ディープフェイク・テクノロジーは、「『偽造』したり『だまし』たりするだけのものではなく、極めて創造的かつ画期的なテクノロジーです」。ウィーチャット(WeChat)の開発元であり、中国の三大テック企業の1つであるテンセント(Tencnet)は、人工知能(AI)計画に関する新しいホワイト・ペーパー(リンク先は中国人研究者のジェフリー・ディンとキャロライン・マインハートが英訳したもの)において、こう強調している。また、規制当局に対して「賢明な対応」を促し、社会にメリットをもたらす可能性を制限しないよう強く求めている。
テンセントは、ディープフェイク技術の有益な応用例として次の5つを挙げている。いずれも、すでに利用またはまもなく利用される可能性があるものだ。
- テレビ番組や映画制作の強化:『ワイルド・スピード SKY MISSION』などの新しい映画にすでに亡くなった役者を登場させたり、スタントマンを作り出したりするためなどにディープフェイク技術が利用されている。また、世界中に広く映画を配給するためにさまざまな言語への吹き替えを自動生成することにも活用されている。
- エンターテイメントのパーソナライズ化:急速に普及しているアプリ「Zao(ザオ)」が2019年に示したように、ディープフェイク技術は、ユーザーの顔を映画やビデオゲームの登場者の顔と交換することができる。そのため、高度にパーソナライズ化されたエンターテイメントという新たなジャンルが生まれる可能性がある。
- eコマースの強化:ディープフェイク技術がすでに利用され、さまざまな民族や体型のバーチャル・モデルが生成されている。また、ユーザーがオンライン・ショッピングのデジタル環境で服を試着し、よりインタラクティブな体験ができるようになっている。
- 本物そっくりなバーチャル・アバターの作成:バーチャルのポップスターやテレビ俳優を演じる三次元のデジタル人間を生み出すためにディープフェイク技術がすでに利用されている。また、歴史上の人物を実質現実(VR)に登場させるためにも活用されている。コンピュータービジョンや自然言語解析技術と統合し、自然な会話ができるスマート・デジタル・アシスタントも生み出されている。
- 病人のサポート:最後に、ディープフェイク技術が慢性疾患に苦しんでいる人をサポートできる可能性を示している。例えば、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で声を失った人が声のディープフェイクを利用して会話することができる。
テンセントはすでに、これらの応用例のうち複数を進めるために取り組んでいると述べている。こうした同社の方針は、まだディープフェイク技術に取り組んでいない競合他社の参入を促し、買収を目論む中国のスタートアップ企業の方向性に影響を与えることになるだろう。中国政府がAIの全体戦略の一環で立ち上げた「AIナショナルチーム」のメンバーであるテンセントは、産業の拡大促進を図る規制当局にも大きな影響力を持っている。
テンセントは、ディープフェイク技術が害をもたらす可能性を認識している。特に、ポルノ画像への顔交換に利用される場合だ。しかしテンセントは、ディープフェイク技術が「社会の真実を覆すことはなく、ましてや世界の秩序を脅かすことはない」として、極めて楽観的だ。もちろん、ディープフェイク技術を商用化することで莫大な利益を得られる企業にとって、そう述べることはたやすいことだ。
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- カーレン・ハオ [Karen Hao]米国版 AI担当記者
- MITテクノロジーレビューの人工知能(AI)担当記者。特に、AIの倫理と社会的影響、社会貢献活動への応用といった領域についてカバーしています。AIに関する最新のニュースと研究内容を厳選して紹介する米国版ニュースレター「アルゴリズム(Algorithm)」の執筆も担当。グーグルX(Google X)からスピンアウトしたスタートアップ企業でのアプリケーション・エンジニア、クオーツ(Quartz)での記者/データ・サイエンティストの経験を経て、MITテクノロジーレビューに入社しました。