中国、ゼロコロナ抗議
情報発信のハブとなった
「李先生」に聞く
11月末、ゼロコロナ政策に対する激しい抗議活動が中国に巻き起こったとき、ある中国人画家がハブとなり、脅迫を受けつつも世界に向けて抗議行動の情報をリアルタイムで発信し続けた。そのときの状況や心情を、本人自身の言葉で語ってもらった。 by Zeyi Yang2022.12.27
11月末、中国の厳格な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策に対する抗議の波がソーシャルメディアに押し寄せる中、あるツイッター・アカウントが中心的な情報源として浮上した。アカウント名は「@李老师不是你老师(李先生はあなたの先生ではない)」。中国全土の市民が、このアカウントにプライベート・メッセージ機能で抗議活動の映像やリアルタイムの情報を送り、アカウント主は代理でそれらを投稿してきた。恐怖と将来への不安が広がる中、元の発信者を明かさないように配慮もされている。
アカウントを運営しているのはたった1人の男性だ。イタリアを拠点とする中国人画家のリーである(身の安全を守るため、名字以外の公表は望んでいない)。リーはジャーナリズムの訓練を一度も受けたことはなかったが、実質的に「1人だけのニュース編集室」となったアカウントの運営を思いとどまることはなかった。
11月最後の週末には、抗議活動がピークを迎える中で、リーには毎秒、数十件もの情報が寄せられた。リーは信頼性の低い情報をすぐさま取り除くために最善の努力を尽くした。リーは1年ほど前からフォロワーからの匿名情報を投稿してきたが、今回はまったく新しい経験ではあった。中国の社会問題について以前からネット上で発言してきたリーは、2021年のある時期から中国版のツイッターと言えるウェイボー(Weibo、ツイッターは中国国内では禁止されている)でプライベートメッセージを受け取り始めた。その内容は「自分の代わりに投稿して欲しい」というもので、相手は自分の身元が明らかになることを恐れていた。
リーの投稿は中国当局の検閲によって削除され、2022年2月までにアカウントも凍結された。それ以降の2カ月間で、リーが運営していた49のアカウントも停止された。だが、フォロワーたちは惜しみなくリーに電話番号を貸し、さらにアカウントが登録されていった。2022年4月にウェイボーの新しいアカウントがもはや利用できなくなると、ついにツイッターに移行した。ツイッターでは海外のアカウントのフォロワーが急増した。リーのツイッターアカウントは中国からはブロックされていたが、市民はVPN経由でアクセスし、次々とフォローした。
そして11月下旬、鄭州市のフォックスコン(Foxconn)工場の労働者が経営陣と激しい対立を開始した。リーは中国のソーシャルメディアやフォロワーからの情報で状況を見守り始め、その夜は3時間しか寝なかった。
11月最後の週末には複数の大都市で抗議が巻き起こり、リーは再びリアルタイムで抗議映像を投稿した。中国国内の人々に情報を提供して抗議への参加を自主的に決められるようにするとともに、国外の人々にも本当の状況を知ってもらうためだ。「その瞬間に中国にいなくても、状況は刻々と動いています。彼らは目撃しているのです」とリーは言う。
リーのツイッター・アカウントは今では抗議活動の情報ハブとなり、ピーク時の1週間だけでも60万人以上からフォローされた。
しかしアカウントの運営は大変で、代償も大きい。中国では、ウェイボーやウィーチャット(WeChat)などのプラットフォームでリーのアカウント名に言及することは検閲の対象となっている。リーのダイレクトメッセージには殺害予告や侮辱の言葉が届いており、彼の中国の家族のところには警察が来た。
だがそうした不安は、「ついに堂々と習近平の名前をソーシャルメディアで言えた」という解放感とないまぜになっている。リーは、自分のツイッターのアバター(猫の落書き)が、今の時代でもっとも有名かつ危険な猫になっていると冗談めかして語った。
リーに対するロング・インタビューは11月末に実施され、彼はその中で、非常に大きなプレッシャーにさらされることや、客観的であろうとすることの大変さについて話してくれた。起きている時間のほぼすべてがアカウントの運営に捧げられていたが、11月28日にようやく休息を取り始めたという。それがきっかけで、心がなごむような思いがけない出会いもあったという。
以下に、リーが自身の言葉で語ったインタビュー内容を掲載する。明確性を確保するため、翻訳文には簡単な編集を加え、順番を整理している。
恐怖している人々に代わって
このアカウントは本質的に、巷にあふれる普通のツイッター・ユーザーのものと同じです。自分の人生や職業に関すること、そしてもちろん、社会の問題について語っています。
しかし、このアカウントには別の目的もあります。いつ始まったのかはっきりしませんが、徐々に情報が寄せられるようになりました。人々はプライベート・メッセージで連絡してきて、状況を知らせてくれたり、自分の話をしてくれたりします。そして、自分の代わりに投稿してくれるように頼んでくるのです。
私が思うに、これは中国のデジタル・プラットフォームにおけるインターネットや言論の取り締まりから生じた現象なのでしょう。習近平が権力を握ってから、取り締まりはどんどん強化されています。人々は匿名アカウントであっても、ネット上で直接的な発言をすることを恐れています。それでも表現したいという欲求は持っていて、誰かに代弁して欲しいと思っています。
それはウェイボーでも同じでした。昨年、私のフォロワーが1万人にまだ達していなかった頃、「この人物は自分たちの代弁者になってくれるかもしれない」との認識が徐々に広がっていき、ユーザーがやって来るようになりました。その後、8人の子どもを生んだ母親(編注:彼女は人身売買の犠牲者で、小屋で鎖につながれているところを発見された)のニュースが2月に流れた際、妹を探している人物の情報を投稿しました。それがウェイボーで3万回以上再投稿され、私のアカウントは凍結されました。
凍結後の数カ月間、私はアカウントを新たに登録し続けましたが、次々と停止措置が取られました。2カ月ほどで50のアカウントが停止されました。最短記録はアカウントの登録から消去まで、たった10分です。検閲によってアカウントが停止すると、私はすぐにまた登録していきました。
どういったわけか、フォロワーの人たちはすぐに私を見つけてくれるので、すぐにまた何千ものフォロワーが付きます。最終的には、私がウェイボーのアカウントを買っていたWebサイトが当局に見つかり、サイトは停止されたようです。それ以降はアカウントを利用できなくなりました。
その時期には、とても心を動かされる出来事がありました。ウェイボーでは電話番号で身元を確認しています。しかし、ネット上の多数の友人が番号を貸してくれ、「大丈夫です。李先生、私の番号で認証してください」と言ってくれたのです。私はとても感動しました。でもその後、新規登録ができなくなり、ツイッターに移ったのです。
私はツイッターのアカウントを2020年に …
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