グーグル最新AIスマホに見る、コンピューター「再発明」の方向性
グーグルが発表した最新スマホ「ピクセル6(Pixel 6)」は、人工知能の演算を専門に処理する回路を備えている。AIはすでに私たちの生活に溶け込んだ。そしてコンピューターのあり方も変えようとしている。 by Will Douglas Heaven2021.10.25
2021年の秋は、カボチャやピーカンパイの季節であり、すばらしい携帯電話が新たに登場する季節でもある。毎年、アップルやサムスン、グーグルなどが、発売日に合わせて最新機種を発表している。消費者向けテクノロジーのカレンダーを賑わせるこれらの製品からは、もはやかつてのような驚きと感動は得られない。しかし、マーケティング上の華やかな演出の裏では、注目すべきことが起こっている。
グーグルの最新スマートフォンであるピクセル6(Pixel 6)は、標準的なプロセッサ・コアーに人工知能(AI)処理専用回路を統合したSoC(System on Chip)である「グーグル・テンソル(Google Tensor)」を搭載している。近年のアイフォーンに搭載されているSoCは、アップルが「ニューラル・エンジン(Neural Engine)」と呼ぶ回路を統合しており、これもAI処理専用だ。どちらのSoCも、カメラの能力を拡張するAIなど、デバイス上で機械学習モデルを学習・実行させる計算に適している。私たちがほとんど気づかないうちに、AIは私たちの日常生活の一部となってしまった。そしてまた、コンピューティングに対する私たちの考え方も変えつつある。
どういうことだろうか。コンピューターは、およそ50年前からほとんど変わっていない。より小さく、より高速になったとはいえ、人間からの命令を実行するプロセッサーを搭載した箱であることに変わりはないのだ。AIは、少なくとも3つの面でこの状況を変える。コンピューターの作り方、プログラムの組み方、そして使い方だ。そして最終的には、コンピューターが何のために存在するのかも変えてしまうだろう。
インテル並列コンピューティング研究所のプラディープ・ドゥバイ所長は、「コンピューティングの中核は、数値演算から意思決定へと変化しています」と話す。また、マサチューセッツ工科大学(MIT)コンピューター科学・人工知能研究所(CSAIL:Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory)のダニエラ・ルス所長は、「AIはコンピューターを箱から解放しています」と言う。
AIが半導体を設計
第一の変化は、コンピューターとそれを制御するチップの製造方法に関するものだ。従来のコンピューティングの進歩は、機械が次々と計算していく速度が速まったことによってもたらされた。何十年もの間、チップメーカーが「ムーアの法則」に合わせて、メトロノームのように規則的にチップを高速化することで、世界は恩恵を受けてきたのである。
だが、現在のAIアプリケーションを動かしている深層学習モデルは、これまでとは異なるアプローチを必要としている。すべてを同時に実行するには、精度の低い膨大な …
- 人気の記事ランキング
-
- Two Nobel Prize winners want to cancel their own CRISPR patents in Europe クリスパー特許紛争で新展開 ノーベル賞受賞者が 欧州特許の一部取り下げへ
- Promotion MITTR Emerging Technology Nite #30 MITTR主催「生成AIと法規制のこの1年」開催のご案内
- A brief guide to the greenhouse gases driving climate change CO2だけじゃない、いま知っておくべき温室効果ガス
- Why OpenAI’s new model is such a big deal GPT-4oを圧倒、オープンAI新モデル「o1」に注目すべき理由
- Sorry, AI won’t “fix” climate change サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません