KADOKAWA Technology Review
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Helen says, "A small group of people with passion can change the world

「情熱ある小さな集団が世界を変える」iRobot共同創設者語る

ルンバの大ヒットによって家庭用掃除ロボットの新市場を切り開いたiRobot(アイロボット)の共同創設者ヘレン・グライナーが語った、若きイノベーターたちへのメッセージ。 by Koichi Motoda2021.03.03

MITテクノロジーレビューは2月19日、「Innovators Under 35 Japan Summit」を開催した。Innovators Under 35は、35歳未満の才能ある若きイノベーターたちを讃え、支援する世界的なアワード。今回初の開催となる日本版では、AI/ロボット工学や輸送など5分野で13人のイノベーターが選出された。

その受賞者が集うJapan Summitの特別講演では、1999年にInnovators Under 35(グローバル版)を受賞した、アイロボット(iRobot)共同創設者のヘレン・グライナーが、起業の道のりやイノベーターとしての成功に必要な視点についてビデオメッセージで語った。

Innovators Under 35の受賞が資金調達のきっかけに

マサチューセッツ工科大学(MIT)でロボット工学を学んだグライナーがロボットに魅了されるきっかけになったのは、映画「スターウォーズ」に登場した「R2-D2(アールツー・ディーツー)」だという。グライナーにとってR2-D2は、感情や意図を持つ、単なる機械以上の存在だった。「R2-D2と出会って以来、私は単なる機械以上のものを作ることに夢中になりました」。
グライナーはMIT卒業後の1990年にアイロボットを立ち上げ、小さな虫の脳をモデリングすることで、生き物のように行動する歩行ロボットを作った。そのロボットはとても高価な割にはあまり実用性がないものだったため、「今思えばベストなビジネスプランではなかったかもしれません」とグライナーは振り返る。だが、大きな注目は浴びた。「みなさんには、自分がやっていることが評価に値するのかどうか? 自身で吟味して欲しいと思っています。それが本当に必要とされ、世界にインパクトをもたらすものなのかを自ら確認して欲しいのです」。

アイロボットの創業から9年経った1999年に、グライナーはアップル(当時)のジョナサン・アイブらと共にMITテクノロジーレビューの「Innovators Under 35(IU35:35歳未満のイノベーター)」を受賞した。グライナーは、「IU35の受賞が、私たちのロボットを世界のステージに押し上げるきっかけを作ってくれました」と振り返る。IU 35の受賞で注目され、世界経済フォーラム(WEF)に何度も参加する機会を得るなどして、ロボットの開発に必要な資金を調達できた。

情熱を持った小さなグループが世界を変える

2002年に市場に送り出されたルンバは、現在3000万台以上が販売され、北米の掃除機市場の20%のシェアを占めているという。「掃除機ロボット市場の20%ではありません。掃除機市場全体の20%にまで成長しました」。

ルンバは、ロボット作りに情熱を持ったアイロボットが夢を現実にしたものだ。グライナーは、文化人類学者のマーガレット・ミードの言葉を引用し、「情熱を持った小さなグループこそが、世界を変えられる」と述べる。「実際、エヴァンジェリストやエンジニア、製品に情熱を持った人々といった小さなグループが、世界を変えてきました。ルンバを市場に送り出したのも、小さなグループのメンバーです。あなたも今、小さなグループで活動しているかもしれませんが、小さなグループこそが最大のインパクトを持ちうるとことを伝えたいのです」。

ルンバを世に送り出したアイロボットのメンバー。「小さなグループこそが最大のインパクトを持ちうるのです」。

グライナーが学んだもうひとつのことは、チームの限界を認識することだという。掃除機ロボットの名前の候補としていくつかのアイデアがエンジニアから上がってきたが、どれもインパクトに欠けていたことからプロに依頼して「ルンバ」という名前を手に入れた。「これは、私たちにとってもっとも有効なお金の使い方のひとつでした」。

自分の道を進んでこそ世界にインパクトをもたらせる

2005年、アイロボットは上場を果たした。そこに至るまで、グライナーは多くのアドバイスをベンチャー・キャピタルから得た。一方で、「あまりにSF的だ」「インターネット事業以外に時間を費やす暇はない」「その領域には投資しない」「時期尚早だ」などといった否定的な意見を浴びたり、「私は投資したいが、パートナーが許してくれない」と言われるなど、多くのベンチャー・キャピタリストから投資を断られた。グライナーは、「なぜなら、私たちは珍しいこと、普通とは異なる道を目指していたからです」と述べる。「私たちは自分たちが成し遂げようとしている先には、必ず市場があると思っていました。だから、どんなに断られても前進したんです」。

現在、アイロボットを離れたグライナーはターティル(Tertill)の最高経営責任者に就任し、ルンバの自律移動技術を生かした新しいロボットの開発に取り組んでいる。「ソーラーパネルで充電され、放っていても自動的に毎日雑草を刈ってくれます。人間が庭に出て除草する必要がないものです」。

グライナーが新たに取り組んでいるロボットは、菜園で自動的に雑草を掃除してくれる

最後にグライナーは、「インパクトは他人が辿ってきた道ではなく、自分の道を進んでこそもたらされます。この会場にいる全員が、ポジティブなインパクトを世界にもたらせると信じています」と、受賞者にエールを送った。

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サイエンスライター。日本ソフトバンク(現ソフトバンク)でソフトウェアのマニュアル制作に携わった後、理工学系出版社オーム社にて書籍の編集、月刊誌の取材・執筆の経験を積む。現在、ICTからエレクトロニクス、AI、ロボット、地球環境、素粒子物理学まで、幅広い分野で「難しい専門知識をだれでもが理解できるように解説するエキスパート」として活躍。
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MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

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