シアトルが導入した「民主主義クーポン」で金権選挙は変えられるか
有権者の半数以上は、米国の政治システムはお金と権力を持つ人のためだけに動いていると考えている。シアトルが導入した「デモクラシー・バウチャー」制度は、金権選挙を変えるのに役立つかもしれない。 by Julia Hotz2021.05.13
テレサ・モスクエダはかつて、人々に公職選挙への立候補をお願いする立場だった。労働組合の指導者で、シアトル在住のメキシコ系米国人3世であるモスクエダは、労働者の家族が抱える問題に対処する最も効果的な方法は、問題を実際に経験したことのある人に政治家になってもらうことだと考えていたのだ。しかし、いざ自分が出馬を要請されると、ほとんどの米国民が直面する障壁、つまり金銭的な余裕がないことを挙げて断っていた。
「デモクラシー・バウチャー(民主主義クーポン)」のことを知ってからは、状況は変わった。デモクラシー・バウチャーは税金で賄われるプログラムで、25ドルの4枚綴りの証明書がシアトルの有権者に郵送される。有権者はバウチャーを使って、自ら支持する地方選挙の候補者へ寄付できる。多くの人が地方選挙戦に貢献したり、モスクエダのような人が出馬したりするための仕組みだ。
2015年の住民投票によって導入されたシアトルのバウチャー・プログラムは、この種の試みとしては国内初となるものだった。現在は市議会議員であるモスクエダは、多くの候補者にとって巨額の寄付を求めるのは気が引ける行為だと話す。「私は個人的に、5000ドルを自腹で寄付できるような人を知りません」。バウチャーによって今や、候補者は豊富な資金力を持つ支援者に頼らなくても済む。「富裕な企業や個人に恩義を感じたくはないですからね」。
もっとも、シアトルの過去2回の市議会選が示すように、バウチャー・プログラムは巨額寄付者(メガドナー)の影響を阻止していないし、年配の白人層が占めるシアトルの献金者基盤を根本的に多様化させてもいない。しかし、2019年に「選挙法ジャーナル(Election Law Journal)」に掲載された研究によると、バウチャー・プログラムは巨額寄付者の影響力を確かに弱めたと示されている。2017年と2019年の選挙で寄付をした有権者のうち、バウチャー利用者は現金で寄付した人に比べて裕福ではなかった。
シアトル市は現在、市長選に向け、デモクラシー・バウチャーの導入を進めている。小規模な寄付者をより多く引き付けることにより、巨額寄付者(アマゾンは前市長の当選に協力するため35万ドルを献金した)の影響力を弱める狙いだ。ニューヨーク市やワシントンD.C.など他の自治体も小規模の寄付を組み合わせたり、増額させたりすることで、選挙運動資金の民主化を図っている。一方で、そういったバウチャー・プログラムは導入が難しいと批判する人もいる。「参加するには、やはり自分のお金を持っていなければなりません」と、2019年の選挙法ジャーナルの研究論文を指導した研究者の1人、ブ …
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