KADOKAWA Technology Review
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世界最大級の諜報機関
NSAが見据える
テクノロジーの未来
Ms Tech | Getty, NSA
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Meet the NSA spies shaping the future

世界最大級の諜報機関
NSAが見据える
テクノロジーの未来

世界最大級の諜報機関である米国国家安全保障局(NSA)の研究本部の取り組みは、大国間の競争の行方を決定付ける可能性がある。最近、同本部のリーダーに着任したギル・ヘレーラが、テクノロジーの進歩を見据えた同組織の取り組みを語った。 by Patrick Howell O'Neill2022.02.07

科学に深く関わる仕事をしている人にとって、ギル・ヘレーラの使命を理解することは困難だ。ヘレーラの使命とは、未来を見据えて、未知の量子物理学と解き明かせない数学定理のレベルにおいて、米国が有利となるような未来を形作るというものである。

ヘレーラは最近、米国国家安全保障局(NSA)研究本部のリーダーになったばかりだ。この研究本部には、他のNSA組織と同様に、米国のシステムを守り、諸外国の諜報活動をするという2つの使命がある。NSAの予算は極秘扱いで、秘密の中の秘密であるが、どの基準に照らしても世界最大級の諜報機関の1つだ。ヘレーラの研究本部は、全米の諜報機関のコミュニティにおいて最大の組織内研究開発部門であり、まだ存在していない世界における、まだ現実的ではない問題の解決策を考え出さなければならない。

就任後の最初のインタビューで、ヘレーラは自身のグループが注力するテクノロジーと脅威について明らかにしている。その優先順からは、NSAのターゲットがどのように変化してきているかが分かる。ヘレーラはテログループの監視業務と並行して、近年の地政学的状況の急速な変化について評価している。そして、脅威と機会の両方の点で、新しいテクノロジーの台頭が、NSA研究本部が対処せねばならないことの中心である理由を説明する。

NSAが新たな難題に直面する中、ヘレーラはその舵取りをする。冷戦時代の二極世界は過去のものであるし、唯一の超大国としての米国の短い役割も終わった。米国、中国、ロシアといった大国間の競争の新たな時代として定義される新しい世界は、より混沌としている。一方でNSAは、9年前に発表された、世界および国内に対する監視プログラムをめぐる大量の情報漏洩事件のダメージがまだ残っている。この事件により、NSA批判の嵐が起こり、組織の改革が叫ばれ、NSAに対する米国人の平均的な認識が変わった。NSAに協力していた企業は、困惑と怒りでNSAを忌避するようになった。そして、この事件によってNSAの運営方法も変更された。

「現在、我々はより大きな敵、より高度な敵、必ずしも商用サービスを利用していない敵にもっと注力し始めることが必要になっています」とヘレーラは話す。「独自のサービスを持ち、独自のテクノロジーを生み出す敵です。我々は研究本部として、そういった敵に対応する必要があります。我々は、もたらされる膨大な量の情報を精査でき、大国間の競争の結果として出現し始めているようなシステムの監視に役立てられるテクノロジーを提供する必要があります」 。

テクノロジーの変化は加速しており、予測はより困難になってきている。

「そのような変化があるときはいつでも手間がかかります」とヘレーラは言う。「テクノロジーはその世代ごとに新たな難題を突きつけます」。

例えばNSA研究本部は、量子コンピューティング技術の習得に多大なリソースを費やしてきた。量子コンピューティングは、現在および将来のデジタル世界において、機密データの保護に使われる暗号を破る可能性のあるテクノロジーである。強力な国や企業、大学は、今日のコンピューターよりも指数関数的に高速な演算ができる強力な量子コンピューターの構築に資金を注ぎ込んでいる。

「大国間の競争が鍵を握っています」とヘレーラは語る。「大国間の競争の行方によって、我々が必要とするテクノロジーとアクセスの種類が変わります。量子コンピューティングや第5世代モバイル通信(5G)などのテクノロジーはその一部です」。

NSA研究本部は、ショアのアルゴリズムが発表された直後の1995年以来、量子コンピューティング研究の最前線にいる。このアルゴリズムでは、量子コンピューターが通常のコンピューターよりも指数関数的に高速に数値を因数分解できることが示された。因数分解は、まさに暗号解読に必要な作業である。

これまでのNSA研究本部の足跡は、この分野を前進させる基礎研究の形で現れ、さらには巨大テック企業で構築された最先端コンピューターの内部にも見られる。大々的に報道された、世界最高の量子コンピューター構築に向けた競争がこれを証明している。グーグルとIBMは、どちらもマシンに同じ基本構成要素を採用し、NSA研究本部の支援を受けて発明されたトランズモン・キュービットと呼ばれる量子の動きを作り出している。歴史的に、NSAは学術的な量子コンピューティング研究において単一組織としては最大の資金提供者となっているとヘレーラは言う。

ヘレーラは、NSA研究本部が何に狙いを定めているかの詳細については口を濁すが、テクノロジーが急速に進歩する世界における諜報活動の課題について尋ねると、世界中で5Gが出現していることだと指摘する。5Gは情報の収集において、独自の新しい課題をもたらすとヘレーラは説明する。5Gを正しく …

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