KADOKAWA Technology Review
×
動画、ロボット、マルチモーダル——生成AIの次のトレンドは?
【6/26開催】イベント申込受付中!
中国テック事情:イーロン・マスク「ツイートなし」弾丸訪中の中身
Imaginechina via AP Images
Elon Musk’s quiet, untweeted China trip

中国テック事情:イーロン・マスク「ツイートなし」弾丸訪中の中身

イーロン・マスクが中国を訪問し、政府高官やソーシャルメディア・ユーザーから温かい歓迎を受けた。公開情報からその旅程を追ってみよう。 by Zeyi Yang2023.06.09

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

イーロン・マスクの近況はいやでも耳に入る。だが、5月末、マスクが中国を3日間訪問し、現地で相当数の政府高官と会ったというニュースは知らない人もいるのではないか。

中国が1月にパンデミック時の渡航制限をほぼ解除して以来、外国企業の幹部が一斉に詰めかけている。マスクが訪中するのも不思議ではない。中国は、市場としても製造拠点としても、テスラの電気自動車帝国の重要な役割を担っているからだ。だが、スターリンク、スペースXに加え、ツイッターのオーナーにもなったマスクにとって、中国との関係性はそれ以上に複雑だ。

マスクの訪中に関して英語で得られる情報はほとんどない。その主な理由は、いつもは買収したばかりのツイッターで活発に発言しているマスクが、旅行中は沈黙を貫いていたからだ。中国ではツイッターの利用は禁じられているが、VPNツールでアクセスする方法はいくらでもある。それでもマスクは、中国滞在中はツイッターをしていると思われたくないようだった。マスクが訪中についてツイートしたのは1度だけ、中国を発った後のことだった。事実、普段なら毎日何十回もやっている、他人のツイートにコメントをすることさえしなかった。

とはいえ、中国政府のWebサイト掲載の公開情報や、中国のソーシャルメディアに上がったマスクの目撃情報から、5月30日から6月1日までの旅程を再現できる。

過密スケジュールの出張だった。44時間の滞在中に、マスクは少なくとも3人の中国の高官と会った。そして、世界最大のEV電池サプライヤーのCEOと会食したり、上海にあるテスラの工場を訪ねたりしている。

マスクのプライベートジェットは現地時間の5月30日午後に北京に到着している。同日、マスクは中国の新外交部長で前駐米大使の秦剛に面会した。外交部のプレスリリースによると、マスクは会談で、米中両国は「互いに分かちがたい結合双生児のように連結している」ため、米中のサプライチェーンのデカップリング(切り離し)には強く反対すると述べたという。同夜には、テスラ車の電池の主要サプライヤーであるCATLのロビン・ゼン(曾毓群)CEOと夕食をとった。

Musk holding hands with Qin Gang, China's Minister of Foreign Affairs

翌日はさらに通商とテクノロジーを担当する中国の閣僚2人と会談した。ロイター通信はその午後、さらに中国で序列6位の党幹部である丁薛祥(てい・せつしょう)副総理を訪ねたと報じたが、それについて政府やマスクから公式の発表はなされていない。夕方、上海に飛んでテスラ・ギガファクトリーに向かった。現地の従業員と撮った写真を後にツイッターに投稿している。

Elon and the team of the Shanghai gigafactory pose for a group photo

中国訪問最終日の6月1日の朝、マスクは最後に上海市党委員会書記の陳吉寧との会談をねじ込んだ。午前11時23分にプライベートジェットはテキサス州に向けて飛び立った。

今年、中国を訪問した米国のエグゼクティブはマスクだけではない。アップルのティム・クック、ゼネラルモーターズのメアリー・バーラ、JPモルガンのジェイミー・ダイモン、スターバックスのラクスマン・ナラシムハンらがマスクよりも先に訪中している。だが、マスクは、中国政府関係者と中国のソーシャルメディアに集う人々の両方から、これまでで最大の歓迎を受けている。

その主な理由は、中国とテスラが以前から双方に利益をもたらし合う関係にあることだ。中国はテスラの2番目に大きい市場であるだけでなく、上海ギガファクトリーは、昨年世界で販売されたテスラ車の半分以上を生産している。その一方で、上海の工場は現地の雇用と税収にも大きく貢献し、上海市をEV生産の中心地に変えた。

昨年の上海の1か月に及ぶ厳しいロックダウンの間、市政府は、他の都市生活が停止している間でも工場が生産を再開できるよう特別にはからった。今回の訪問中、マスクはそのような努力を認め、中国商務相に謝意を示した。

だが、マスクと中国の関係が複雑になっている理由は他にもある。

まず、スターリンクは以前から中国政府の懸念の種である。従来の通信遮断を回避し、衛星諜報を増強する能力を備えているからだ。ロシアとウクライナの戦争で中国は主にロシア側に立っているが、その期間にスターリンクがウクライナに導入されたことで、問題はより明確になった。今年の初め、中国の士官学校の研究者らが、スターリンクの人工衛星に対抗する手段について数十報の論文を発表していると報じられた

ツイッターの中国版とも言えるウェイボー(Weibo)に、マスク(あるいはマスクの認証アカウントを管理している人物)は、5月30日、多少なりとも状況を和らげようとしたと思われるメモを投稿した。「中国の宇宙開発は、多くの人が認識している以上にはるかに進んでいます」

マスクと中国の複雑な関係の核心に、マスクが所有するさまざまな企業が中国政府とそれぞれ異なるかかわりを持っているという事実がある。テスラは中国で特別に歓迎されている。ツイッターは同政府にとって大きな頭痛の種であり、利用は厳しく禁じられている。スペースXとスターリンクはその中間で、国防リスクと連携の機会の両方を象徴している。

現時点では、マスクがそれらの企業を所有しているせいで中国でテスラの人気が落ちる、といった事態は起きていない。だが、米中関係の緊張が続く現在において、中国政府との付き合いはどの米国企業にとってもきわめてデリケートな課題であり、テスラはおそらくそれを先導する立場になるだろう。米国ではネット荒らしに勤しんでいるマスクも、中国滞在中は慎重にならざるを得なかったのだ。

中国の最新動向

1.6月4日、天安門広場の抗議運動と虐殺から34周年を迎えた。

  • 香港では毎年、人々が公園に集まり、追悼集会を行っている。今年の集会は、同公園で行われた親中派団体のフードカーニバルに阻まれた。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙 $
  • ロウソクを持ち出そうとした人々は警察に連行された。(ロイター通信 $
  • 中国国外の人々も追悼集会や抗議運動を引き継いでいる。(CNN

 

2.Z世代の絶大な支持を集める中国のファッションEコマース企業シーイン(Shein)は、強制労働を行なっているとの疑惑の対策として、初めてワシントンのロビイストを雇った。(ポリティコ

3.世界各国の防衛当局者がシンガポールに集まり、アジア安全保障会議が行われた。(CNBC

 

4. プライド月間が始まったが、中国のLGBTQコミュニティをサポートする数少ない支援団体が政府から活動停止を迫られている。(エコノミスト誌 $

5. 中国の現地警察は、生成AIツールを使って他人になりすまし、被害者の連絡先に送金を要求するという新手の詐欺の対策に追われるようになっている。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙

お気に入りのインフルエンサーと交際できるチャットボット

月額1ドルでお気に入りのインフルエンサーと無制限にチャットできるとしたらどうだろう。中国のAI企業シャオアイス(Xiaoice)がそのサービスを開始した。今後毎週木曜日、同社は中国のインフルエンサーの新しい「AIクローン」をリリースしていく予定だ(第1弾は、半藏森林のハンドルネームで知られる20代の女性モデル胡文婕を中心にデザインされている)。ユーザーはこのようなAIチャットボットを相手に、テキストや音声で会話することができる。月に30人民元(4.22ドル)を支払えば、「インフルエンサー」は業務アシスタントにもなり、マーケティングのコピーを書くといった仕事を手伝ってくれる。(インフルエンサーにそんな用事をさせるのはどうなのか)このサービスはロマンチックなトーンが強く、基本のサブスクリプションは「交際モード」である。中国国営放送局CCTVの報道によると、現時点では、利益の大部分はインフルエンサーに支払われているという。

An

あともう1つ

中国のソーシャルメディアで最近流行っているのは、シンプルすぎて味気ない弁当「白人饭」(白人の食べ物の意味)を作ることだ。アメリカの食文化の簡単なランチを揶揄しているのはもちろんだが、ダイエット中だ、料理が面倒だ、などの理由でやっているという人もいる。

人気の記事ランキング
  1. This classic game is taking on climate change 人気ボードゲーム「カタン」 新版で考えるエネルギー問題
  2. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #29 ブームから1年、次のトレンドを占う「生成AI革命3」のご案内
ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
人気の記事ランキング
  1. This classic game is taking on climate change 人気ボードゲーム「カタン」 新版で考えるエネルギー問題
  2. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #29 ブームから1年、次のトレンドを占う「生成AI革命3」のご案内
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る