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ネット空白地帯、
米先住民保留地に
光回線がやってきた
Antonio Ibarra / The Missoulian
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Broadband funding for Native communities could finally connect some of America’s most isolated places

ネット空白地帯、
米先住民保留地に
光回線がやってきた

高速インターネット回線の普及が遅れる米国でも、特にインフラ整備から取り残されているのが、ネイティブ・アメリカンのコミュニティだ。米国モンタナ州のブラックフィート保留地では、パンデミック対策として支出された資金を使って、ブロードバンド回線の整備に取り組んでいる。 by Robert Chaney2022.10.04

米国モンタナ州北西部のとある僻地では現在、光ファイバーケーブルの敷設が進められている。地域にとって長らく待ち望まれていた変化だ。

米国の人口の約8割が暮らす都市部と比べて、地方やネイティブ・アメリカンのコミュニティでは長きにわたって携帯電話やブロードバンド接続の普及率が低かった。米国では、国土の3%ほどしかない都市や郊外を除けば、安定したインターネット・サービスを受けられる地域は決して多くはない。数十年もの間、ブラックフィート保留地のような場所に暮らす人々は、時代遅れの銅線で提供される低速な回線で我慢するか、インターネットそのものを利用しないという選択をしてきた。

新型コロナウイルスのパンデミックにより、ネイティブ・アメリカンの各コミュニティがロックダウンを実行したり、学校やその他の必要不可欠な日々の活動をオンラインへと移行したりする中で、こうしたインターネットに関する問題が改めて浮き彫りになった。一方でパンデミックは、問題を解決するために前例が無いほどの額の救援資金が投入されるきっかけにもなった。

現在、ブラックフィートやその他のネイティブ・アメリカン・コミュニティの多くは、別の課題に直面している。政府から受け取った何十億ドルもの資金をどう利用すれば他の地域に追いつき、さらに飛躍できるかを考えなければならない。口で言うほど簡単なものではない。老朽化したネットワークは更新する必要がある。あまりにも距離が遠いと場合には、5Gのようなテクノロジーが適していない場合もあるだろう。しかもコストは上昇している。

それでも、長らくインターネットを利用できなかった地域が、助成金によってようやくオンラインで繋がるようになるのだ。今年の夏、ブラックフィート保留地では、真新しい黒色の光ファイバーケーブルの敷設が始まった。これからの5年間で、少なくとも4500軒の家庭、企業、公共施設へインターネット・サービスが提供されることになる。

「ブラックフィート保留地の一部の地域では、インターネットを利用できるようになるのが初めてだという場所もあります」。新しい光ファイバー網の敷設に携わるタートル・アイランド・コミュニケーションズ(Turtle Island Communications)のエンジニアリング担当副社長、メル・ヤワキーは言う。「インターネットはなくてもいいものではありません。なくてはならない基礎的なものなのです」。

孤立した地域

ブラックフィート保留地は、米国本土48州の中でも人口密度が最低レベルの地域の1つである。1万人の人口を抱えるブラックフィート保留地の人口密度は、1平方マイル(約2.6平方キロメートル)当たり4.5人。モンタナ州全体と比べると、住民1人あたりの面積は2倍近い。ブリザード(激しい吹雪)が定期的に発生し、およそ15メートルある道路を雪で覆い尽くしてしまうため、村々は何日間も孤立してしまうことがある。

新型コロナウイルスはブラックフィート保留地に別の種類の孤立をもたらした。新型コロナウイルスのリスクに最もさらされたのが高齢者たちだった。高齢者たちは、伝統的な言語を話せる最後の世代であり、口頭で伝えられてきた歴史の守護者でもあり、社会的・精神的組織の柱でもある。ある部族のリーダーは、高齢者の死は「図書館が消失する」ようなものだと例えた。

パンデミックの脅威を深刻に捉えたブラックフィート族は、保留地への不要不急の立ち入りを1年間禁じることを自治権を行使して決定した。この措置により、グレイシャー国立公園への入園者は半分にまで減り、多くの住民が頼りにしていた観光産業が成り立たなくなってしまった。また、ブラックフィート行政は、保留地全体でのロックダウンとマスク着用義務も命じた。

デラウェア州よりも広いブラックフィートにおける人々の交流は、わずか一晩のうちにほぼ全てオンラインへと移行した。疫学的に見て、こうした大胆な対策には効き目があった。だが、孤立はブラックフィートの通信基盤の脆弱さを明らかにした。

2022年時点のブロードバンド接続可能地図によれば、ブラックフィート保留地では658カ所でブロードバンド接続が提供されている一方で、3235カ所ではいまだに提供されていない。ブラックフィートでは、複数世代が1つの家に同居している場合が多い。インターネット利用可能な家庭では平均17台の端末が同時にオンラインになっており、保留地の現在のネットワークでは到底処理できないほどのトラフィックを生み出している。

通信問題の影響を特に受けるのが学生であり、オンライン授業を受講することを非常に難しくしていると、ハートビュートの公立学校の校長を務めているサンディ・キャンベルは言う。「最高の通信環境を備えている家庭がある一方で、オンライン授業に必要な最低限の環境すらいまだに得られていない子どもたちもいるのです」(キャンベル校長)。

米国政府による投資のおかげで、こうした状況もすぐに変わるかもしれない。2020年の「新型コロナウイルス経済救済法(the CARES Act)」によって、政府は初めてパンデミック救済金を支出したが、この救済金には保留地のブロードバンド・インフラの改善を目的とした10億ドルが含まれていた。

2021年の「米国救済計画法(the American Rescue Plan Act)」では、ネイティブ・アメリカンの部族らを対象に、新型コロナウイルス対策に200億ドルが提供され、このうち5億2000万ドルがモンタナ州にある8つの保留地に提供された。米国救済計画法はまた、米国全土でのブロードバンド環境の改善を目的として、全ての地方政府が利用可能な170億ドルも提供している。この資金はネイティブ・アメリカンの部族専用ではないが、他の都市や郡、同様の管 …

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