KADOKAWA Technology Review
×
10 Breakthrough technologies issue has now arrived

MITテクノロジーレビュー[日本版] Vol.7刊行に寄せて

MITテクノロジーレビュー[日本版]は印刷版マガジン『Vol.7 世界を変える10大技術2022年版』を6月15日に発売した。今号の狙いと主な内容を紹介する。 by MIT Technology Review Japan2022.06.15

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、MITテクノロジーレビューが2001年に始 めた毎年恒例の特集企画だ。コンピューターから人工知能、気候変動、エネルギー、 医療まで幅広い分野を対象に、米国版編集部の各分野の専門記者・編集者が取材活動 を通して得た情報を基に、10のテクノロジー・リストを選出し、発表する。編集部内 での激しい議論の末に決定されるリストの選出基準となるのは、直近で達成された成 果が、近い将来、私たちの暮らしや仕事に大きな変革をもたらすと予想されるテクノ ロジーであるということだ。

本書に掲載した2022年版のリストを見てみよう。新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の経口治療薬や変異株追跡は、丸2年間続いたパンデミックが終息へと 向かう中で、見えてきた具体的な成果だ。いずれも今回に限らず、将来発生するパン デミックに対する世界の備えとなるものだ。2021年に世界保健機関(WHO)が承認し たマラリア・ワクチンも、大きな成果だ。サハラ以南のアフリカ地域を中心に、今な お年間60万人以上がマラリアで亡くなっている。ワクチンは、感染症と人類との戦 いの歴史を大きく塗り替えるものになるだろう。

公衆衛生だけではない。気候変動と密接に関わるエネルギー問題もまた、世界が抱 える大きな課題だ。核融合炉は長年にわたって科学者たちが夢見た技術だが、ここに きて早期実用化を掲げるスタートアップ企業が動き出した。再生可能エネルギーの急 速な普及に伴って顕在化した電力の安定供給問題は、2022年3月の需給ひっ迫によっ て日本でも多くの国民が課題として認識するようになった。カギとなる送電網向けの 蓄電技術は、間違いなく日本でも重要になるはずだ。

2022年版のブレークスルー・テクノロジー10が米国で発表された直後に、ロシア によるウクライナ侵攻が始まり、痛ましいニュースが連日飛び込んでくるようになっ た。2.24後の世界を反映していない今回のリストは正直なところ、やや楽観的なもの に見えてしまうかもしれない。ウクライナ侵攻は、サイバー攻撃を組み合わせた「ハ イブリッド戦争」とも呼ばれ、テクノロジーが人々の安全を脅かす手段や標的になっ てしまっている状況もある。

それでも、このリストに価値があると言える理由は、それぞれのテクノロジーが解決し ようとする重大な課題が、どれも消えたわけではないからだ。私たちは、イノベー ションを加速することによって、より良い世界を実現できると信じている。テクノロ ジーが解決できる最新の課題とは何か? その担い手とは誰か? それらを紹介する本 特集は、ますます不確実性が増す時代においても必ず役に立つはずだ。

(MITテクノロジーレビュー[日本版]編集部)


MITテクノロジーレビュー[日本版] Vol.7
世界を変える10大技術 2022年版

  • 定価:2,420円(本体2,200円+税)
  • 発売日:2022年6月15日(印刷版)/6月22日(電子版)
  • 判型:A4判/128ページ
  • 形態:ムック(雑誌扱い)
  • 発行:株式会社角川アスキー総合研究所
  • 発売:株式会社KADOKAWA
  • 雑誌コード:63693-04/ISBN:978-4-04-911094-4
印刷版はお近くの大型書店やネット書店で、電子版は有名電子書籍ストアでご購入ください。MITテクノロジーレビューの有料会員は、全文PDFを「マガジン」からダウンロードできます。

Vol.7の主な収録記事

■世界を変える10大技術2022年版

MITテクノロジーレビューが、その年の最も重要なテクノロジーを選ぶ恒例の人気特集。最新の2022年版では、新型コロナウイルス感染症の経口薬や変異株の追跡といったパンデミックに関するものや、エネルギー関連技術などが登場。専門家やキープレーヤーへの取材を通して、なぜこれらに注目すべきなのかを詳しく解説する。

 

■新型コロナウイルス経口薬はゲームチェンジャーになり得るか

新型コロナウイルスワクチンの開発で脚光を浴びたファイザーの研究チームは、治療薬の開発でも目覚ましい成果を挙げていた。「次のパンデミック」でもその効果を期待される新薬は、抗ウイルス薬のあり方を一変させる可能性を秘めている。本特集では、その開発の舞台裏を関係者への徹底取材で明らかにする。

■ベースロード電源の未来

消費量が増え続ける電力の安定供給を図りながら、気候変動への対応を進める上で注目されているのが、次世代のベースロード電源だ。科学者たちが1世紀近くも挑み続けてきた次世代ベースロード電源としての「核融合炉」の夢はついに実現するのか? 数年以内での核融合炉の実用化を目指すというMIT発のスタートアップ企業の取り組みを紹介する。

 

■囲碁から科学へ デミス・ハサビスが世界最高峰のAI企業を作った本当の狙い

2016年、ディープマインドの人工知能(AI)「アルファ碁」がトップ棋士のリ・セドルを打ち破ったニュースは、AI時代の新しい幕開けを象徴する出来事となった。この快挙の裏側で同社のデミス・ハサビスCEOは、より大きな挑戦に向けて動いていた。彼が長年夢見てきたというAIの科学への応用の第一歩について、本誌独占インタビューにて存分に語ってくれた。

■緊急特集:「ウクライナ危機」で揺らぐインターネットの理想

ロシアによるウクライナ侵攻は、世界共通の基盤であるインターネットにも暗い影を落としている。ロシア政府による海外サイトの遮断、西側諸国のWebサービスの撤退などによる「スプリンターネット」のリスクが高まり、オープンソース・ソフトウェアを使った抗議運動は、企業がオープンソースを使うセキュリティ・リスクにもなっている。本特集ではこうした問題点をMITテクノロジーレビューならではの視点で解説する。

人気の記事ランキング
  1. Hydrogen could be used for nearly everything. It probably shouldn’t be.  水素は万能か? 脱炭素のための現実的な利用法
  2. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  3. Cancer vaccines are having a renaissance がん治療のルネサンス到来か、個別化mRNAワクチンの朗報続く
MITテクノロジーレビュー編集部 [MIT Technology Review Japan]日本版 編集部
MITテクノロジーレビュー(日本版)編集部
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Hydrogen could be used for nearly everything. It probably shouldn’t be.  水素は万能か? 脱炭素のための現実的な利用法
  2. Three reasons robots are about to become more way useful  生成AI革命の次は「ロボット革命」 夢が近づく3つの理由
  3. Cancer vaccines are having a renaissance がん治療のルネサンス到来か、個別化mRNAワクチンの朗報続く
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る