抗議デモ「フリーダム・コンボイ」、ネット自警団も過激化
新型コロナ関連規制に対する抗議活動「フリーダム・コンボイ」の参加者の身元を特定してネット上に晒そうとする動きが広がっている。専門家らは、市民によるこうした活動の危険性を指摘する。 by Tanya Basu2022.02.16
この数週間、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種義務化や行動規制に抗議するトラック運転手とその同調者らの車列により、カナダの首都オタワで最も交通量の多い米国との国境が封鎖されている。抗議トラックのエンジン音やクラクション音が四六時中鳴り響き、裁判所によるデモの差し止め命令が必要になるほどだった。デモ参加者の中には、公園や市街地のさまざまな場所を占拠し、通行人に嫌がらせをする者もいる。激化するオタワのデモ抗議活動は、米国の都市や世界各地において似たような抗議活動が発生するきっかけとなった。
多くのオタワ市民は、この激しい抗議デモに辟易して、自分たちの手で何とかしようと動いている。クラウドソースで抗議行動が実施されるホットスポットの地図を作成しているだけの人もいれば、さらに進んでデモ抗議参加者の顔と名前を公開し、公に恥をかかせようとしている人もいる。だが、こうした活動はオンライン・アクティビズムの許容範囲を超えており、自警主義に陥る可能性があると専門家らは警告している。
レオ(脅迫を受け、身の危険を感じたため匿名を希望)は、オタワの政府機関の建物を囲む住宅地に住む、サイバーセキュリティの専門家だ。レオは2月2日、ケニアで開発されたオープンソースのマッピングツール「ウシャヒディ(Ushahidi)」を使い、クラウドソーシング・サイト「エンド・ザ・オキュペーション(End the Occupation、占拠を終わらせよう)」を立ち上げた。レオの目標は、オタワ市民が、嫌がらせや妨害を受けたと報告した場所をリアルタイムで確認できる地図をネット上に作成することだった。
レオはこれを、デモ参加者の側に立つことが多いと思われる地元警察の不十分な対応に対抗するための手段だと考えていた。この地図を広め、近隣住民に情報を提供してもらうために、オタワ市議会のショーン・メナード議員に自身のツイッターで地図へのリンクをシェアしてもらった。
メナード議員は、地図へのリンクをツイッターでシェアすることは自分の義務だと感じていたと語る。「このサイトは、技術的なツールを使うことで、強力な知識の共有とコミュニティのクラウドソーシングを可能にしています。抗議活動の全体像を描き出すことは、これまで警察のような政府機関でないとできませんでした。ですが、このサイトにより、市民でも全体像を描けるようになりました。政府機関などによるオタワ住民への支援が不足しているため、地図へのリンクを共有したのです」。
この地図プロジェクトは、すぐに攻撃の標的となった。数時間のうちにサイトはスパムで溢れた。「サイトへのスパムには、かなり生々しいポルノ画像や、人種差別、反ユダヤ主義、女性蔑視などが含まれていました」とレオは述べる。スパムが大量に発生したため、サイトは一時的な閉鎖を余儀なくされた。
レオの活動は、デモ隊そのものの動きを追うことではなく、地域住民へ警告を促すことを狙っている。特定の人物の身元を明かしてはいない。しかし、オタワの他の市民活動家らは、さらに踏み込んだことをしている。Webサイト「コンボイ・トレイターズ(Convoy Traitors、コンボイの裏切り者)」では、ワードプレスを使って、デモ参加者の写真、ナンバープレート、トラックに表示された会社名などを掲載し、抗議活動に参加している人々の身元を明らかにしようとしている。
このサイトには、「私たちの使命は、『フリーダム・コンボイ』と呼ばれる2022年の抗議活動で、オタワ占拠に関与しているとことが認されたすべての企業を記録することです」と記載されている。「こうした企業には、トラック運送会社、その支援企業、ホテル、レストランなどが含まれています。企業名を公開し、タグ付けをすることにより、今後インターネット検索をした際に、これらの企業の真の姿が明らかになることを望んでいます」(サイト管理者にコメントを求めようとしたが、連絡先は見つからなかった)。
また、別の情報源であるインスタグラムのアカウント、@ottawaconvoyreportは、違法行為をしている可能性のある人々やトラックの写真や動画を投稿している。このアカウントは、2021年1月6日に米国連邦議事堂で起こった暴動に参加した人々を名指しで非難したインスタグラムアカウント、@homegrownterroristsを彷彿とさせる。2022年2月10日、匿名のアカウントである@homegrownterroristsは、@ottawaconvoyreportの情報を自身のインスタグラムのストーリーズでシェア に掲載し、@ottawaconvoyreportのアプローチを承認したことを示唆した。
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だが、専門家らはこうした活動を懸念している。これらの市民活動家がしていることは、個人名やその他の個人情報をインターネット上に掲載し、個人やその家族の身の安全性を脅かす恐れがある「ドクシング(晒し)」ぎりぎりの行為だからだ。
このような行為は危険な状況に発展する恐れがある。特に、インターネット上である人物が誤って特定され、その人物が非難を受けた場合にはそうだ。オンライン・コミュニティと倫理を研究しているコロラド大学ボルダー校のケイシー・ファイスラー助教授(情報科学)は、「倫理と意図の問題でもあります」と指摘する。そのトラック運転手が解雇され、収入がなくなってしまってしまうことが、私たちが望むことなのだろうか。これにより、インターネット上の人が感じているだろう不当さが解決されるのだろうか。
ファイスラー助教授は、この新しい形態のオンラインのアクティビズムにより、通常では考えられないような行動を取る市民が出てくる可能性があると指摘する。そうした人々は、怒りのあまり、これらの行為が非倫理的であるだけでなく、違法であることにも気づかないかもしれない。
ファイスラー助教授は、「公共の場で他人の恥を晒すことと、自警の違いは何でしょうか」と問いかける。「また、『良い』自警と『悪い』自警の違いは何でしょうか」。
2月11日の時点で、オタワから遠く離れたニュージーランドのオークランドなどの都市では、各地域における新型コロナ・ワクチンの接種義務化に対する抗議活動の計画が立てられていた。今後、同様の自警活動をするサイトが登場してきてもおかしくないだろう。ファイスラー助教授は、誰かの個人情報を探り出す機会に直面したとき、人々は次の問いを、今後より一層自問すべきだと述べる。「自分の行為から、起こりうる結果は何だろうか。そして、それは本当に私が望んでいることなのだろうか」。
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- ターニャ・バス [Tanya Basu]米国版 「人間とテクノロジー」担当上級記者
- 人間とテクノロジーの交差点を取材する上級記者。前職は、デイリー・ビースト(The Daily Beast)とインバース(Inverse)の科学編集者。健康と心理学に関する報道に従事していた。