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パンデミックで一気に普及した米国の遠隔医療は定着するのか?
Emily Haasch
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パンデミックで一気に普及した米国の遠隔医療は定着するのか?

医師も患者も長らく遠隔医療には慎重だったが、パンデミックのロックダウンによって他に選択肢がなくなると、多くの医療提供者が携帯電話やコンピューターを通して患者を診るようになった。遠隔医療は定着するのだろうか? by Andrew Zaleski2021.06.13

1世紀前に世界人口の3分の1を苦しめたスペイン風邪以来の、最も広範囲にわたるパンデミックに対する心の準備ができていた人などいただろうか? もちろん、ジェフリー・ハリス医師も、準備ができているはずなどなかった。

他の多くの人々と同様、2020年の冬、ハリス医師は中国で発見された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が世界中へ拡散していくのを心配しながら見守っていた。米国の各都市のロックダウン(封鎖)につながった2020年春の感染急増を前にした3月初め、マサチューセッツ工科大学(MIT)から長期有給休暇を取得していたハリス医師は、ロサンゼルスの地域医療センターでまだ患者を診察していた。ハリス医師は1977年からMITで経済学の教授を務めているが、50年近く開業している医師でもある。2005年以降、海外や米国のさまざまな地域診療所で、もっぱら十分な治療を受けられない人々を対象に診察してきた。メディケア(高齢者向け医療保険制度)、またはメディケイド(低所得者向け医療補助制度)のみに頼っている人々や、健康保険にすら加入できていない人々にとって、これらの診療所は医師の診察を受けられる唯一の場所だ。

しかし、ハリス医師は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がロサンゼルス郡を飲み込み、すべての患者を直接診察することが困難になるのは、時間の問題であると分かっていた。数週間が経過するにつれて、新型コロナウイルス感染症の症例は累積し、人々が混雑した待合室や診察室に集まらないようにすることが極めて重要になった。そこでハリス医師と仲間の医療従事者は、スマートフォンを利用することにした。

「感染症が蔓延し始めてからは、患者とは定期的に電話をしています。音声だけの時も、映像も使ってる時もあります。以前は、定期的に電話をすることなどなかったですね」とハリス医師は言う。「これまでずっと医療に従事してきましたが、こうした体験は間違いなく私にとって新しいことです」。

2020年夏までには、ロサンゼルス郡はカリフォルニア州における新型コロナウイルス感染症の主要な中心地となり、ハリス医師は勤務時間のすべてを患者とのリモートによる会話に費やすこともあった。患者は1日20人から24人ほど。パンデミックの前は、1日あたり最高18人ぐらいの患者を診察することが通常で、その全員を診療所で直接、診察していた。

この経験により、ハリス医師は遠隔医療を受け入れるようになった。「医療を提供する別の方法を、実際に示してくれました」と言い、仲間の医師たちの多くも同意する。メディケア・メディケイド・サービス・センター(Centers for Medicare and Medicaid Services)によると、2020年1月にオンラインで一次診療を受けたメディケアの患者は1週間に3000人未満だったが、同年4月までに、週170万人以上へと急増した。フォレスター・リサーチ(Forester Research)によると、2020年だけで、米国における日常治療目的・慢性治療目的の一般診察のうち10件に1件(診療予約の2億6000万件以上)が、オンラインで実施された。フォレスター・リサーチは、新型コロナウイルス感染症の患者の遠隔医療が、さらに3000万件近くあると算出した。

「遠隔医療は、確かにパンデミックへの対応の大部分を占めていて、大成功を収めています」と医療経済学を専門とするMITのジョナサンン・グルーバー教授は述べる。グルーバー教授は2020年4月にニューズウィーク誌に寄稿し、救急治療室ではなく、遠隔医療がパンデミック時の診療の最前線であるべきだと主張した。看護師や医師がウイルスに曝露するのを防ぎながら、感染した可能性のある人々に医療サービスを提供できるからだ。

「パンデミックの結果、医療業界全体で驚くほどオンライン診療が拡大しています」とフォレスター・リサーチのアナリストであるアリエル・トルジンスキーは言う。「オンライン診療は、今後の医療の主力になると期待されています」。

MITのキャンパス内でも、新型コロナウイルス感染症の拡散は、MITメディカル(MIT Medical、MIT学内にある学生・教職員向け病院)の迅速な遠隔医療の採用に拍車をかけた。2020年3月16日に重要な診察を除いてMITメディカルが閉鎖される前までは、遠隔医療サービスは「ほとんど存在しませんでした」と、ブライアン・シュエッツ常任理事は述べる。

「遠隔医療サービスの立ち上げが、私たちの『やることリスト』に載っていたことは間違いありません。ですが、開発と公開までに12カ月から18カ月のタイムラインで考えてました。パンデミックによって緊急に必要になったため、一刻も早く臨床医の手にツールを届けねばなりませんでした」。

MITメディカルは、すべての医療従事スタッフに必要なハードウェアを用意し、2020年3月29日に遠隔医療サービスの提供を開始した。スタッフと患者はすぐにそれを活用した。4月には1138件、5月には1564件、6月には2000件近くの遠隔医療訪問があった(MITメディカルは7月に対面医療サービスを再開してからも、遠隔医療サービスを提供し続けており、11月まで月平均2175件の受診があった)。

遠隔医療が突然人気となったのは、何年にもわたってその有用性を研究してきたMITの教授や研究者にとっては驚くほどのことではない。しかし、これまでの世間一般の通念では、診察をして実際に利益を得るには、患者が診察室や病室に来なければならないとされてきた。

「患者は遠隔医療に効果はないと考え、医療提供者は診療費を支払ってもらえないと考えていました」と、グルーバー教授は言う。「ですが、今となっては、どちらも真実ではありませんでした」。

とはいえ、オンライン医療のパンデミック後の将来は不透明だ。さまざまな償還方針に従う民間、州、連邦の支払人が入り乱れている米国の医療制度のせいで、遠隔医療での診察をどう扱うかは頭痛の種だ。各州によって決定される医師免許法により、医師は州境を超えてオンライン診察ができないことがしばしばある。オンライン医療を実施する基本的なテクノロジーは利用可能でも、患者の情報を更新し、医療提供者間で共有することは依然として困難である。言うまでもなく、すべての患者が、必要となるさまざまなアプリや映像ツールの操作に等しく精通しているわけではない。そもそもスマートフォンやコンピューターを持っていない人もいる。

これらすべての障壁を克服するには、パンデミックに対応して講じられた迅速な対策以上のことをしなければならない、とMITの研究者や教授は述べる。遠隔医療を米国の医療の基礎とする一連の長期的政策が必要となるだろう。

医療の定説を覆す

米国の臨床医や公衆衛生当局者は、新型コロナウイルス感染症の伝染を阻止する方法として、遠隔医療の選択肢を拡大することを即座に呼びかけた。米国疾病予防管理センター(CDC)の国立予防接種呼吸器疾患センター(NCIRD:National Center for Immunization and Respiratory Disease)のナンシ …

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