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死者ゼロ、モンゴルの新型コロナ対策を聞く
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How Mongolia has kept the coronavirus at bay

死者ゼロ、モンゴルの新型コロナ対策を聞く

モンゴルは中国と世界最長の陸の国境を接し、中国からの人の流入も多いが、新型コロナウイルス感染症による死者は1人も出ていない。ウランバートルにある国立公衆衛生センターの担当者に隔離・検査体制を敷いた経緯について聞いた。 by Krithika Varagur2020.08.25

モンゴルは中国と世界最長の陸の国境を接している内陸国だ。だが、中央集権度の高い早期のパンデミック対応は大きな効果を生み、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者を1人も出していない。陸軍大佐から公衆衛生の役人に転身した人物が、緊急事態下でモンゴルが広域の隔離・検査体制を敷いた経緯について語った。

モンゴルの新型コロナウイルス感染症による死者数:0人


2020年8月17日時点/出所:世界保健機関(WHO)

中国で新しいウイルスが広がっていることが初めて分かったのは、新年を迎えようとしている頃でした。1月10日に最初の勧告を公に出し、国内全土でのマスク着用を呼びかけました。

経緯はこうです。実際のところ、わが国には優れた公衆衛生のシステムはありません。そのため、行政は新型コロナウイルス感染症に大きな恐怖を抱きました。例えば、人工呼吸器もそれほどありません。一度でも集団感染が起こったら、大惨事になる懸念がありました。全員の頭にあったのは、感染が広がる前に体制を整えるということでした。コミュニティの保護にそれほど力を注いだ別の理由として、中国と世界最長の陸路国境を接しているという事情があります。その距離は4600キロメートルにも及びます。また、中国からは教育やビジネスの目的で絶えず人が入ってきます。

国立公衆衛生センターのダワードルジ・レンドゥダ。陸軍大佐から公衆衛生の役人に転身した。

モンゴルは大きな国ですが人口密度は低く、人口は320万人ほどです。寒く乾燥した厳しい気候のため、毎年11月から2月にかけてインフルエンザが猛威をふるいます。保健省は清潔にして手を洗うよう常に呼びかけています。子どもに対しては特にそうです。そのため、私たちが今出している指示にもあまり目新しいものはありません。

ウイルス検査は1月から実施しています。肺炎患者の無作為抽出による新型コロナウイルス感染症の検査も開始しましたが、感染者は一人も見つかっていません。検査キットの大部分は、簡易検査も含め、世界保健機関(WHO)から提供されたもので、迅速に体制を拡大できました。

2月には国外在住のモンゴル人を航空便で帰国させ、検査を実施しました。

3月9日まで国内での感染は1例も確認されませんでした。ですが、南部のドルノゴビ県で働いていたフランス人が感染していることが判明しました。その日以来、保健省が毎日状況を説明し、国外から流入した感染数や高リスク地域について発表しています。初の感染例が発表されたのを受け、国民は私たちの指示にさらに従うようになりました。ですが、私たちはそのような事態に十分備えていました。準備を整える時間はたっぷりあったのです。

そのフランス人についてはかなり広範な接触者追跡を実施し、何らかの接触があった120人を特定しました。接触者追跡は初めての経験ではありませんでした。国立感染症センターが開設されて以来、センターの職権の一部となっていて、性感染症など、あらゆる疾病について追跡しています。

また、24時間体制の新型コロナウイルス感染症専用ホットラインも立ち上げました。ソーシャルメディアからはさまざな間違った情報が流れてきます。大きなデマのひとつとして、モンゴル人はとても健康な食生活を送り、伝統的な遊牧民のライフスタイルのために、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染することはなく、「自然免疫」を持っているというものがありました。新型コロナウイルスは寒くて乾燥しているモンゴルでは生き延びることができず、温暖で湿度の高い場所にしか生存しないという大きなデマもありました。今は牧畜家や遊牧民のほとんどが太陽エネルギーで視聴できる衛星テレビを持っているので、情報を入手できるのです。

今回のロックダウン生活の思わぬ効果として、季節性のインフルエンザや(毎年深刻な問題となっている)肺炎、食中毒、消化器系の病気が大きく減ったことが挙げられます。

私たちの心配は今でも毎日続いていますが、国民の警戒心は弱くなっています。今は夏で、過ごしやすい天候になっています。国民はピクニックや乗馬に出かけています。地方の娯楽スポットには検温する場所を多数設けました。ショッピングモールや薬局をはじめとして、ほぼすべての公共空間では、今でもマスクの着用が必要です。しかし都市部以外では、毎日マスクを着けることは不可能だということも理解しています。

緊急事態がいつまで続くのかは分かりません。高官の中には、国境を無期限に封鎖すべきだという発言もあります。これまでの常識は通じません。日本では制限を緩和したら、新型コロナが再流行しています。今年の夏が終わるまで、隔離状態を解除するつもりはありません。ですが、学校は9月に再開する必要があります。今でも国民には、準備を怠らないように毎日呼びかけています。集団感染はすぐそこまで迫ってきているかもしれないのです。

◆◆◆

このインタビューは、発言の主旨を明確にするために編集および要約されている。

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