最新AIモデルで変わる気象予報、3時間先の豪雨も予測
AIモデルは天気予報のプロセスを大幅にスピードアップし、予報や異常気象警報をより正確にする可能性があることが、2つの最新研究で明らかになった。 by Melissa Heikkilä2023.07.06
気候変動によって天候がより予測不可能で極端なものになるにつれて、自然災害に備え、被害を防ぐために、より信頼性の高い予報が必要になっている。現在、気象学者は大規模なコンピューター・シミュレーションを使って予報を出している。作業に何時間もかかるのは、気温、降水量、気圧、風、湿度、曇量などの気象変数を科学者がひとつひとつ分析しなければならないからだ。
しかし、新しい人工知能(AI)システムは、このプロセスを大幅にスピードアップし、予報や異常気象警報をより正確にする可能性があることが、7月5日付けのネイチャー(Nature)誌に発表された2つの論文で示されている。
1つ目は、ファーウェイ(Huawei)が開発した新しいAIモデル「パングー・ウェザー(Pangu-Weather:盘古气象)」である。論文では、従来の予測方法よりもはるかに迅速に、しかも同等の正確度で、世界中の週間天気パターンを予測できることが詳細に説明されている。
2つ目は、清華大学などの研究チームが開発した深層学習アルゴリズム「ナウキャストネット(NowcastNet)」が、他の主な手法よりも正確かつ顕著に豪雨を予測できたことを示す論文で、同様の既存システムとの比較テストでは約70%の確率で1位となった。
これらのモデルが採用されれば、従来の気象予測手法と併用して、悪天候に備える当局の能力を向上させることができると、ファーウェイのシェ・リンシー上級研究員は言う。
パングー・ウェザーを作るために、ファーウェイの研究チームは、39年間の再解析データで訓練された深層ニューラル・ネットワークを構築した。気象変数を1つずつ分析する従来の手法では数時間かかることもあったが、パングー・ウェザーはわずか数秒ですべての気象変数を同時に分析できる。
研究チームは、パングー・ウェザーを世界有数の従来型気象予測システムである欧州中期予報センター(ECMWF)の統合予報システムと比較テストし、同程度の正確度が得られることを確認した。
パングー・ウェザーはまた、熱帯低気圧のデータで訓練されていないにもかかわらず、熱帯低気圧の進路を正確に追跡することができた。この発見は、機械学習モデルが天候の物理的プロセスを拾い上げ、見たことのない状況にも汎化できることを示していると、 スイス気象局・数値予測部門の責任者であるオリバー・フューラーは話す(フューラー責任者はこの研究には関与していない)。
フューラー責任者は、パングー・ウェザーが、科学者たちがこれまでできなかったようなスピードで天気を予測したり、もともとの訓練データにないものを予測したりできることに興奮しているという。
この1年で、複数のテック企業が天気予報の改善を目的としたAIモデルを発表した。パングー・ウェザーをはじめ、エヌビディアのフォーキャストネット(FourcastNet)やグーグル・ディープマインドのグラフキャスト(GraphCast)などの類似モデルは、気象学者に「機械学習と天気予報の使い方を再考させる」とECMWFの地球システムモデリングの責任者であるピーター・デューベンはいう(デューベン責任者は本研究には関与していないが、パングー・ウェザーをテストしたことがある)。
以前なら、機械学習はどちらかというと「おもちゃ」のようなプロジェクトだと思われていたとデューベン責任者は話す。だが今後は、気象予報士が従来の方法と併用して予報に活用できるようになりそうだ。
これらのシステムが実際にどれだけ機能するかは、時が経てばわかるだろう。従来の気象予測システムは観測データに基づいて学習されるが、パングー・ウェザーは再解析データに依存している。シェ上級研究員によれば、将来的には観測データでモデルを訓練したいという。
また、AIは熱帯低気圧の進路予測には役立つが、その強さを予測することはできない。「AIは異常気象を過小評価する傾向があります」(シェ上級研究員)。
しかし、もう1つのAIモデルがその手助けをしてくれるかもしれない。ナウキャストネットと呼ばれる物理学に基づく生成AIモデルは、従来の方法よりも長いリードタイムで豪雨を予測できる。
ディープマインドのDGMRのような既存の深層学習降雨予測ツールは、今後90分以内のすべての雨の可能性を予測できる。ナウキャストネットは、予測がより困難な豪雨を、3時間先まで予測できる。中国の気象学者62人がこのシステムを他の類似システムと比較して評価した結果、約70%のケースでもっとも正確な降雨予測手法であると結論づけた。
ナウキャストネットの研究に携わったカリフォルニア大学バークレー校のコンピューター科学者、マイケル・ジョーダン教授によると、研究チームはさまざまな気象レーダーや、センサーや人工衛星などの他のテクノロジーから収集されたデータで訓練された深層生成モデルを構築したという。このモデルはまた、大気物理学の原理(重力など)に基づいて訓練され、気象パターンのスナップショットとなるレーダーからのデータを入力する。このモデルは次に起こりそうな気象パターンのシナリオを生成できる。
DGMRのような他のモデルはレーダーデータのみで訓練されているため、大気の部分的なスナップショットしか持っていない。そのため、豪雨のようなまれな事象については、正確な結果が得られない。研究チームによれば、ナウキャストネットは物理学に基づいているため、雨とその挙動をより包括的にとらえることができ、より正確な予測につながるという。
AIは、降雨などの気象現象に関する短期的な予測に関して、人々がより多くの時間を節約できるようにする。豪雨は甚大な死者と破壊をもたらすものであり、人々が備えをする機会を与える時間内に予測できるのは重要だとジョーダン教授は言う。
AIを使った天気予報はまだ日が浅く、これらのシステムが実際にどれだけ役に立つかはまだ分からない。気候変動もまた、事態を複雑にするかもしれないとECMWFのデューベン責任者は言う。
「気候システムは劇的に変化しつつあります。北極圏の氷は突然消えました。パングー・ウェザーのようなモデルが何をするかは誰にもわかりません」。
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- メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
- MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。