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超リアルなシミュレーションでAIドライバー教習、元ウーバー研究者
Waabi
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This super-realistic virtual world is a driving school for AI

超リアルなシミュレーションでAIドライバー教習、元ウーバー研究者

多大な時間やコストがかけられているにもかかわらず、無人運転車はいまだに試験段階にある。元ウーバーの研究チームを率いた研究者が立ち上げたスタートアップ企業は、シミュレーションの精度を徹底的に高めることで、無人運転車の開発スピードを速めようとしている。 by Will Douglas Heaven2022.02.22

無人運転自動車を作ることは、時間とコストのかかるビジネスだ。これまでの長年の努力と、何十億ドルもの投資にもかかわらず、自動運転技術はまだ試験段階を抜け出せていない。ラクエル・ウルタスンは、自分ならもっと上手くやれると考えている。

業界のペースに不満を抱いたウルタスンは昨年、4年間にわたって自動運転研究を主導してきた配車サービス企業のウーバー(Uber)を退社し、ワービ(Waabi)を設立。最高経営責任者(CEO)となった。「今のところ、自動運転に対するほとんどのアプローチは進歩が遅すぎます」。無人乗用車業界とトロント大学を掛け持ちしているウルタスンCEOは言う。「根本的に異なるアプローチが必要です」。

ワービは、ウルタスンCEOが賭けている自律走行車実現への新たな近道を公開し、物議を醸している。そのアイデアとは、「自動車を捨てること」だ。この半年間、ワービは「ワービ・ワールド」と呼ばれる超リアルなバーチャル環境を構築してきた。同社は、現実の車両で人工知能(AI)ドライバーを訓練する代わりに、このシミュレーションだけでほぼ全ての訓練を済ます予定だ。計画では最終的な微調整が終わるまで、現実の車両を使った現実の道路でのAIドライバーのテストは実施しない。

無人乗用車の問題は、AIドライバーが現実の道路の混沌とした状況への対応を学習するために、遭遇する可能性のあるあらゆるイベントを経験する必要があるということだ。だからこそ、無人乗用車企業はこれまで10年間を費やし、世界中の道路で何百万キロメートルも運転してきたのだ。クルーズ(Cruise)やウェイモ(Waymo)などの企業は、米国内でも数が限られている交通量の少ない都市環境で、無人運転車両のテストを開始している。だが、進歩のペースは依然として遅い。「こうした小規模な試験が拡大しないのはなぜでしょうか? なぜ、無人運転車両をいたるところで見かけないのでしょうか?」ウルタスンCEOは問いかける。

路上テストをしたことがないだけでなく、現実の車両すら持っていない企業のトップであるウルタスンCEOの主張は大胆に聞こえる。だが、同社は現実の車両でソフトウェアの路上テストを実施するコストの大半を回避することによって、競合他社よりも迅速かつ安価にAIドライバーを開発し、切望している業界全体の活性化を実現できると考えているのだ。

自動運転ソフトウェアをテストするためにリアルなバーチャル世界を開発しているのは、ワービが初めてではない。ここ数年で、シミュレーションは無人乗用車企業の主流になっている。問題は、無人乗用車の実現可能性を阻んできた最後の技術的障壁を業界が克服するのに、シミュレーションだけで十分なのかということだ。「自動運転車用のマトリックス(the Matrix)は、まだ誰も作っていません」と話すのは、2020年にアマゾンが買収した自律走行車のスタートアップ企業、ズークス(Zoox)のジェシー・レヴィンソン共同創業者兼CTO(最高技術責任者)だ。

事実、自律走行車を開発しているほぼ全ての企業は現在、何らかの形でシミュレーションを利用している。現実の道路で見られるものよりも幅広いシナリオにAIをさらすことで、テストをスピードアップし、コストを削減できるからだ。しかし、ほとんどの企業がシミュレーションと現実世界でのテストを組み合わせており、現実の道路とバーチャルの道路を交互に行ったり来たりしているのが普通だ。

ワービ・ワールドは、シミュレーションの利用をさらに高いレベルに進化させることを計画している。AIが世界そのものを生成してコントロールし、運転指導員と舞台監督の両方の役割を務める。それによってAIドライバーの弱点を特定し、それをテストするためにバーチャル環境を設定し直すのだ。ワービ・ワールドでは、複数のAIドライバーに対して同時に異なる能力を習得させ、それらを組み合わせることで単一のスキルセットを完成させる。その全てが、人間の手を借りる …

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