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スウェーデンが「ロックダウンなし」の独自路線を続ける理由
Anna Hunko via Unsplash
Stockholm Syndrome

スウェーデンが「ロックダウンなし」の独自路線を続ける理由

集団免疫を達成するために緩慢なロックダウン(都市封鎖)をするというスウェーデンの新型コロナ対策は、世界中で物議を醸している。同国の対策を主導する疫学者に、集団免疫戦略を推進し続ける理由について聞いた。 by Krithika Varagur2020.08.27

物議を醸しているスウェーデンの緩やかなロックダウンは、意外にもスウェーデンの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策を率いる疫学者のお気に入りとなっているようだ。相対的に見れば、スウェーデンは周りの国々よりもはるかに多くの死者を出している。人口100万人あたりの新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による死者数は、ノルウェーが48人、フィンランドが60人、デンマークが107人に対し、スウェーデンは573人となっている。スウェーデンの新型コロナ対策を率いる疫学者であるアンデシュ・テグネル医師が、集団免疫の獲得を追及するという国家戦略を信頼し続ける理由と、過去の歴史に見られるような感染拡大の第2波は起こらなさそうだ、との自身の見立てを語った。

なお、このインタビューは、発言の主旨を明確にするために編集および要約されている。

◆◆◆

スウェーデンの新型コロナウイルスによる死者:5787人


2020年8月19日時点/出所:世界保健機関(WHO)

世界中がスウェーデンの新型コロナ対策を注視しているというのは妙な気分ですね。世界中のどこの国でも、普通なら公務員がこれほど注目されることはありません。スウェーデンでも滅多にないことです。それに、世界から注目されているというのはある種の問題でもあります。さまざまなメディアを通じて翻訳されることで、多くの解釈の余地を残してしまうからです。

我々は今年に入ってから、厳格なロックダウン(都市封鎖)を含むあらゆる選択肢を検討しました。もともとの計画を貫くという判断に至った理由は数多くあります。完全なロックダウンがより優れた対策であるという証拠は、実際のところ何もありませんでした。また我々は、感染者の増加率を終始かなり低い数値で維持できていました。特に英国では劇的な感染拡大が起こり、オランダなどの国々でも感染者が急増しましたが、スウェーデンではそういった劇的な変化はなかったのです。どうにか感染者数を抑え込んで、医療システムが対処し続けられるレベルを維持できたといえるでしょう。

初期の段階では、「イケア(IKEA)シンドローム」と呼ばれる状態に陥っていました。どういうことかと言うと、スウェーデンの医療システムはジャストイン・タイムのサプライチェーンへの依存度が非常に高かったのです。1日に何度も備品の配送を受けているところも多く、どの病院にも十分な備蓄がありませんでした。あらゆるものが常にメーカーから使用者のもとへ「配送中」の状態となっていました。そのため、医療従事者は本来ならば不要なはずのさまざまな課題に煩わされることになりました。備品が届くにしても相当な遅れが出ることが多いため、仕事を終えて家に帰ると、次の日に出勤した時に使う分が残っている保証はないのです。防護用品は常に用意されていましたが、それ以外のものを入手するために苦労し続けねばなりませんでした。このことは、医療にあたる人々を非常に悩ませたと思います。この問題は今もまだ完全にはコントロールされてはいませんが、備品の不足を報告する病院は非常に少なくなっており、状況はかなり改善されています。

スウェーデンは緩やかなロックダウンを実施している期間に、最低でも20%のベットが常に空くように ICU(集中治療室)のキャパシティを引き上げました。さらに、遅らせることが可能な医療処置はすべて延期としました。

集団免疫の獲得に予想よりも時間がかかっていることは事実です。これにはいくつかの理由があります。ひとつには、検査対象とする人口集団が、患者全体をあまりよく反映できていなかったことが挙げられます。これまではプライマリ・ケアなどの受診者のみを対象に検査をしてきましたが、企業や病院で勤務する人々を検査してみると、免疫獲得者の割合がはるかに多かったのです。そこで我々は今、さまざまなデータソースからの情報をはめ合わせるジグソーパズルに取り組んでいます。新型コロナウイルス感染症が厄介なのは、非常に不均一的な広がり方をするところです。スウェーデンでは、免疫獲得率が0.5%の職場もあれば、20%の職場もあります。ですから本当に、大勢の人を検査する必要があるのです。

新型コロナウイルスの持つこの不均一性が非常に問題であるのは、感染抑制と感染状況の把握・理解の両方が非常に困難になるからです。新型コロナウイルスはあるグループから次のグループへとクラスター状に飛び飛びに広がります。2020年6月に、イエリバーレの鉱山で大規模感染が起こりましたが、その原因は大勢の人が1か所に集まっていたことです。私はどちらかというと、こういった局地的な感染拡大がいつ起こってもいいように準備を整え、迅速に対処できるようにしておく必要があると思います。

今回のパンデミックによって、移民や難民は他の人々よりもある程度大きな被害を受けています。理由のひとつは密集状態です。また、彼らは人との接触機会の多い仕事に就く傾向があります。ですから、これ自体は民族性の問題ではありません。近年スウェーデンを訪れ、この国で暮らすようになったさまざまな人々が、それぞれの言語で情報を得ることができるよう、我々はしっかりと取り計らっています。また、移民や難民のコミュニティに属する多数の人々を通じ、こうしたコミュニティと密接な関係を築いています。

これまでに得られた知見に照らして、スウェーデンのすべての人がマスクを着用する明白な必要性があるとは、今の段階ではまだ認識していません。ただ、我々はあらゆる情報を検討していますし、新しく入ってくるデータも増えています。タイミングや着用する人口集団によっては、マスクが有効な場合もあるかもしれません。しかし、ある人口集団においてマスクの着用による効果がどの程度あったかを測るのは非常に困難です。

長期的にどのような結果が出るか把握するのが難しいのは、制限を緩めたとき、行き過ぎた行動を招くたくさんの誘惑が生じるからです。だからこそ、スウェーデン・モデルは、どれだけ人と会ってよいかといったことに関して劇的な変化を求めないことを信念としています。いま行動制限の緩和を進めている多くの国では、制限緩和を適切なレベルで停止する方法を探ることが大きな課題となるでしょう。1918年のスペイン風邪の再流行のような、古典的な第2波が起こるかどうかは分かりません。イエリバーレのよう局地的な感染拡大が増えるのではないでしょうか。

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