましたが、いまはマサチューセッツ州で調査員として、週に40時間働いています。私たちは、新型コロナウイルス感染症と診断された患者に電話し、「気分はどうか」「食糧はあるか」「自宅での隔離は可能か」「検査で陽性になる48時間前に誰かと接触したか」などと尋ねます。そうした情報をコンピューター・システムに入力し、すべての接触者の情報を引き継げるようにしています。

「この追跡プロセスはまだ新しく、混乱が予想されます。私たちは間違うこともありますが、学んでいきます」

私がこの仕事を始めたのは4月のことです。マサチューセッツ州がアウトブレイクを追跡するために医療従事経験者を募集していたのがきっかけでした。10年前に退職するまで私は40年以上、マサチューセッツ総合病院とボストン小児病院で医療の仕事に従事していました。そこで、新型コロナウイルス感染症を追跡する仕事に応募ししたのですが、膨大な労力が必要でした。1000人で、2万5000人のウイルス接触者を追跡するのです。

私たちの目標はウイルスの拡散を遅らせ、研究者にワクチンや特効薬を開発する時間を与えることです。マサチューセッツ州の追跡プロセスは始まったばかりで、私のように新規で雇われた人が仕事を覚えるまでは混乱が予想されます。私たちは間違えながらも仕事を覚えていきます。このプロセスがもっと早く、スムーズに進むように、みな休みなく働いています。患者の状態を確認するために毎日電話すると伝えた時、安堵のため息と「ありがとう」の言葉を聞いたのは一度だけではありません。この「ありがとう」の言葉こそ、私が医療の仕事に愛情を持てた理由だと思い出しました。

※ロバート・ブランソンはMITテクノロジーレビューの最高経営責任者(CEO)兼発行人エリザベス・ブランソン・ブードロウの父にあたる。なお、本記事の取材対象者に謝礼は支払われていない。

ジェード・マリー(22歳)、ユタ州

私は現在、ユタ州のある保健局で働いています。公衆衛生の学位を取得したばかりです。私の仕事は個々の患者を検査し、病気の兆候や症状、体温を観察し、診断に関する質問や14日間の隔離期間終了後の回復プロセスの様子を確認することです。

今日は約20件対応しなければならないのですが、通常は1日2~3時間かけて全員に連絡し、話をして質問に答えます。対応する人数は、自分で管理できます。その理由の1つは、 すでに以前ほど人が出歩かなくなっているから です。

「実際に彼らが家にいるのか、いまだに外出しているのかはわかりません。提案に従ってくれていると信じるしかありません」

一番難しいのは、14日間に渡って回答を続けてもらうことです。提案に従ってもらえるかどうかは本人が決めることで、普段の行動までこちらは管理できません。ですが、彼らが家にいるのか、いまだに外出しているのかは実際のところわかりません。提案を遵守していることを、信じるしかないのです。普段取って欲しい行動を提案し、それに従ってくれることを願っています。提案に反発したり、フィードバックを返すことに興味がないと言う人も数人いました。でも、これまで完全に拒否した人はいません。

ユタ州では5月1日から経済活動が再開され、20人以下の企業の営業が許可されました。来月は新たな陽性者が増えるのではと思っています。経済活動の再開とともに、陽性者数は増えていくでしょう。どちらに転んでも安全な計画を立てていますが、いい結果になることを望んでいます。

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サンフランシスコを拠点に、主に特集と紙の雑誌の編集を担当しています。前職は、数々の受賞歴があるオンライン・マガジン「マター(Matter)」の共同創設者。ガーディアン紙ではテクノロジー記者と編集者を務めていました。
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