KADOKAWA Technology Review
×
「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集中!
ファイザーがワクチンの追加接種を主張、専門家は「時期尚早」
Mario Tama/Getty Images
Pfizer wants to give you a booster shot—but experts say it's too soon

ファイザーがワクチンの追加接種を主張、専門家は「時期尚早」

ファイザーは、自社のワクチンの予防効果が接種後6カ月で低下していることが示されたとして、3回目の追加接種が必要だとする声明を発表した。しかし、多くの専門家は、世界の多くの人々がまだ1回目の接種すら受けていない現在、追加接種を検討するのは時期尚早だと述べている。 by Cassandra Willyard2021.07.18

そろそろ新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンのブースターショット(追加接種)について考えるべきだろうか。ファイザーはそう考えているようだ。同社の代表者らは、7月12日に開かれた米国トップの科学者や規制当局との非公開の会議で、米国は3回目のワクチン接種を承認すべきだと主張した。

ファイザーとドイツのパートナーであるバイオンテック(BioNTech)は7月8日に、ワクチン接種を受けた人々の免疫効果が低下していることを確認しているため、8月に追加接種を実施するための緊急使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)を申請する予定だと発表した。3回目のワクチン接種は「最高レベルの保護を維持するために有益である可能性がある」という。

しかし、3回目のワクチン接種をすぐに受けられると期待してはいけない。7月8日のファイザーの発表を受けて、米国疾病予防管理センター(CDC)と米国食品医薬品局(FDA)は珍しく共同声明を発表し、2回のワクチン接種を受けた米国人には、現時点で追加の予防接種は必要ないと強調した。 7月12日の会議の直後、米国保健福祉省(Department of Health and Human Services)もこの意見に同意した。 「興味深い会議でした。データを共有しましたが、決定事項のようなものは何もありませんでした」。バイデン政権のパンデミックに関する主任医療顧問であるアンソニー・ファウチ博士は、その夜にニューヨーク・タイムズ紙に語った

ペンシルベニア大学の免疫学者であるジョン・ウェリー教授は、実験室での研究と実際の感染から得られたデータは、追加接種をしなくても「感染は食い止められている」ことを示していると述べる。「重症、入院、死亡が確認されているのは、ほぼ完全にワクチン未接種の集団においてです。デルタ変異型であってもです」。また、ワクチンを接種した人々に感染症が発症しても、症状は軽い傾向にある。「これはワクチンの失敗ではなく、ワクチンの成功なのです」。

7月8日の声明の中で、ファイザーとバイオンテックは、イスラエル保健省が発表した現実のデータは、ワクチンは重篤な症状に対する予防効果は依然として高いものの、症候性感染に対する予防効果は接種後6カ月で低下したことを示していると述べた。両社は、この結果は、自社の第3相試験のデータと一致しており、2回の接種を受けた後、6〜12カ月以内に3回目の接種が必要になるとしている。両社の追加接種研究のデータでは、3回目の接種により中和抗体レベルが5倍から10倍に上昇することが示されている。両社はまた、デルタ変異型を対象とした追加接種にも取り組んでいる。

世界保健機関(WHO)によると、デルタ型のアウトブレイクと戦ってきたイスラエルを含め、少なくとも4カ国が追加接種の計画を発表している。イスラエルでは7月12日から、がん患者や臓器移植を受けた人など、免疫力が低下している人を対象に、3回目の予防接種を実施している。

ほかに約半ダースの国が、追加接種について検討している。もし、これらの国々でも3回目の予防接種が実施されるようになれば、「さらに8億回分のワクチンが必要になります」と世界保健機関の主任科学者であるソウミャ・スワミナサン医師は7月12日の記者会見で述べた。

これらのワクチンは、これまでワクチンをほとんど入手できなかった国々に提供されるべきだと、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は述べる。テドロス事務局長は、貧しい国の最前線で働く人々や高齢者がまだ1回目の接種すら受けていないのに、富裕国や中所得国が3回目の接種を検討していることを批判。まだ集団予防接種を実施していない国もある。「現在、データによると、ワクチン接種のおかげで、深刻で致命的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する免疫が、長期にわたって持続することがわかっています」と同事務局長は述べる。「現在は、接種と保護を受けていない人々に対して予防接種することを優先しなければなりません」。

ニューヨーク・プレスビティリアン病院/コンロンビア大学メディカルセンター(Presbyterian/Columbia University Medical Center)の救急医療グローバルヘルス担当部長であるクレイグ・スペンサー助教授は、ツイッターで率直な意見を述べている。「製薬会社が何と言おうと、まだワクチン接種を受けられない世界中の医療従事者を差し置いて、新型コロナウイルス感染症の追加予防接種が緊急に必要になることはありません」。

だからといって、最終的に追加接種が必要なくなるというわけではない。「1年後か2年後には、追加接種が必要になるかもしれません」とWHOのスワミナサン医師は言う。ウェリー教授は、追加接種の準備するのは良いことだと述べる。しかし、今すぐに追加接種が必要だと確信できるだけのデータは見当たらないと言う。「新たなデータは、免疫力がしっかりと維持されていることを示しています」。

人気の記事ランキング
  1. AI can make you more creative—but it has limits 生成AIは人間の創造性を高めるか? 新研究で限界が明らかに
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2024 「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集のお知らせ
  3. A new weather prediction model from Google combines AI with traditional physics グーグルが気象予測で新モデル、機械学習と物理学を統合
  4. How to fix a Windows PC affected by the global outage 世界規模のウィンドウズPCトラブル、IT部門「最悪の週末」に
  5. The next generation of mRNA vaccines is on its way 日本で承認された新世代mRNAワクチン、従来とどう違うのか?
cassandra.willyard [Cassandra Willyard]米国版
現在編集中です。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る