マイクロソフト製品はチャットGPTでどのように変わるのか?
マイクロソフトはチャットGPTを開発したオープンAIに、今後数年間で合計数十億ドルを投資すると発表した。マイクロソフトは、チャットGPTをマイクロソフト・オフィスやビングなどの自社製品に組み込もうとしている。その結果、マイクロソフト製品はどのように変わるのだろうか。 by Melissa Heikkilä2023.02.01
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
マイクロソフトは、流行りのチャットボット「チャットGPT(ChatGPT)」を開発したAI研究機関である「オープンAI(OpenAI)」に今後数年間で合計数十億ドルを追加で投資することを決めた。マイクロソフトは、チャットGPTを「マイクロソフト・オフィス」や検索エンジン「ビング(Bing)」に統合することを計画している。マイクロソフトは、すでにオープンAIに少なくとも10億ドルを投資している。ニュースサイト「ジ・インフォメーション(The Information)」によると、これらの機能のいくつかは、早ければ3月には登場するかもしれない。
これは大ニュースだ。成功すれば、強力なAIツールを大衆に提供することになる。では、チャットGPTを搭載したマイクロソフト製品はどのようなものになるだろうか。MITテクノロジーレビューはマイクロソフトとオープンAIに取材した。両社ともに、AI搭載製品をマイクロソフトのツールにどのように統合する予定なのかについての回答は消極的なものだった。それに向けた作業はかなり進んでいるはずなのだが。だが、我々には、情報に基づいた十分な判断材料がある。そしてそれはおそらくは朗報だ。私のように、パワーポイントでプレゼンテーション用のスライドを作ったり、Eメールに返信したりするのが退屈だと感じる人なら、なおそうだろう。
まずは、オンライン検索エンジン機能から見ていこう。最も多くの報道が飛び交い、最も注目を浴びているアプリケーションだ。チャットGPTの人気にグーグルは衝撃を受け、これを同社おなじみの検索エンジンにとっての「コード・レッド(厳戒警報)」と見なしていると伝えられている。マイクロソフトは、チャットGPTを同社の検索エンジンであるビングに統合する予定だと報じられている。
非営利の研究団体であるサンタフェ研究所(Santa Fe Institute)の研究者であるメラニー・ミッチェル教授によれば、チャットGPTはビングのフロント・エンドとして、人々の問い合わせに自然言語で答えるようになる可能性があるという。AIを活用した検索エンジンというと、質問に関連するリンクの一覧を表示する代わりに、答えを完全な文章で表示するものになると考えられる。
しかしグーグルは、それに先駆けて独自の強力な言語モデルを検索に組み込むようなことをしようとはしない。それなりの理由があるからだ。チャットGPTのようなAIモデルは、偏った、有害な、そして事実に反した文章を吐き出す傾向で悪評が立っている。確かに人間が書いたかのような洗練された言語表現を生成するのは得意だ。しかし、AIモデルは自身が生成したものの内容を全く理解しておらず、事実も虚偽も同様に信頼できるものとして出力してしまうのだ。
今日、人々がネットで情報を検索するとき、検索結果はリストの一覧として提示され、どの結果が信頼できるか自分で判断できる。チャットGPTのようなチャットAIは、その「人間による評価」のレイヤーを取り除き、人々に結果を文字通りの意味として受け取らせるとワシントン大学の教授(コンピューター科学)で検索エンジンを専門とするチラグ・シャーは言う。このようなAIシステムが偏ったコンテンツや誤った情報を生成しても、人々はそれに気づかないどころか、さらにそれを広めてしまうかもしれないと、彼は付け加える。
モデルの精度向上のためにどのような訓練を実施しているのかについて質問したところ、オープンAIの回答はよく分からないものだった。ある広報担当者は、チャットGPTは研究用デモであり、実世界からのフィードバックに基づいてアップデートされていると述べた。しかし、それが実用上どのように機能するかは定かではない。マイクロソフトが人々に「ググる」ことを止めさせたいのであれば、正確な検索結果を提示することは不可欠だ。
一方で、より可能性が高いシナリオとしては、マイクロソフト・アウトルック(Microsoft Outlook)やマイクロソフト・オフィスといったアプリケーションにAIが組み込まれる可能性があると、シャー教授は言う。チャットGPTは、人々がより流暢に、よりすばやく文章を書けるように手助けできる可能性を秘めており、マイクロソフトのキラー・アプリケーションとなるかもしれない。
言語モデルをマイクロソフト・ワードに組み込むことで、報告書の要約や提案書の作成、アイデアの創出が容易になる可能性があると、シャー教授は言う。また、電子メール・クライアントやワードのオートコンプリート機能の精度向上も可能だという。そして、その応用範囲は自然言語処理に留まらない。マイクロソフトはすでに、オープンAIのテキスト画像生成ツール「ダリー2(DALL-E 2)」を、パワーポイントでのプレゼンテーションで使える画像の生成機能に活用すると発表している。
また、大規模な言語モデルが音声コマンドに応答したり、電子メールなどのテキストを読み上げたりする日もそう遠くない、とシャー教授は言う。これは、学習障害や視覚障害のある人々にとって、大きな福音となるかもしれない。
チャットGPTが改善できる検索機能の範囲はオンラインだけではない。電子メールやドキュメントの検索機能への活用も、マイクロソフトには可能だ。
しかし、まだ十分な質問を受けていない重要な疑問がある。これは我々が本当に望む未来なのだろうか。
AIの技術をやみくもに採用し、コミュニケーションや創造的なアイデア作りを過度に自動化すれば、人間の主体性が機械に奪われてしまう恐れがある。もう1つのリスクは「平凡への回帰(regression to the meh)」だ。すなわち、我々が作り出すものから我々の個性が失われてしまう可能性がある、とサンタフェ研究所のミッチェル教授は言う。
「ボットはボットにメールを書き、ボットは他のボットに返信するようになるでしょう」と彼女は言う。「私にはそれが素晴らしい世界だとは思えません」。
言語モデルは模倣に長けていることにも注意しなくてはならない。人間がチャットGPTに入力した指示の1つ1つが、モデルの更なる訓練に使われている。将来は、我々が日々使用するツールにこのような技術が統合されていき、我々の個人的な文体や好みまで学習されてしまうだろう。買い物など我々の行動がAIに操作される可能性すらあると、ミッチェル教授は警告している。
AIによって実際に生産性が向上するかも不明である。AIが生成したコンテンツをより正確なものにするために、人が編集し、ダブル・チェックをしなければならないことに変わりはないからだ。さもなくば、人々がそれを盲信してしまうリスクがある。これは、新たな技術が登場するたびに繰り返される従来からの問題だ。
「私たちは皆、こうしたもののベータ・テスターになるのです」と、ミッチェル教授は漏らす。
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- メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
- MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。